黒駒臣

ホラー小説っぽいもの書いてます。

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最近の記事

小ホラ第52話『牽制』

 新しい職場に入社が決まった時から、同じ部署にイケメン君がいると、聞くとはなしに聞いていた。  まだ右も左もわからないうちからそんな噂が耳に届くのだから、会社ではよほどの有名人なのだろう。  イケメン好きではない自分からしたらどうでもいい話で、でも同時入社のギャル、栄田さんにとって鼻息を荒くする噂だったらしい。  指導係の先輩に連れていかれた部署には、確かに誠実そうで柔らかい物腰のイケメン君がいた。  だが、訊いてもいないのにイケメン君本人から彼女がいることを告知され、さらに

    • 小ホラ第51話『愛の詩』

         「桃ってすごく甘いんだね。初めて食べた」  両手に一個ずつ持った大ぶりの桃を交互に貪り、手のひらから腕に伝う汁を肘の先で滴らせながら晶乃は嬉しそうに笑った。  箱詰めの高級な桃は自分たちで買ったものでなく、この屋敷に来た時、すでにテーブルに置かれていたものだ。  もちろん俺たちのために用意された物じゃない。 「そんなもんじゃなく、金が欲しかったんだけどな――」  大きな屋敷のわりにまとまった現金がなく、溜息をつく俺に、 「これでも充分だよ、ありがと」  晶乃が本当

      • 小ホラ第50話『夏休みの自由研究』

         裕二と共同で、小学生最後の夏休みの自由研究は動画配信することに決めた。 研究課題は地元の峠にある心霊トンネル。作られた時代やなぜ心霊トンネルと呼ばれるのかなどの所以を図書館やネットなどを駆使して調べ、結果を毎日模造紙に書いてスマホで配信。ラストは直接トンネルに赴き、生配信で自由研究を終了するという計画。  期間は一週間。  同じように課題に悩んでいたマサルと剛生が僕たちの自由研究の計画を知り、仲間に加わることになった。  峠のある山の名前は戦国時代の落ち武者が由来だとか、ト

        • 小ホラ第49話『アイスおごって』

          「で、好きなアイスってなんなん?」 「え、ほんまにおごってくれるん?」 「しゃあないやん」 「うーん、それがな、名前覚えてないねん」 「それでようおごってくれ言えたな。どんなか言うたらそれに似たやつ買うてくるかい――」 「あかん、ちゃんとオレの好きなやつやないと」 「え~、もうめんどくさいな――わかった。探すかい、どんなかゆうて」 「入れもんに入ってるアイスで、甘い氷みたいなやつや」 「みぞれ、いうやつかな?」 「氷だけちゃうで、とろっとした甘い乳も入っとんや」 「練乳入り?

        小ホラ第52話『牽制』

          小ホラ第48話『お祖母ちゃん』

            母の手助けで介護していた認知症の祖母が亡くなった。  九十も半ばを超えていたので、わたしたちとしては大往生だと思うけれど、本人はどうだったのだろうか。  どんなに歳を経ようと、どんな状態になっていようと、ただただ生きたいと思っていたかもしれない。  そんな祖母の気持ちを慮りはするけれども、介護疲れで大変だったわたしたちには「お祖母ちゃん、逝ってくれてありがとう」だった。  もちろんそれは大往生だから言えることであり、けっして憎くて言っているわけではない。  七十代後半から

          小ホラ第48話『お祖母ちゃん』

          実話怪談

          「えっと――少し前の体験なんですけど――  住んでいる地区で、うちがゴミ当番になった時のことです。  ゴミ当番っていうのは集積所に散らばったゴミの掃除を一か月間担当することなんですが――もちろん夫じゃなくわたしの仕事になっちゃうんですけど――  集積所には一般ゴミと資源ゴミを分類して出さないといけないんですね。  毎週月曜と木曜が一般ゴミの日。  水曜日が資源ゴミの日。  で、資源ゴミは缶瓶など燃えないゴミ、プラ製品、ペットボトル、段ボールや新聞など紙製品に古着などの布製品

          実話怪談

          小ホラ 第47話

          自販機前の子供  一人暮らしを始めて三日目に駅からアパートへの近道を発見した。会社からの帰宅がどうしても夜遅くなるので、ショートカットできるのはありがたかった。  街灯の少ない薄暗い路地だが、ちょうど中ほどに自販機が三台稼働していて、わりと視界が明るい。  廃業した酒屋の閉まったままのシャッター前に置かれた自販機の二台は缶コーヒーやジュースなどの清涼飲料水で、もう一台はビールなどのアルコール類を販売していた。  雨除けのテントは破れ、ぶらぶらと風に揺れている状態だが、自販機

          小ホラ 第47話

          小ホラ 第46話

          海に還る  ただただ海が見たくなる時ってあるよね。  失恋したとか、上司にこっぴどく叱られたとか、そんなことなくても。  海の青翠に寄せては返す波の白。  真っ青な空にぽっかり浮かんだ白い雲。  来てよかった! これが恋人と一緒ならなおいいんだけどね。  苦笑いを浮かべて砂浜に座る。  一人ドライブの帰りに立ち寄った小さな浜辺には海水浴客は誰もいなかった。  小さいけれど、結構きれいな海なのに。もしかして穴場かも。今度来る時は水着持ってこようかしら。  そう思いながら、

          小ホラ 第46話

          小ホラ 第45話

          霊安室  自転車ですっころび、脚を骨折して入院した剛央から見舞いの催促が来た。  電話の向こうで泣いていたが、行ってみるとただただ退屈だったらしく、リクエストされ持っていった漫画本を見るや否や俺なんかそっちのけでむさぼるように読み始めた。  話しかけても生返事しかせず、 「もう帰るで」  それだけ言って俺は病室を後にした。  それから三日後、また泣きの電話が来た。 「なんよ、また漫画か?」  俺は半ば呆れてそう聞いてみたが、どうも違うようだ。  剛央が言うには、あまりに退屈

          小ホラ 第45話

          小ホラ 第44話

          河童  物心ついたら、この池に住んでいた。  周りは森の中、ではなく住宅街の一角らしく、子供たちのはしゃぐ声や車などのクラクション、主婦らの井戸端会議の馬鹿笑いなどが結構聞こえてくる。  水面から目だけ出し、周囲を確認するのがオレの日課だ。  ここはわりと大きめの池で、水際から数メートル、草むらに囲まれていて、そばには背の高い木が一本だけ植わっている。何の種類かわからないが、季節が来ればいい香りの白い花が咲き乱れた。  それを含めた池全体を二メートル高の金網が包囲している。

          小ホラ 第44話

          小ホラ 第43話

          鬼の村                  1  閉じ込められてからどれだけ時間が過ぎたのだろう。暗闇の中では今が昼なのか夜なのかもわからない。  目覚めた時、金属製の首輪をつけられ鎖で繋がれていることに気付いた。手足は自由だが頑丈な首輪を外すことができず、本当の自由はない。  だるくて気分が悪かった。寝ていても起きていても身の置き所がない。  あいつに何かを飲まされたせいだ。  命に別条なかったとはいえ、戸惑いと怒りを覚える。  寝かせた体を再び起こし、壁にもたれた。

          小ホラ 第43話

          小ホラ 第42話

          赤い袋  ある路地に血の滴る赤い袋を提げた怪人が出るという。  中には子供の臓器が入っているらしい。  怪人の正体は自分の子供の手術に失敗して狂った医者だとか、普通では扱えないものを薬にしている薬売りだとか言われている。その薬は不老不死なのだそうだ。  だがこれは昼休み、怖い話を語っていた洋介がネタ切れで作り出したウソだった。  とっさに思いついた話だが、それを聞いた昌也の顔から血の気が引いた。 「ぼ、ぼくきのう見たよ、塾に行く時。ミケおばちゃんの店から二つ目の角を曲がった

          小ホラ 第42話

          小ホラ 第41話

          薄紫色の女  重く垂れ込めた雲からぽつぽつと雨粒が落ちてきて電車の扉にいくつもの線を引き始めた。  エアコンが入っているにもかかわらず効きが悪くて蒸し暑い。  のどが渇き、立ちっぱなしの足の指が引きつり出した。  もうすぐ駅に到着する。  あと少しの辛抱だと祐明は自分に言い聞かせた。  かんかんかんと警報機の音が近づいてきた。  駅近くの踏切の音だ。  祐明はほっとし、すでにびしょぬれになった雨の滴る窓を眺めた。  踏切を通過する時、薄紫色のワンピースを着た女が遮断機の前に

          小ホラ 第41話

          小ホラ 第40話

          猫 「うわっ、やっぱいるよっ。気持ち悪ぃっ」  助手席のマコトがわめく。きょうで四日目だ。  春休み。家でゲームばかりしているよりは、とヨウコは毎日買い物に付き合わせているが、行き帰りの道に死んだ猫がいると言って騒ぐ。道沿いにある民家の門前に横になっているらしい。  らしいというのは運転中で目視できていないからだ。  なので、一日目のヨウコの反応は「えー。うそぉ」、で通り過ぎた。  二日目は「見間違いでしょ」  三日目は「寝てるだけでしょ」  だが、マコトは絶対死んでいると

          小ホラ 第40話

          小ホラ 第39話

          真夜中のボクサー  もっと早く帰ればよかったと後悔した。  久しぶりの飲み会が楽しくて夜遅くなり過ぎたのだ。  彼氏に車で迎えに来てもらった友人が「送ってあげる」とせっかく言ってくれたのに、ほんの少し嫉妬して、大丈夫だからと見栄を張ったあの時の自分が情けない。  終電に間に合い一応最寄り駅まで帰れたものの、自宅までの道のりには女子にとって大きな難所があった。  はあ。  深いため息が出た。  ここからは人目がなくなり、痴漢多発地帯と呼ばれている危険な路地だ。  通勤通学する

          小ホラ 第39話

          小ホラ 第38話

          渡り廊下  とある老舗温泉旅館の話だ。  豪奢な新館の裏には旧館があり、現在そこは倉庫代わりになっている。  渡り廊下は新館の裏手からその旧館に伸びていた。  出入り口には従業員以外立ち入り禁止の張り紙をし、鍵までかけてあるのに、なぜか渡り廊下に出てしまう客があり、そこで女の幽霊を目撃するという。  仲居頭の話では、もともと幽霊は旧館の、ある一室に出現していたそうで、二十数年前、不倫の別れ話がもつれて首つり自殺した女なのだそうだ。  お祓いしても除霊できなかったため、新館を

          小ホラ 第38話