見出し画像

「編集者の当たり外れの見分け方」漫画家からの直球質問に、累計4000万部超え少女漫画編集者の回答は?【鈴木重毅×吉田尚記(よっぴー)】

こんにちは。ナンバーナイン取締役CXOのころくです。

2023年11月17日(金)に、DMM.comさんとともにナンバーナインと関わりのある漫画家さんをお招きして交流会を開催しました。

ナンバーナインでは、2020年から毎年開催している漫画家ミライ会議という漫画家さん向けのトークイベントを主催していますが、昨年はオフラインでみなさんとお会いするイベントに形を変えての開催でした。その名も、漫画家ミライ<オフ>会議です。いわゆるオフ会みたいなものですね。

ご参加いただいたクリエイターは150名以上。おかげさまで大盛況のうちに交流会を終えることができました。その盛況を支えてくれた要因の一つとして、特別トークセッションがあります。

特別トークセッション「リアル漫画家お悩み相談室」

今年ご出演いただいたのは、スピカワークス代表の鈴木重毅(すずきしげき)さんと、ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記(よしだひさのり)さんのお二人です。

鈴木さんは、『好きっていいなよ。』(葉月かなえ/講談社、累計発行部数1000万部超え!)をはじめ、『うるわしの宵の月』(やまもり三香/講談社)や『ゆびさきと恋々』(森下suu/講談社)など多数のヒット作を担当し、昨年初の著書『「好き」を育てるマンガ術 少女マンガ編集者が答える「伝わる」作品の描き方』(フィルムアート社)を出版された少女漫画編集者でもあります。

吉田さんはアニメや漫画が大好きな方で、「マンガのラジオ」や「オタクガストロノミー」などのラジオパーソナリティだけでなく様々なエンタメ系イベントで司会を務められています。また、マンガ好きが高じてご自身で「マンガ大賞」の発起人でもあり、エンタメ・サブカルといえばよっぴーさん!と言っても過言ではないアナウンサーさん(※個人の感想です)です。

特別トークセッションではそんなお二人をお迎えして、漫画家さんたちから寄せられたお悩みや相談に回答するという「リアル漫画家お悩み相談室」を実施しました。今回は、このトークセッションを対談形式にしてお届けします。

前後編あわせてゆうに2万字を超えてしまい、再構成にかなり時間が掛かってしまったのですが、その分充実したものになったのではないかと思いますので、ぜひお読みください。


*   *   *


吉田尚記氏(以下、よっぴー)
鈴木さん、今日はよろしくお願いします。まずは簡単な自己紹介から伺えますか? 

鈴木重毅氏(以下、しーげる)
はい。僕は新卒で入社した講談社で、23年間編集者をやっていました。そのうち『デザート』編集部には21年間在籍して、最後の6年間は編集長をやりました。

その時代に担当した『好きっていいなよ。』や『となりの怪物くん』(ろびこ/講談社)がアニメ化された時には、そのアニメのファンに向けた上映会で吉田さんに司会をやっていただいたんです。10年ぐらい前の話ですかね。その後2019年に独立して、漫画家さんのプロデュースを行う会社「スピカワークス」を設立しました。

よっぴー
ありがとうございます。今は経営者としてだけでなく、漫画編集者としても現場でバリバリやっていらっしゃるそうですが、あの、編集長が辞めてわざわざ独立するというのは、出版社的には実は相当なことですよね。あまりないケースかと思うんですけれど。独立されたのは、やっぱり何か志がおありだったからでしょうか?

しーげる
いえ、「生涯編集者」というか、ずっと漫画に携わっていたかったんです。でもこのまま行くと近い将来、管理職として現場を離れなければならない。そう考えた時、やっぱり漫画を作る現場にいたかったというのが大きいですね。

よっぴー
なるほど! ということで、今は「スピカワークス」の代表兼編集者という形でお仕事をなさっている鈴木さん、改めてよろしくお願いいたします。

そして「ペラペラ喋っているこの人は誰だろう?」と思われる方もいるかもしれませんが、僕は吉田と申しまして、ニッポン放送のアナウンサーをしております。といっても、アナウンサーになる前からガチで普通にオタクだったので、今でも大体年間に500冊ぐらい漫画を買って読んでいる単行本派の人間です。

それがあって、ある日「あいつがやるんだったら漫画の番組を作れよ」と言われ、漫画の番組を作らせてもらっていた時に、「これやったらいいんじゃないのかな」と思いついて、15年前に書店員さんと一緒にマンガ大賞を立ち上げ、今まで一切儲かることなく運営をボランティアで続けているという状況でございます。

しーげる
素晴らしいです。


よっぴー
さて前置きはこのくらいにしておきまして、早速本題に入っていきたいと思います。今日はもう、漫画編集のプロ中のプロの鈴木さんがいらっしゃるので、漫画家さん、もしくは漫画家を目指すみなさまが普遍的に気になるであろう質問にガチでお答えいただく会でございます。で、多分プロになる方にとってはこれが1番大切ではないかと思われることから始めますが。

【質問】 「自分の得意なところの見つけ方があれば教えてください」

こちらの質問を、しーげるさんにまずはお答えいただきたいと思います。

しーげる
これ、みなさんすごく気になるみたいで、他でもめっちゃ聞かれます。

たとえば、編集部に漫画の持ち込みをされる時も、「自分の得意なところを見つけてほしい」という思いでこられる方が非常に多いと思うんですけれども、僕がずっと言い続けていることは、「自分の得意なところや長所は絶対に自分で決めた方がいい」ということです。

よっぴー
「自分で決める」というのは、たとえば「あなたの描く女性キャラクターはとっても魅力的だね」みたいなことを編集さんに言われたとしても、「実は自分は男性キャラの方が好きだし描きたいんだ」と思っていた場合ですか?

しーげる
はい。自分の好きな方を選んだ方がいいですね。なぜかというと、やっぱり漫画って描くのは大変なわけです。

特に連載となれば、その状況がずっと続きます。その時、あんまり自分が気に入ってないところや、あるいは「それ苦手だな」っていうものを編集さんに「長所」と言われても、多分描き続けられないと思うんです。

だから、自分が「これが好きで描いている」「これが得意になりたい」というところこそ、長所と決めちゃった方がいいと思います。

よっぴー
あの、実はですね。僕、漫画が好きすぎて、漫画家さんにじっくり話を聞く「マンガのラジオ」というpodcastをもう2年ぐらいやっていて。最初のゲストは浦沢直樹さんから始まって最新回は黒田硫黄さんみたいな、そういうPodcastで、この前の回がトマトスープさんだったんですよ。

トマトスープさんはものすごくモンゴルがお好きなんだそうで、他の作品も描いているけれども、「モンゴルを描きたい」と『天幕のジャードゥーガル』(秋田書店)を描き始められたそうです。

それってもう、誰に言われたものでもなく「好きなんだよ」っていうところから始まっている。でも、たとえば編集さん側からは「あなたはモンゴルが好きらしいですね」とはなかなか言えませんよね。

しーげる
編集者からその一言はなかなか出ないです。「あなたのモンゴルすごいですね」なんてすぐには言えないですね(笑)。

よっぴー
会って顔を見ても、それだけじゃまだよくわからないですもんね。その人の中でどんなものが好きかとかどんなことをやりたいと思っているのかは、もう本人に自問自答してもらうほかないと。

「漠然と『すごいこと』を目指すってめっちゃ難しくないですか?」

しーげる
もちろんこちらも質問したり、いろいろ引き出すお手伝いをすることはあると思うんですけれども、でもたぶん、自分のことを一番わかっているのは自分です。やっぱり自分が「一番見せたいな」と思うところを長所、得意にしてもらった方がいい。

今日はプロの漫画家の方が多いと思うんですけれど、漫画が描けていて、プロになれて作品を発表して、お客さんがその作品を待ってくれているという人たちって、基本的にはすでに「漫画が得意」なんです。

ただ、ここにいらっしゃる方以外にも漫画家さんというのはたくさんいるので、その中から選んでもらう「何か」を見つけなくてはいけません。その時に、漠然と「すごいこと」を目指すってめっちゃ難しくないですか?

よっぴー
「漠然とすごいことを目指しちゃう」っていうのは、たとえば「1000万部売れる漫画を描きたいです」と目標を立ててしまうとか?

しーげる
そう、それだと何をしていいかわからない。アナウンサーで考えてみると、「すごいアナウンサーになる」と言われても、よくわからないですよね。

よっぴー
そうですね。ほぼなにも考えていないようなもんですね。

しーげる
漫画家さんにとっても「すごい漫画家になる」「たくさん売れる」という目標は、どうしても漠然としてしまうと思うんです。なので具体的に「自分はこれについては何を言われても絶対に譲れないんだ、自分の好きな部分なんだ」というものをはっきり決める方が、その人らしい魅力に繋がっていくと。

そしてもう一つ言いたいのは、「得意」なことについてはあんまり心配しない方がいいということです。

よっぴー
心配しない方がいい?

しーげる
人って「伝わっているかどうか」を考えると、ちょっとずつ不安になってきます。そうすると、いろんな要素を入れてしまうんですよ。

「あ、この要素もあった方がいいのかな」「この説明もあった方がいいのかな」って入れていくと、キャラクターや作品の何が魅力なのかがだんだん分からなくなり、埋もれていってしまいます。だから「私はこれをやりたい」と思ったら、それを堂々とやっていただきたいんです。

よっぴー
それは、「世の中で人気があるから」とかそういった要素はとりあえず置いといて、でいいんですね?

しーげる
はい。置いといていいです。

よっぴー
世間では恋愛漫画が少女漫画の王道だとしても、恋愛を描くことにそんなに興味がない人まで「恋愛の漫画を描かなければいけない」と考えることはない、と。それよりも、お仕事に一生懸命になっている人たちがかっこいいと思うのであれば、もうそれを。

しーげる
突き詰めたほうがいいです。ただその時に必要なことがあって、読者さんに覚えてもらうことがすごく重要になってきます。

「なぜ私は人気が出ないんですか?」と質問する新人作家さんに伝えた、読者に"覚えられる"ことの大切さ

昔、新人作家さんを担当した時に、デビューしてまもないのに、その方が「なぜ私は人気が出ないんですか」と言ったんです。「いやいや、先輩の漫画家さんが山のようにいらっしゃるので、まずは自分のことを覚えてもらわないと話が始まらないんですよ」と伝えました。

よっぴー
はいはい。

しーげる
でも一方で、作家さん的には「『長所を絞れ、決めろ』と言われたから、一つの作品で思いっきり長所を活かして描いたけど全然ウケないじゃん」となりがちなんですけれど、1回で全部がひっくり返るわけではありません。何度も続けていくうちに「女の子の絵が可愛い人だ」みたいにだんだんとお客さんが覚えてくれて、それで人気というものが広がっていく。

たとえばよっぴーさんも、最初に出演した番組のコーナーで一回「漫画が好きです」と言ったから、いきなり「あ、漫画好きのアナウンサーだ」となったわけじゃなくて。多分何年かずっと言い続けたり、いろんな活動をしているうちに「漫画といえばよっぴーさん、よっぴーさんと言えば漫画」みたいな感じで仕事が来るようになったと思うんですよ。

だから、そうそう簡単にお客さんには覚えてもらえないので、1回ウケなかったから「これは得意じゃないんだ」「長所じゃないんだ」と思ってしまわずに、「覚えられるまでやる」ぐらいがいいと思います。「得意」というのはそういうことかなって。

よっぴー
「何度やっても飽きない」っていうことですよね。僕、ラジオでアーティストさんにインタビューする機会がすごくあるんですけれど、実は一人のアーティストが発しているメッセージって「1個しかない」ってみなさんおっしゃるんです。で、その1個しかないメッセージを、手を変え品を変え毎回言ってるだけなんだよねっていうのが、人気のアーティストは大体そうだと。

たとえばサザンオールスターズだったら寅さん風な、桑田佳祐さんの泣き笑いみたいなところが常にずっとテーマだし、椎名林檎さんだったら、全部椎名林檎のキャラソンみたいになっている。そういうものが、商業的にみんなが欲しがるコンテンツなんだというのを聞いて、「本当にそうだな」と思ったことがあります。

ところで、「自分が好きなものをまずやる」ということについて、「周りから決めてもらわない」というお話でしたが、自分では言語化できてなかったけれど、編集さんとのやり取りの中で「私これが好きかも」と気づくのは大いにありですか?

しーげる
大いにありです。言われてみて発見したとか、言われてみて「それめっちゃいいな!」と思って乗っかるのは全然オッケーですよ。

ただ、「言われたからやる」というのはちょっと違うなと。編集さんに発見してもらって「すごくいいところを見つけてもらった」という場合でも、やっぱりその時も、「それがいいからやる、好きだからやる」となっていてほしいなと思います。

よっぴー
最終的にはやっぱり自分で決める。で、見つけ方というのはいろいろありそう、ということですね。

しーげる
はい。方法はいっぱいあっていいと思います。

よっぴー
ちなみに、しーげるさんはご著書の中で「広島カープがめちゃめちゃ好きだった」と書かれていて、「なんで広島カープの企画を出さないんだ」と先輩から言われたエピソードを書かれていましたが、編集さんも同じところはあるんですか?

しーげる
編集の側もそうですよね。だから「企画」といっても、「1000万部売れそうな企画」みたいなものはたぶんないんですよ。

よっぴー
はじめから誰がどう見ても「これは1000万部いくぞ」ってものはないと。

しーげる
ほとんどないんです。「原作の小説が1000万部売れている」とかだったらありえますけれど、そうじゃない場合は誰にもわかりません。だったら自分が強く好きで、誰かに強く届けたいっていう企画の方が、より多くの人に届く可能性が高いと思います。

よっぴー
しかもそれがマイナーだというのは、今存在しないだけっていうことかもしれないですもんね。みんなが欲しかったかもしれないものだけど、まだ埋もれているだけの状況かもしれない。

しーげる
そうなんですよ。「まだ誰も気づいてなかっただけ」みたいなものってあると思うんです。たとえば末次由紀さんの『ちはやふる』(講談社)もそうでした。「競技かるた」というものがあんなに大ヒットするなんて誰もわからなかった。でも今や普通に、学校の授業でありますからね。

よっぴー
そうですよね。時代が変わる可能性ももちろんありますし、一方で、「好き」というのはマイナーとかいうことでもなんでもなく、自分の気持ちが振れるか振れないかがすべてであって。

しーげる
ですね。やっぱり自分の感情の揺れ幅と読者の感情の揺れ幅がともに大きくならないと、たくさんの人に伝わっていくということにはなかなか繋がらないんじゃないかなっていう気がします。

よっぴー
ありがとうございます。すごく根本的な話から始まりましたけれど、今日はせっかくなので、リアルタイムで届いている質問も取り上げていきたいと思います。次はストレートな質問ですが、いいんじゃないかなと。

【質問】 「編集さんとやり取りするのが面倒で、商業誌ではなく同人で個人誌ばかり出しています。やはり時間をかけてでも編集さんとやり取りをした方が今後のためになるでしょうか」

よっぴー
こちらはいかがでしょう?

しーげる
これは……、「面倒さ」というのがどこにあるかによりますね。「編集者とやり取りをするのが面倒」というのは、たとえば「一から仕事を教えなきゃいけない」とか、日々の連絡やコミュニケーションのやり方を構築するのが手間でやっていられないとか、そういうことであれば端折(はしょ)っていいと思うんです。

ただ、あなたの作品をはじめて読む、あなたのことを知らない人に良さを伝えるということが手間だと思ってしまっているのであれば、若干危険だなとは思います。自分や作品のどこを一番伝えたいのか、どこが一番わかってほしいのかということを理解しもらうための努力が面倒というのであれば、それはした方がいいことかなと感じるので。

一方で、元々ご自身にプロデュース能力があって、セルフプロデュースで出せちゃうみたいな人もいらっしゃいましたし、今はもう「ChatGPT」といった生成AIとやり取りすればそれで済んじゃう、という方もいらっしゃる。

僕が言うのもなんですけれど、無理をしてまで「編集とやり取りしなくてはいけない」ってことは、もうあんまりないと思うんですよ。

よっぴー
今、質問にまっすぐお答えいただいたんですけれど、この質問をちょっと読み替えると、つまり「編集さんって何のためにいるんですか?」ってことだと思うんです。端的に説明するのはなかなか難しいことかもしれませんが。

しーげる
難しいですね。

よっぴー
ちなみに少なくとも僕は、漫画市場を楽しませていただいて40何年経ちます。もしその間に本当にいらない職業だったら、きっともうなくなっていると思うんですよ。

でも昔からずっと残っていて、実際大ヒットになっている作品を担当しているのは、作家さんだけじゃなく編集さんもいらっしゃるものがほとんど。ということは、編集さんの必要性については市場が証明しているんだと思うんです。

そういった点を踏まえた上で、あらためて編集さんの価値や意味ってどんなところにあるんでしょうか。ご自分からは言いづらいかもしれませんけれども。

令和時代に改めて問われる、漫画編集者の価値とは

しーげる
そうですねえ……、たぶんいくつかの役割が考えられます。たとえば作品を初めて読む人がちゃんとわかる内容になっているのかを、最初の読者として確かめるだとか、作品の質を高めるためにいるといったことです。

それから、作家さんのプロデュースといった仕事もあります。作家さんの価値をより高めるためにいろんな戦略を練るという役割や、作品が大きなビジネスになっていく時に、映像の会社であったり、商品化の会社であったり、そういう他社を巻き込んだ中でのプロジェクトリーダー的な役割であるとか、時にはエージェントみたいな役割を果たすこともあります。いろんな役割がありますよね。

よっぴー
じゃあもっと絞り込んで、「漫画を作る」ということに関しては、先程しーげるさんがおっしゃった「最初の読者」という言葉を使って、もうちょっと踏み込んで説明していただくことはできますか?

しーげる
やっぱり漫画というものの素晴らしさは、「漫画家さんが一人で全部描ける」というところにあると思うんです。逆に言うとそれは表裏一体で、漫画家さん一人にしかわからないものになりやすかったりもします。

漫画家さんの中には、「一人でも読んでくれる人がいればいい」という人もいるんですけれど、気持ちとしては理解できる一方で、僕ら編集者はせっかくみなさんが描いた大切な作品は、できるだけたくさんの人に読んでほしいなと思うんですよね。そのためにも、僕ら編集者の大事な役割のひとつとして、「作品をたくさんの人が読んでくれるものにする」ということがあります。

漫画家さんとは、そこが一番相談し合えるところだし、ぶつかるところでもあるのかなと。

よっぴー
ちなみにお伺いすると、作家さんとのやり取りの中で、しーげるさんが一番よくお願いする「修正」ってどんなことですか?

しーげる
うーん、「修正をお願いする」というよりは、質問をたくさんします。

「ここは何をしたかったシーンですか?」とか、「この作品で一番気に入ってるシーンはどこですか?」とか、「このセリフは何を伝えたかったセリフですか?」といった感じで、そうやって作家さんがやりたいもの、あるいは作品に込めたものの解像度を上げるお手伝いをするというのが、一番多い気がしますね。

よっぴー
質問することによって、作家さんもなんとなくスルーしていたところが「ここはなんとなくじゃなかったんだ」とか、逆に言えば「これ不必要だったけど入れちゃってたね」ということに気づくお手伝いができる、と。

しーげる
そうですね。それが1番多い気がします。

よっぴー
じゃあここを受けてですね、すごい質問来たな!と思ったんですけれど、こんな質問がありまして。

【質問】 「編集者に当たり外れがあるのは否定しがたい事実だと思います」

これに対して、編集長もなさっていたというしーげるさん流の見分け方があれば教えてください。

しーげる
編集長だった時に、部内の編集者によく言っていたのは、「基本的に漫画家さんのせいにするな」ということです。「漫画家さんからネームが上がってこない」とか、「漫画家さんが描くのが遅い」とか、そういうのは関係ないと。

なぜなら読者の方にとってみれば、「素晴らしい原稿が何月何日にあがって、それで素晴らしい雑誌ないし単行本を何月何日に発売されます」ということが、出版社からのお約束なわけです。

それなのに編集者から「漫画家さんが『ちょっとできない』と言ってるんで」と言われても、読者の方には関係ない話ですよね。そこでなんとか作品ができあがるように導くことが、編集者の仕事じゃないか、と。

よっぴー
編集長の立場からするとそうですよね。一方で作家さん側から見た場合は、その編集さんが「優秀かどうか」っていうのは、どうやったら見抜けるんでしょう。

ほとんどの優秀な漫画家が語る「優秀な編集者」とは

しーげる
この話をすると、もうほとんどの優秀な漫画家さんが「ちゃんと仕事ができる人」とおっしゃいます。

よっぴー
つまりは、「何月何日にここで打ち合わせですよ」と言ったら遅刻しないで来るとか。

しーげる
もうほんとにその通りなんですよ。「ちゃんと仕事ができる」とは何かといったら、「約束を守る」ということと、「連絡がまめ」ということ、この二つなんです。

よっぴー
感性の部分とかよりも、まずはその二つってことですね。

しーげる
はい。たぶん漫画家はみなさんそうだと思うんですけれど、そもそも「漫画は自分が作るもの」だと思っていて、「編集者のアイデアが欲しい」とは思っていないと思うんです。

もしも悩んだ時、本当に困ったらちょっと聞くことくらいはあると思うんですけれど、最初っから「編集者の案が欲しい」と思って漫画を描き始める漫画家さんっていないはずで。だから、編集者に求められている部分は「案を出す」とかそういうことではなく、「ちゃんと仕事をする」っていうことに尽きます。

あと、漫画家さんが実際に一番知りたいことは、「作品が読者にどのように受け止められているのか」という数字や声です。それをお伝えするのが、今までの編集者の仕事の一番根幹の部分でした。

とはいえ最近では、SNSやナンバーナインさんのサービスなどで、漫画家さんが読者の方からダイレクトに声を聞けるようになってきているので、今後はその部分も少し変わってくると思いますが。

そして、よくない編集者はそこに自分の解釈を入れてしまうんです。数字、アンケート、反響といったものに対して独自の解釈を入れたり、ひどい人になるとそれらを隠したり、あるいは嘘を言ったりするんだけれども、漫画家さんが求めているのはあくまで本当のこと。

僕が部員に言っていたのは、「漫画家さんが聞きたいのは本当のことなんで、本当のことを言ってください」ということです。

よっぴー
ただ、本当のことを言うのが辛い時はないですか?

しーげる
もちろん辛いですよ、悪い結果を伝える時は。

よっぴー
悪い結果の場合でも、ちゃんと言ってくれないと漫画家さんのためにならないと。

しーげる
やっぱり歪んじゃうじゃないですか。間違っている世界地図を渡すようなものなので。

よっぴー
じゃあ編集さんとしてはその時、「辛いな」と思ったとしても、それはもう漫画家さんのためにも、ちゃんと伝えなきゃいけない。言ってしまうと、ちゃんと仕事をして、マイナスの情報も嘘なくくれる人がいい編集さんですかね。

しーげる
そう。だから見抜く技としては、いいことばかり言う人と厳しいことばかり言う人、その2つはわりと信じない方がいいなと思っていて。いいところをちゃんと評価してくれた上で、時には言いにくいこともちゃんと言ってくれる人じゃないと、やっぱりなかなか難しい。

よっぴー
ただ編集さんも、新人の方が超大御所さんを担当する場合もあるわけじゃないですか。それでも原則は同じなわけですよね。そうだとするとしーげるさんも、新人の時にはすごい先生に、わりといいニュースじゃないものを伝えたりしたことも?

しーげる
いや、僕は新人の時にそこまでできていませんでした。新人はまだ、何をどう言っていいかがわからない。「お前ちょっと打ち合わせしてこいよ」とか言われても、わけわかんないですよね。

ですから僕が編集長だった時には、その経験を踏まえて「もうここまで言っていいので、『編集長が言え』と言った、という形で伝えてきてください」、「『編集長にそう言われたので』と言っていいので伝えてきてください」、とアドバイスして、漫画家さんの元に送り出してました。

よっぴー
それは確かにやらなきゃいけないことだとして、そこで漫画家さんと喧嘩になるとか、そういうことはないんですかね。

しーげる
その時に絶対に忘れてはいけないのは、「もっと良いものが描けるはず」という期待感です。それがあれば、喧嘩になったとしてもいい喧嘩だと思うんですよ。

よっぴー
何のためにそれを言っているのか。それはあくまで「作品のため」なんだよと。

しーげる
もちろん漫画家さん側だって、「私は私で読者のために精一杯やってるんです」っていう気持ちだと思うんです。だからお互いにその気持ちが一致していれば、多少言い争ったっていい解決に向かえると思うんですよね。

よっぴー
そこがないと本当に喧嘩してることにもなっちゃうし、編集さんとしてもあんまり良くない編集さんになっちゃう。

しーげる
漫画家さんに「私のこと買ってないんだな、この人」と思われたら、やっぱそれはお別れの時になってしまうわけです。

後編へつづく

<告知>ナンバーナインで一緒に働く仲間を絶賛募集中!

2023年も注力していた採用を、2024年も継続して注力していきます。

現在は、特にバックオフィス(事務職、経理職)とインハウスデザイナー、WEBTOONディレクターの募集を積極的に行っておりますので、興味をお持ちいただける方はぜひご応募ください!


この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?