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真似ると危険? 鵜呑みにしてはいけないネット上の漫画業界"神話"とその理由 【鈴木重毅×吉田尚記(よっぴー)】

こんにちは。ナンバーナイン取締役CXOのころくです。

去る11月17日(金)に、DMM.comさんとともにナンバーナインと関わりのある漫画家さんを中心としたクリエイター交流会を開催しました。

その交流会のコンテンツの一つとして、漫画家さんたちから寄せられたお悩みや相談にお答えする「リアル漫画家お悩み相談室」を実施しました。今回はそのトークセッションレポートの後編です。
※前編は以下よりお読みください

ものすごく直球な質問が多かった前編ですが、後編も「ヒット作の作り方」や「漫画家としてのモチベーションの保ち方」といったストレートな質問が飛び交います。

はたしてしーげるさんとよっぴーさんからどんな言葉がかけられたのでしょうか。前後編で2万字を超える長編レポートの後編をお楽しみください。


*   *   *


吉田尚記氏(よしだひさのり、以下、よっぴー)
これはちょっと踏み込んだ質問かもしれないんですけれど、たとえば編集長をやってらっしゃると、どの編集者がどの作品を担当するかについては基本的に編集長がお決めになるわけですか?

鈴木重毅氏(すずきしげき、以下、しーげる)
そういうことが多いかと思います。

よっぴー
そうすると、「編集さんがその人の作品を本当に好きなのかどうか」といったところって見ますか? その編集さんがすごく好きな作品だったら、たぶん一緒に一生懸命になってくれると思うんですけれど、そこが「実は違うんじゃないか」というミスマッチが起きる場合はどうするのかなと。

しーげる
ちょっとややこしい話になりますが、担当者を決める時に編集者がその作品を好きかどうかはあんまり見ていなくて、熱意があるかどうかで見ます。編集がその作品を「好きかどうか」で決めてしまうと、やっぱりすごく偏るんですよね。だからその作品についての編集者の思い入れは事前に聞かないようにしていたし、見てもいません。それよりも、その漫画家さんに対して熱意があるかどうかが大事です。

よっぴー
僕の身近な例でいうと、ラジオのパーソナリティーとディレクターの関係って、編集さんと漫画家さんの関係にすごく似てるなと思う瞬間が多いんです。番組の担当者を決める時には、「やる気のあるディレクター」が最も重要で、別に「俺のこと好きである必要はない」というのが、感覚としてすごくあるんですよ。あくまで感覚的なものかもしれませんが。

(質問を眺めながら)やっぱり編集者との関係の質問がすごく多いですね。

【質問】 「今の担当編集者と相性がいいのですが、いずれ来る担当替えが怖いです」

という質問や、

【質問】 「新たな編集さんとやっていくにあたって、どんなことに気を付けたらいいですか」

とか、

【質問】 「作家と担当さんの表現したい方向性が違っていて、どうしても交わらない場合の妥協ラインがいまだにわかりません。担当さんを信じてそちらに寄せすぎてしまうと、確かに無難で売れ線ではあるけどどこか危機感があったりして、結局インパクトが残らないということはよくあります。 
 とはいえ、自分らしさ、自分のやりたいことを押し通すと、独りよがりな作品になる可能性もあります。『誰もやっていないことがいい』となることと、『誰もやっていない=売れない』になることがあり、そのさじ加減も難しいなと感じることがあります。目新しくておもしろい作品にするためには、どうしたら良いのでしょうか」

このあたりでしょうか。最後の質問と最初の質問をあえてくっつけて考えますと、編集さんと仕事をする理由というのは、いい作品を作るためですよね。

漫画家さんは、編集さんとその場で仲良くするために漫画を描いてらっしゃるわけではありませんし、先ほどおっしゃったように編集さんは編集さんで、漫画家さんよりも読者の情報や読者から返ってくるリアクションをたくさん持っている。

そうすると、編集さんとしては「こういうのはどうですか」と漫画家さんに提案することも当然あると思うんですけれど、その時に納得がいかない場合はお互いどうなさるんでしょうか。

しーげる
まず編集側の立場で言ったら、本来は漫画家さんに納得してもらえるまで、いっぱい案を出すべきなんです。

たとえば編集がひとつ提案をして、それを漫画家さんが「受け入れるか受け入れないか」みたいな話を聞くんですよ。僕にとって編集者というのは、漫画家さんが「それすごくいいですね!」と言ってくれるまで意見を出し続けるのが仕事だろうと考えているので、こういう質問が来るたびに、その編集者が「よくわからんな」と思っちゃうんですよね。

よっぴー
たとえばですけれど、部下の編集さんが「こうやって描いてくれると絶対いいと思ったんです。でも漫画家さんが言うことを聞いてくれないので、無理やり聞いてもらって描いてもらいました」みたいなことを言ってきたら。

しーげる
ちょっとお話にならないですね。ただ漫画家さん側も、編集者に言われたまま全部やるのか、まったくやらないのかの二択になっちゃうのは惜しいんです。編集からの指摘を受けて、「何を期待されているんだろう」「何をクリアするべきなんだろう」と、できるだけ問題点を分解して考えるようにしてほしいんですよ。

さっきも言いましたけれど、編集の意見を解釈して、編集の好みの案に枝葉がくっついたものを「全部やらないといけない」なんて思う必要はそれほどありません。「何を要求されているのか」という根本だけ掴んでくれればいいと思うんです。

変な話ですけれど、 よっぴーさんも上司の方に「吉田、これこれこういう新番組やれ」と言われて全然興味ないものを振られたとします。その時によっぴーさんが、その番組に対して「何か新しいジャンルなり文化をこのラジオ局に持ち込めってことだろう」みたいに解釈をして、自分なりに何を要求されてるかを受け取って返した答えが相手の要求を超えてればオッケーだと思うんですよ。

よっぴー
作品づくりの方向性が平行線の段階では、まだ漫画制作に手を出すべきじゃないってことですよね。

平行線がなくなってお互いに納得のいく対策が取れるようになったり、漫画家さんが「僕はこのアイデアを考えたんですけど」と伝えて、編集さんから「それいいですね!」となったりしてから描き始めよう、と。

しーげる
その通りです。だから先ほどの質問に対して正直に言うと、その段階で二択のどっちかを選ぶのではなく、編集と話し込んでクリアすべきことを絞り込むということの方が重要な気がします。

真似ると危険? 鵜呑みにしてはいけないネット上の漫画業界神話

よっぴー
昔、『進撃の巨人』(講談社)の担当編集だった川窪慎太郎さんにお話を聞いたことがあるんですけれど、諫山創(いさやまはじめ)先生が最初に持ってきた作品がかなり面白かったと。

でも、何話目かの引きが弱かったんですって。なので、「この引きだけもうちょっと考えてみましょうよ」と諫山先生に伝えたら、川窪さんが言ったアイデアよりも倍ぐらい面白くなって返ってきた。この時、川窪さんは「いける!」と思ったそうです。

編集さんからすると、「引きが弱い」という指摘は、自分の価値観にかけて間違いないわけですよね。それに対して、納得して「だったら引きをより強化しよう」と、倍の高さで指摘を超えてきた諫山さんがすごかったということですよね。こういうことが起きるのが理想的な関係なんでしょうか?

しーげる
理想なんですけれど、それはある種の「神話」ともいえます。その「神話」を信じすぎている人がいて、その「神話」の背景や説明をはしょられると、今回いただいたご質問のようなことが起きてしまう。

たとえば『進撃の巨人』のケースだと、おそらく編集の側から「これは絶対に歴史に残る作品になるので、それを達成するためにも、この一話の中でものすごい引きをつくって終わりたい。その引きはこういうイメージなんです」といった形で、言葉で具体的にちゃんと伝えているから、作家さん側も「よし、それを絶対超えてやる!」みたいな話になったはずなんです。

でもこれが「編集の提案を超えた諫山さんがすごい」という風に話が飛躍して、「編集の提案を超える漫画家がいい漫画家、編集の提案を超えてこない漫画家はダメな漫画家」みたいな感じになり、最終的に「漫画家に何も提案してない編集」といった問題へ繋がったりする。

そういう意味で、過去の成功エピソードを神話化しちゃうのは良くないなと。

よっぴー
それはつまり「マジックみたいな神話に惑わされるな」というのも重要だということでしょうか。

しーげる
そう。それも重要です。そんなこと簡単に起きないじゃないですか。

よっぴー
たしかに、噂話はいっぱいありますからね。そして、「つくる」ということに関しては、漫画家さんと編集さんとで、意味のある打ち合わせをしてから作り始めるのが肝心と。

で、作っている最中は「自分の好きを貫き通す」ということでいいと思うんですが、最終的にみなさんが目指すのはこれだと思うんですね。

【質問】 「ヒット作のつくり方。ストレートに漫画のヒットに必要な要素を知りたいです」

というのと、

【質問】 「少女漫画など女性向け作品で1000万部を超える大ヒットを目指すなら何が必要だと思いますか」

という二つの質問について、いかがでしょうか。

しーげる
少女漫画に限らずだと思うんですけれど、「大ヒット」ということはものすごくたくさんの人が読むってことですよね。でも1000万部という数は、とても想像ができません。

日本には1億部超えの作品も25〜6作ぐらい(※)あるはずなんですが、それもまた想像つかない数じゃないですか。ですから基本的には、「なるべくハードルが低くて、誰が読んでもわかりやすい」というのがまず絶対条件なわけです。
※編集部注…2024年1月時点では19作品

とはいえ、さっきも言ったように、1億人が読みそうなものというのは、事前には全然わからない。じゃあどうするのかというと、「創作の原点」はあくまで個人的なものだと思うので、ちゃんと自分に刺さる、 誰か1人に強く刺さるものがベースになってなきゃいけないと思っています。

あと昔、『となりの怪物くん』の作者・ろびこさんに、「僕から言われた中で、一番忘れられないひと言」を教えてもらったことがあります。

それは「自分にしか描けないことを、誰にでもわかるように描きなさい」という言葉でした。

「なんか受けなきゃ」とか、「編集の提案に乗らなきゃ」とかいろいろ悩みすぎていくと、かなりの数の作家さんが「誰にでも描けるものを、自分にしかわからない描き方で描く」みたいなことに陥りやすいんですよね。でも順番としては、「自分にしか描けないものを、誰にでもわかるように描く」という順にしておいてほしいなと。

漫画がメガヒットするために必要な、「読み筋」の提示

よっぴー
以前、集英社の浅田貴典(あさだたかのり)さんにお話を聞いたことがありまして。過去にジャンプ編集部で『BLEACH』(久保帯人/集英社)や『ONE PIECE』(尾田栄一郎/集英社)を担当されていた方で、「生涯に2億部の単行本を売った」と周りの方がおっしゃっていました。

その方が、「おもしろい作品は(今しーげるさんがおっしゃったようなことを透徹すれば)できる。ただ、その中からどれが選ばれるかは分からない」と話してらして、説得力があるなと思ったのですが、そのお話と同じ感覚でしょうか?

しーげる
同じなんですけれども、さらに考えられることというか、必要な要素がありまして。それは、「次に何を追っていけばいいのか」ということです。

つまり「この漫画に対する期待を、どこに持てばいいか」というのが、作中でわかりやすくセッティングされていることが、非常に重要なんです。

よっぴー
そのお話をもうちょっと掘り下げていただくと。

しーげる
普段、みなさんが映画やドラマとかを観る時に、役者が好きか、もしくはこの展開がどうなるのか、のどちらかに惹かれて観ることが多いと思うんですけれど、僕はそれを「読み筋」と言っていて、これが見えているか見えてないかで、作品の出来がかなり違ってしまう。だからこそ、「何を楽しみにこの作品を追いかけていけばいいのか」という「読み筋」が、 すごく重要だなと思っています。

たとえば『ONE PIECE』であれば「海賊王に俺はなる」で、「どうやって海賊王になるのかな」と読者は考える。その読み筋が最初に提示されていて、それはすごく高い目標だけれども彼らが魅力的な仲間をどんどん集め出すので、「きっとどんどん仲間を集めていつか海賊王になるんだろうな」となっていく。

そういう風に「物語を追っていく先」を想像できると、人はすごく引き付けられやすいし、結果を知りたくなるわけです。なおかつキャラクターも好きになってくると、やっぱり好きな人がどうなるんだろうとか見守りたくなるので、ずっと観ることになっていきます。

よっぴー
具体的に伺うと、今までのご自分の担当作で「読み筋がうまく作れたな」と思った作品や、「作れたな」って思った瞬間はどういう時ですか? 

しーげる
これは月刊誌の場合ですけれど、一巻目の中で「こういう話だ」とすごくうまく提示できた時に感じますね。自分の担当作の中では、タアモさんの『たいようのいえ』(講談社)が挙げられます。

年の差・幼馴染の話なんですけれど、お互いにの仲の良かった実家が今はそれぞれ崩壊しちゃっていて、それでも互いに「相手の家をなんとかしてあげたいと思い合う」っていう仕組みができました。

なおかつ、人間関係として「ダブル三角関係」というのをずっとやりたかったんですけれど、それもすごく綺麗にできて、その点では『たいようのいえ』が一番上手くセッティングできたと思っています。

よっぴー
それはやっぱり「読み筋」というか、「これはこうやったらきっと読者はこういう期待をして、この先のページをめくってくれるだろう」という風に実感できたと。

しーげる
そうですね。あともう一つは「対立軸」です。作中で対立関係が解消していくという展開は、少年漫画などではすごくわかりやすくあると思うんですけれども、恋愛を描いた少女漫画でも結構ありまして。

また別の作品ですけれど『好きっていいなよ』(葉月かなえ、講談社)という、僕の担当した作品の中で最も売れて、唯一1000万部を超えた作品では、主人公とそのライバルである女の子との間に、ものすごくはっきりと強い対立軸ができました。主人公にとっての「試練の相手」というのはとても大事な気がします。

よっぴー
「読み筋」を作るときのコツとして、「対立」というのもすごく王道なんですね。さて全体で見ていると、「こういう質問も多いな」というのがこちらです。

【質問】 「深刻です! 1年くらい連載の企画のやり取りをしているのですが、形になりません。編集さん的には『もう諦めればいいのに』と思われたりするんでしょうか。まだ描きたいと思うものの、最近では編集さんに連絡を取るたび、辛い気持ちになっています」

という方とか、ほかには、

【質問】 「長年漫画を描き続けていて、自分の漫画を描くことへの新鮮さが薄くなって少しマンネリを感じています。漫画のモチベを試すために担当作家さんに言っていたことや、本質的にどうしたら良いのか、何かありましたら教えていただけると幸いです」

ですとか。あとはですね、

【質問】 「漫画家としてやっていくための志の持ち方についてお聞きしたいです。楽しくお仕事をさせていただいているものの、モチベーションや目標がずっと持てておらず、この状態でずっと仕事を続けられるのかな、とたまに不安になってしまいます」

ということで、作家さんの目標やモチベーションの例。つまり、続けないと仕事にできないわけです。

創作のモチベーションとはどうやって保つのか、そして出すのかについてはいかがでしょう?

しーげる
一つ目の質問がすごく具体的だったので先にお答えすると、連載の準備は本当に命懸けで「これを絶対成功させたい、描き切りたい」時に1年くらいかかるのは、そんなに珍しくないことです。

特に、作品が大事であればあるほど掛かってしまう。僕が今やっている、森下suuさんとやまもり三香さんという売れっ子のお二人でも、新作の準備に8ヶ月から10か月ぐらいかかっています。

よっぴー
バリバリの第一線級の方でもそうってことですよね。

しーげる
はい、わりとありえると思いますよ。だからあんまり焦る必要はないし、 申し訳ないと思う必要もない。連載というものは、最初の一話、二話をベースとして、より大きな物語に膨らましていかなきゃなりません。

最初の解像度が高くないと後で困ってしまうので、何度も何度もやり直して一番いいスタートを切る。そして、一番いいキャラクターは誰なのかを突き詰めるために、キャラクターオーディションをしたり、キャラクターデザインを何度も変えたりしながら、一番可能性が高そうな形を探っていくことになるので、時間が掛かって当然だと思います。焦る必要はありません。

よっぴー
とはいえ、はたから見たら「1年間、世の中に何も発表していない」みたいに見えるかもしれません。その間にメンタルというか、モチベーションを保つ方法が何か必要な気もするんですけれど、それはどうしたらいいでしょうか?

連載準備の期間が空いて不安になる漫画家さんに一番おすすめな時間の使い方とは

しーげる
もしお金的に心配でたまらないというのであれば、 読み切りでもいいし、ショートスパンのシリーズをやる余力があるのであればやってもいいと思います。

あとは「ずっとアシスタントを雇う側だったので、連載準備中にアシスタントをやりたい」という方もいて。そういう方はお金も心配だし、アシスタントをやる側に回ってみて教わりたいとか、アシスタントへの依頼のし方を学びたいというタイプで、それは意外といい方法じゃないかと思います。

漫画の話をできる相手と仕事をして、漫画の現場から離れるわけでもなく、次に連載をする時のためにより良いアシスタントさんとのやり方も学べる。なんなら背景の練習にもなるし。なので、連載準備の期間が空いちゃって不安な人は、それが一番おすすめな気がしますね。

よっぴー
この会場には漫画家さんだけでなく、中には原作を作っている方もいらっしゃいますが、そういう方はアシスタントさんをやるわけにもいかないですよね。その場合はどうしたらいいでしょうか?

しーげる
原作の人は難しいですね。でも、原作の人はどんどん書くのが一番おすすめです。

漫画家さんのように「絵も描かなきゃいけない」わけじゃない。逆に言うと、「描き手が見つからないと漫画にならない」苦しみはあると思うんですけれども、ただ、絵まで描く必要がない分、量は書けると思うので、量を目指していく方がよさそうです。

さっきイベント会場に来て最初にお話しした方が、「原作を同時に3本やられてる」なんておっしゃっててすごいなと思いましたけれども。原作の方はそうやって、量をキープできるといいのかなっていう気がします。

ベテラン編集者も唸った、長く一線で活躍する漫画家の底知れぬ好奇心

よっぴー
話が少し戻りますが、「具体的にモチベーションを保つコツ」については、他にはどんな方法が?

しーげる
基本的に一番いいのは、やっぱり「刺激を受けること」だと思います。アシスタントをやるというのは、新しい体験をすることなわけですよね。漫画家さんにとって一番大事なのはとにかくそれに尽きます。

いい漫画を読むでもいいし、「漫画を読むのが今はきつい」という方がいれば、映画でも芝居でもいいし、旅行でも美味しいものを食べるでもいいし、ダイビングをやるでもいい。とにかく何でもいいんですけれど、何かしら刺激を受けることが非常に重要な気がしますね。

だから僕が一時期やってたのは、変な言い方ですけれど「パトロンごっこ」というのをやっていました。

担当の漫画家さんに「俺にパトロンの真似事をさせろ」と言って、僕が用意したお芝居やいろんなエンタメを、「あなたが好きかどうかではなく、僕がいいと思ったものを片っ端から用意するから全部見ろ」と連れ回して、「世の中にはこんな一流の人たちがいる」っていうのをいっぱい感じてもらおう、と。そうするとやっぱり刺激になるのかなと思ったんです。

よっぴー
そうしたらきっと漫画家さん自身も、「あ、これを生かして何かを作りたい」と思うであろう、と。

しーげる
そうなんですよ。作品に生かすパターンもあれば、仕事の仕方が浮かんだり、キャラクターとして分解して使う時もあったりで、さまざまなケースがあります。

よっぴー
やっぱり第一線で長年活躍している漫画家さんというのは、もう大体貪欲というか、「新しいものがあったら見せろよ」みたいになる人が多い。

しーげる
長く活躍できる人って、たとえば昨日まで徹夜でフラフラな状態だった時に、「1日ぐらい休んでいただいて、明日の打ち合わせにしよう」と、翌日会う予定に変えるじゃないですか。そうすると、その休みの1日で、封切ったばかりの映画を観てたりするんですよ。

「これ観たんだけどどう思いました?」とか聞かれて、「えっ! 寝てたんじゃないですか」「いやいや、こっちは全然観れてません」みたいなことになる。すごい速さなんですよ、その好奇心の発揮の仕方が。

よっぴー
それは本当に似てますね。僕らもラジオのパーソナリティーとして「昨日と同じことをするな」とめちゃくちゃ言われるんです。それも、すんごいでっかいことじゃなくてもいいんだと。

「たとえばいつも入っている店の隣の店に入ったことはあるのか。それだけでも違うぞ」「ほっとくと人間は同じ店に入っちゃうぞ」「買ったことない雑誌を買ったことあるか?」とか、上司からは「1日1個でいいからやれ」と言われてきました。

しーげる
それもおもしろいですね!

よっぴー
「会社に同じ道を通って来るな」とも言われました。でもまぁ、それはそうだろうなっていうのは、20数年続けてきて確かに思うことではあります。

人生は人それぞれまったく違う。だからこそ、すべての漫画家さんに知ってほしい才能の話。

さて、そろそろお時間も差し迫ってきましたね。今日一番真理だなと思ったのは、「自分にしかわからないことや、自分だけがいいと思うことをみんなにわかるように伝える」ということ。

これが真理だったと思うんですけれど、「自分だけにしかわからないことなんてないよ」って思っちゃったらどうするのでしょう。そもそもそんな人はいないですか?

しーげる
おそらくそんな人はいません。だって、人生はそれぞれがまったく違うわけじゃないですか。この会場にいらっしゃるのは、全員が漫画家さんですよね。だけど、服装も全然違うし、みんな何かが違う。

だから、これも口癖のように言い続けているのは、「人が変わるとドラマは変わる」ということです。人間あるいはキャラクターが変われば、もうその瞬間から違う話になるんですよ。そして、違うことは全部貴重なんです。

誰かと比べることではなく、あなたが大事にしていること、あなたが知ったこと、それらはすべて貴重なことなんですよ、と。だから、「この程度の体験はあんまり勝負にならないんだろうな」などと思う必要はありません。

よっぴー
言い方を変えてみると、鈴木さんから見た場合に、おもしろい漫画を描ける可能性はすべての人が持っていると。才能があるかないかなんて、そんな悩み方をする必要が実はほぼない、ということでしょうか?

しーげる
才能あるじゃないですか。 漫画を描けるんですよ。漫画を描けるってすごいことです。僕、1回描こうとしたことがあって、まったく描けませんでした。

よっぴー
あー、なるほど、もうここにみなさんがいらっしゃっている時点で。

しーげる
はい。普通の人は漫画を描けないんですよ。才能があるから漫画を描けるんです。それをちょっと思い出してほしいですね。

よっぴー
実作にたどり着いた方で、そこに悩む理由はもうないぞと。ちなみに、実際にものすごく売れている方で、そこに悩んでる方っていたりするんですか?

しーげる
もちろん、「これだけ売れちゃって、次回作も期待されている以上のものが描けるのか」という悩み方をしている人はいっぱいいます。ただ、才能があるかないかはあまり気にしてないんじゃないかと。「もっとすごいものを描きたい」みたいな欲はあるとしても。

よっぴー
じゃあそれよりは、「本当に自分だけがいいと思うものを探す」という第一歩がすっと踏み出せれば、あとは丁寧に論理的に作品を作っていくことができる、と。

しーげる
できると思いますけどね。

よっぴー
ありがとうございます。最後になりますが、実は、今日のお話のかなりの部分は、しーげるさんの初著書『「好き」を育てるマンガ術 少女マンガ編集者が答える「伝わる」作品の描き方』(フィルムアート社)に書いてあります(笑)。

そして僕は、さっきもちょっと言いましたけれど「マンガのラジオ」というpodcastをやっております。個人的に単に漫画が好きで、漫画家さんのお話を聞いていまして、むちゃくちゃおもしろいです。

おすすめは、『青野くんに触りたいから死にたい』(講談社)の椎名うみ先生の回と、あと『妻と僕の小規模な育児』(講談社)の福満しげゆき先生の回が、まんま作品どおりで面白かったです。ぜひぜひお聞きいただきたいと思います。

じゃあ最後に、しーげるさん一言お願いします。

しーげる
ここまで、ありがとうございました。最後にも言いましたけれど、ここにいらっしゃるみなさんに才能があると思っていて、もったいないことでつまずいている方が多いなとも感じるので、それを乗り越えて頑張っていただきたいなと思っています。

もう一つ言うと、ベテランの漫画家さんたちが口を揃えて言っているのは、漫画というのは描き続けられている人が偉くて、描き続けていれば絶対に誰かが見つけてくれるということ。そうおっしゃっていますので、何があってもぜひ漫画を描き続けていただきたいです。

よっぴー
しーげるさん、どうもありがとうございました!

(トークセッションおわり)

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