ジョーイ・ギャロと村上宗隆。

中学生の頃である。
野球部だった私は、毎朝BS1で当時メジャー1年目だったシアトル・マリナーズのイチローの試合を見てから登校するという大変贅沢な朝を過ごしていた。
セカンドゴロすら内野安打にしてしまいかねない快足、巧みなバットコントロール、ライトからのレーザービーム。当時のイチローは今の大谷翔平ばりに、いやそれ以上に全世界の野球ファンを虜にしてた。
しかしそれ以上に私の心を掴んで離さなかったのが、初めて見るメジャーリーガー達である。


イチローがメジャーに来て初めて対戦したハドソン・マルダー・ジートのアスレチックス三本柱。イチローをもってしても簡単には打ち返せなかったヤンキースのクローザー、マリアーノ・リベラ。レッドソックスのペドロ・マルティネス。大きく曲がるカーブが武器の技巧派左腕インディアンズのクリフ・リー。すさまじいフォームで投げるエンジェルスのK-ROD。ツーストライクになると極端なオープンスタンスにバッティングフォームを変えるイチローの同僚三番セカンドブレッド・ブーン。滑らかなスイングでヒットと長打を量産した六番ファーストジョン・オルルッド。もう毎日投げてんじゃないかっていうくらい登板していたマリナーズのリリーフコンビ、右のジェフ・ネルソンと左のアーサー・ローズ。
もう名前を上げると際限なく出てくるのだが、中でも心奪われたのがメジャーの強打者たちである。
これでもかというほどのアッパースイングでピンポン玉のようにボールをスタンドへと飛ばすスラッガー達。
オリオールズのパルメイロ、レンジャースのブレイロック、アレックス・ロドリゲス。アスレチックスのジェイソン・ジオンビー、エンゼルスのティム・サーモン、ブルージェイスのデルガド、インディアンズのジム・トーミィ。
左打者が多いのは、私が左打ちだからである。
当時、「上から叩け!」「コンパクトに振れ!」とお題目のように野球部で言われてた私にとって彼らの存在は新鮮だった。
フルスイングでライトのイチローが一歩も動けないほどの特大ホームランに憧れていた。
彼らのように、思いっきりボールを遠くに飛ばしたい。ホームランを打ちたい。
私は監督に口うるさく「上から叩け!」「バットを下から出すな!」と言われてもアッパースイングで打ち続けた。
「上から叩け!」というのは位置エネルギーがうんぬんで上から下に叩けば強いエネルギーで強い打球が打てるとかいう理屈とか、ゴロを打てば相手が捕る・投げるの二つのプレーが必要なので、フライを上げた時よりエラーする確率が高いとかそういう理由だろうが


そんな野球つまらない。


アッパースイングでブイブイボールを飛ばす奴が大抵4番を打つし、「上から叩け!」の指示を忠実に守ったチームメイトは試合に出られなかった。
上から叩けと言われても「HAHAHA!」と豪快に笑い飛ばして無視するだろうメジャーの強打者達。
そんな私が憧れたスラッガーの系譜を継ぐような選手がそう、ジョーイ・ギャロなのである。


ジョーイ・ギャロ。
かつてダルヴィッシュ有投手が所属していたテキサス・レンジャースで4番を打ったり9番を打ったり、サードを守ったりレフトを守ったりセンターを守ったりしてる背番号13の右投げ左打ちの選手である。
195cm106㎏、ユニフォームの上からでも分かるほどの筋肉モリモリのソフトバンクの柳田悠岐を一回り大きくしたような選手で、

簡単に言うと、ヒットよりホームランが多く、三振も多いタイプのブンブン丸である。


2019年の夏くらいまでは珍しく(?)バットにボールがよく当たっていて、打率が3割近くをキープしとうとう覚醒したかと思われていたが、その後は安定した低空飛行を続け結局.253に落ち着いた選手である。だから9番を打たされたりもしている。
ただそのバットにボールが当たった時の衝撃はすさまじく、ソフトバンクの柳田がかすむ位ピンポン玉のようにボールを飛ばす選手である。Youtubeで「Joey gallo homerun」と検索すればそのすさまじいホームランが見られるはずだ。

MLB選手名鑑で見た時から注目していて、今年こそはメジャー定着と思われていた2016年に、打率.040という浮世離れした成績を残した事からこりゃダメかと思った翌年41本ものホームランをかっ飛ばして(打率.209 196三振)メジャーに定着した選手である。
更にその翌年の2018年にも40本塁打をかっ飛ばした(打率.206 207三振)
本来のポジションはサードだが、エイドリアン・ベルトレ―(イチローがいたマリナーズにもいた)がいたチーム事情から外野を守る事が多いのだが、巨体の割に俊敏でセンターも守れる上に肩も強い。マウンドに上がれば150km/h超を投げる。そんな器用な守備とは裏腹にバッティングは良く言えば豪快、悪く言えば大雑把である。


だがそこがいい。



今メジャーでは優等生タイプの選手が増えている。
大谷翔平を筆頭に、「全部スゴイ」タイプの選手だ。
そんな選手より私はギャロみたいなタイプの選手にワクワクする。
三振か、ホームランか。
私の憧れたメジャーリーガー。
数年前に「トリプルスリー」が流行語になって、プロに入るルーキーが将来トリプルスリーを達成したいみたいな事をいう選手が増えたけど


そんな選手一人か二人いれば十分なのである。


二刀流の大谷翔平や、トリプルスリーの山田哲人みたいな選手が出て、そりゃあ昔は夢物語みたいな事もできる選手もいるけれどそんな「何でもできる」「全部スゴイ」みたいな選手より、ギャロのような「三振かホームランか」みたいな選手や、ダイアモンドバックスのニック・アーメッドやレイズのキアマイヤーみたいな「守備はスゴイけど打撃はイマイチ」みたいな選手の方が見ていて個人的に楽しい。
今は「打てる捕手」がトレンドだけど、「打てても守れない捕手」が増えて(ヤンキースのサンチェスやツインズのガーヴァ―)昔のマリナーズのキャッチャーだったウィルソンみたいな選手が少なくなった。


キャッチャーは打率2割0分台でもいいじゃない。


それより防御率4点台前半に抑えられるのが「いいキャッチャー」である。
8番キャッチャーで打撃はあまり期待できないけど、たまに長打をゴツンと打つみたいなタイプのキャッチャーが私は好きだ。


今、高校野球で一人称を「自分」という選手が増えている。
阪神の藤浪や日本ハムの清宮なんかがその筆頭だったのだけど、どうにも自意識過剰な気がしてならない。
「自分はすごい」「自分ならトリプルスリーを達成できる」「自分のプレーでチームを導きたい」「自分のピッチングができなかった」「自分のバッティングをさせてもらえなかった」「自分」「自分」「自分」…
一応「チームを勝利に導きたい」とか言ってるけど、彼らの頭の中には「自分」しかなく、まるで周りの選手や相手チームの選手が「自分」の引き立て役と信じて疑わないみたいだ。世界は「自分」中心に回っている。
はっきり言って、今の球児たちは私達の世代の球児達より上手い。
すごいし上手いから野球の怖さを知らないまま育ってしまった選手が多くなっている気がする。
あの構えた手をプラプラ遊ばせてるバッティングを続けているようじゃ、プロ入りする前は王さんの記録に挑戦するとか大きな事を言っていたけれど清宮はレギュラーすら取れそうもない。この点だけは張さんの「手をビシっと構えないとダメ」というのに同意する。
気持ちいいバッティング・気持ちいいピッチングを続けて来た選手は脆い。
その点去年新人王を獲ったヤクルトスワローズの村上宗隆の一人称は高校時代から「僕」だった。
九州学院で一年生からレギュラーを獲り、甲子園にも出たのだがその後はチーム事情でキャッチャーをこなし、キャプテンもやり、最後の夏熊本県大会の決勝で敗れ甲子園を逃しても、涙する二年生エースの肩を抱いて励ましてる姿が印象的だった。
そういう選手は強い。
サードの守備はエラーも多かったし三振も多かったけど、長打力不足のチームにおける自分の役割を分かっているからこそ当てにいかず去年一年間「三振かホームランか」のバッティングを貫けたのだと思う。
「球界のご意見番」張さんには「手直し」とかいって余計な事をしないようにしてもらいたい。今はもうあなたの時代とはバッティングの理論も投手が投げる球も全然違うんだ。
今年は四番に座り、開幕から打ちまくってる村上。
これから開幕を迎え今年も三振とホームランを量産するだろうジョーイ・ギャロ。
日米2人のスラッガーの活躍と特大ホームランを、今年も私は楽しみにしている。


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