第十章 平和?!③
今日は日曜日だったが、一哉は仕事に行っている。
一哉は、本当に有名人なのだ。
その枠は、ホストの域をゆうに超えている。
色々と、ホスト以外にもやるべき仕事はたくさんあるわけで。
いつも、あまり家にはいない。
あたしとポンは、いつも一哉の帰りを待つ役目である。
ピンポーン♪
はいはい。
誰だろ。
玄関ドアの穴を覗き見ると、誰の姿もない。
不思議に思い、ドアを開けた。
そこには……。
「安奈……」
「一哉は?」
「へ……出かけてるけど」
「じゃあ、あんたと話すわ。部屋に入れてくれる?」
「……」
安奈は、何事もなかったかのように可愛く顔を斜め横に傾けた。
安奈を、一哉とあたしの家に入れたくなんてなかったけれども。
あたしの返答など待たずに、安奈はドカドカと室内に入ってきた。
どういう神経してるんだか。
クスリ、やってる?
通常の状態で、頭おかしい?
あたしは、不本意ながらもコーヒーカップを二つ食器棚から取り出して、コーヒーを淹れる。
安奈は、ダイニングチェアーにまるで自分の家で寛いででもいるかのように座っている。
コーヒーカップを、安奈の前と自分の前に置いた。
ダイニングテーブル。
あたしと安奈。
「何で、一哉の家知ってるの?」
「探偵雇ったの」
は?
あっけらかんと、普通の会話をするように話す安奈。
いつもはちゃめちゃな子だという事は、知ってはいたけれども。
安奈はストーカーになるかもな、だなんて言う一哉の言葉を思い出す。
あれは、例え話ではなくて、今思えば本心で一哉が言った言葉だったのだ。
「だから、あんたがここで一緒に住んでる事も知ってるから、今更そんな事で驚いたりしないわ」
「はあ……」
じゃあ、何の用だというのだ。
本当に、何をしでかすか分からない安奈は……恐ろしく怖い。
「諦めたんじゃなかったの?」
「そんなに簡単に諦められたら、苦労しないわ。梨紗、人を本気で好きになった事ある?」
「……」
「ないでしょうね。だから、『諦める』だなんて言葉を平気な顔して使えるのよね。あたしはね。ずっと一哉が好きだった。あんたなんかが現れるずっと前からね。ずっと一哉に貢いできたの。ホストって分かってたから。可愛いだけの客なら、腐るほどいる。その中から秀でる為には、金を遣うしかなかった」
稼いだ金を全額貢ぐのだ、と一哉が言っていた言葉を思い出す。
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