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  • 【シリーズ連載】監禁少年

    【シリーズ連載】監禁少年 の記事をまとめています。 〜毎週日曜日 20:00更新〜 月ごとにストーリーが変わります。 毎月違う少年に出会えるかも?

  • 手癖

    手癖とは無意識に出力された愛なのかもしれない?

最近の記事

【シリーズ連載】 監禁少年 #5-4

稽古の続く日々、気の張りつめた和室の厳粛さにはそぐわぬアンバームスクが、ふとただよってくる。 どこか懐かしいその香りに驚き振り返ると、姉が天窓に手をかけてわたしの作った花冠を手に取っていた。 久々の姉との邂逅に戸惑い、たじろう。 自らを曝け出した”作品”をまじまじと鑑賞され、心のうちを見透かされた気分になり羞恥から耳朶に熱が帯びる。 姉は隣に腰掛けて、わたしに花冠を持て上いだ。 姉のかかげた手首からは竜涎の香がにじみ、生花の澄んだ香りに混ざって、幼少期の記憶のなかの

    • 【シリーズ連載】 監禁少年 #5-3

      哺時にかかって稽古場が薄暗く陰る。揚げられた花は決まり通りに挿さったままどこか悲しげに床の間の隅へ追い遣られ鎮座している。 不甲斐も遣る瀬もない自律が衝動に掻き立てられ、生けた花々を花器から引き抜いた。剣山から開放された花を並べる。 本当にわたしがつくりたい作品。 在るが儘にさき誇れる姿をみてほしい。 ばらばらの花を月桂樹の枝に結いつける。 祈りを紡ぐように夢中になって編んだ花は冠を模した。 真の強さと純潔な愛。 輪をえがいて湾曲した寒菊と撫子の編まれた花冠は恋

      • 【シリーズ連載】 監禁少年 #5-2

          長男坊である私は幼い頃から襲名に向けて苛烈なまでに華道の技術を叩き込まれ、それ以外の全ては選択の余地すら与えられなかった。 躾の中で、 男なのだからなよなよとした趣向はなくせ、 男らしく生きろと日頃抑圧された。 生花はあくまでも 「一族の権威の象徴」 の用途だと言いつけられた。 対照的に放任に育った姉は、華美な格好を着こみ心ゆくまであで姿を纏って悠々自適に過ごしている。 自由な姉と不自由な私。 華道に生まれ生きゆく事に後悔はないが、 在りたい姿のままに飄々と

        • 【シリーズ連載】 監禁少年 #5-1

          話し声ひとつ聞こえない静寂と几帳面に編まれたい草の香りに包まれて、花合羽から一輪の百合をつまむ。 清らかな花弁を慈しむ時間だけは、わたしは自由でいられる。 わたしは室町から代々続く生け花の家元に生まれた。 物心ついた頃から花があふれた生活で、伝統と格式に蝕まれた華のない日々を過ごす。 決まり通りに挿すことで大人たちには賞賛される。 そこには”らしさ”などは求められず、それが正しいことだと厳しく躾けられてきた。 稽古を終えて生けられた”作品”を見る。 剣山に突き立

        【シリーズ連載】 監禁少年 #5-4

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        • 【シリーズ連載】監禁少年
          14本
        • 手癖
          3本

        記事

          【シリーズ連載】 監禁少年 #4-4

          暴力を受けることが生きている実感に結びつくようになるまで、そんなに時間はかからなかった。 僕に優しい彼は、僕が外の世界で傷付くことを許さないと同時に、僕が外の世界に出ようとするのも許さなくなってしまったのだ。 1人で生きようとすると怒られる。 まともになろうとすると殴られる。 そして最後には必ず 「こんな事してごめんね。」 と謝るのだった。 冷たい箱の中。 誰からも求められず刺激のない日々。 生きているのか死んでいるのかすらわからない毎日。 そんな中で唯一暴力

          【シリーズ連載】 監禁少年 #4-4

          【シリーズ連載】 監禁少年 #4-3

          彼は僕が話したくだらない事をよく覚えていた。 太陽の光が好きなこと。 花が好きなこと。 ギターを弾くのが好きなこと。 ゲームをやるのが好きなこと。 菓子パンが好きなこと。 オレンジジュースが好きなこと。 2人で歩く学校からの帰り道が好きなこと。 ホラー映画が嫌いなこと。 ピーマンが嫌いなこと。 炭酸が嫌いなこと。 高い所が嫌いなこと。 早起きが嫌いなこと。 ひとりぼっちが嫌いなこと。 そして 暴力が嫌いなこと。 部屋にある履歴書を見つけた彼は 違う人間のようだった。

          【シリーズ連載】 監禁少年 #4-3

          【シリーズ連載】 監禁少年 #4-2

          人間とは、どれだけ恵まれていようとないものねだりをしてしまう生き物である。 いつも同じ窓からの景色。 いつも同じ天井。 いつも同じ時間に帰ってくる彼。 昨日も今日も、 きっと明日も明後日も、毎日、毎日、毎日。 「このままじゃダメだ」 口を衝いて出た言葉は、 いつもと同じ部屋に溶けていった。 徐に携帯を開き、求人サイトを見る。 今は彼の手の内にある、僕の生活。 握られている、人間としての生活。 その手から、離れてみようと思った。 バレたらきっと怒られてしまう。

          【シリーズ連載】 監禁少年 #4-2

          【シリーズ連載】 監禁少年 #4-1

          部屋の出窓に腰掛け、癖のようにギターを触りながら外を眺めていた。 どうしてこんな風になってしまったのだろう。 どこから間違えてしまったのだろう。 なんて、答えの出ない疑問に思いを馳せながら。 幼馴染の彼とルームシェアをし始めてから5年。 所謂ブラック企業に勤めた僕は、 精神を苛まれ1年足らずで退職してしまった。 そこからだ、 おかしなことになってしまったのは。 彼は献身的に面倒を見てくれた。 それこそ此方が心配になる程丁寧に、大切に、悪く言えば、過保護なくらいに。

          【シリーズ連載】 監禁少年 #4-1

          手癖 #3

          手癖 #3

          手癖 #2

          手癖 #2

          手癖 #1

          手癖 #1

          【シリーズ連載】 監禁少年 #3-4

          おだやかに澄む白日を分厚いセメント壁が遮断して、篭ったモーター音が窓の向こうの百舌鳥の高鳴きを掻き消している。 天井の一点にどろりと視線を据える彼に手を伸ばす。 そっと触れてもデイベッドに体を預けたまま微動だにしない。 糸の切れた傀儡のように、追憶のなかの彼の心肝も切れてしまったみたいに。  品良く落とし込まれた口もとからふっくらとした福耳にむかって撫ぜてゆく。すべらせた指先がこめかみにはめこまれた電磁波パッチをかすめる。 少しの迷いのあと、 温かさをうしなった粘膜

          【シリーズ連載】 監禁少年 #3-4

          【シリーズ連載】 監禁少年 #3-3

          ___至上の幸福とかけまして開封済の牛乳と説きます。その心は? 彼の手からマグカップが滑り落ちる。 床に倒れこんで動かない彼に駆け寄る。 異常なまでの心拍数。 うっすらと開いたままの瞼はぴくりとも動かない。 彼の中でシステムエラーが起きている、 とすぐに気付いた。 同時に名前も知らない教授の怒声が反芻する。 彼は処分に値する失敗作だ、と。 まっさらなスウェットの隙間から電極が覗く。ちかちかと点滅する光が容赦無い現実を突きつけてくる。 機械に制御された肉体をベッド

          【シリーズ連載】 監禁少年 #3-3

          【シリーズ連載】 監禁少年 #3-2

          「牛乳がのみたい」 唐突な要望にぽかんとする私をよそに、冷蔵庫の牛乳パックを直に煽ろうとしたので、慌ててその手を取り上げて注いであげる。 マグカップの底で、僅かに違う白色がまどろみあう。 はい、と渡してやれば彼はゆっくりとこちらを見つめて牛乳を口に含む。 ひんやりとした瞳に飲み込まれそう。  彼の虚ろなまなざしを覆っていた艶やかな睫毛がゆっくりまじろう。 「ああ、思い出した…昔はよく、夕方帰り際の売店でちっさい牛乳買ってふたりで飲んだよね…早く帰らないと怒られるって

          【シリーズ連載】 監禁少年 #3-2

          【シリーズ連載】 監禁少年 #3-1

          研究棟の廊下には強く西陽がさす。 ふと、幼い頃の記憶が蘇った。5時の鐘がなり、かえりたくないと駄駄を捏ねた自分に、明日も会えるよとなだめる君。 今となっては所在すらしれない彼は今何をしているのだろうか。今もどこかで私のことを覚えているのだろうか? 所詮思い出は思い出だ、とため息交じりに俯く横目に人影が吹っ飛んできた。 …人? 思わず見覚えのある顔貌を凝視した。 間違えようがない、恐ろしく均整に配置された相貌、左頬の黒子、すっかり大人の躰を得た彼は、あの頃と変わらぬかん

          【シリーズ連載】 監禁少年 #3-1

          【シリーズ連載】 監禁少年 #2-3

          2人きりの時間を手にしてしまった私は 自分の所有欲に抑えが効かなくなっていた。 でもそれでもいいと言う自分もいて、 それがなお欲に拍車をかける。 もう、とことこん行けるとこまで… 始めは冗談のように言ったつもりだった。 始めてしまうともう止まらなかった。 束縛とは違う、目に見える独占欲が 彼に絡みつく。 あの頃も最初からこうしたらよかったのだろうか。まだ一緒にいられたのだろうか。 彼を縛りつけながら涙を流していた。 心配そうに「どうしたの?」なんて聞いてくる そ

          【シリーズ連載】 監禁少年 #2-3