実話怪談

「えっと――少し前の体験なんですけど――
　住んでいる地区で、うちがゴミ当番になった時のことです。
　ゴミ当番っていうのは集積所に散らばったゴミの掃除を一か月間担当することなんですが――もちろん夫じゃなくわたしの仕事になっちゃうんですけど――
　集積所には一般ゴミと資源ゴミを分類して出さないといけないんですね。
　毎週月曜と木曜が一般ゴミの日。
　水曜日が資源ゴミの日。
　で、資源ゴミは缶瓶など燃えないゴミ、プラ製品、ペットボトル、段ボールや新聞など紙製品に古着などの布製品、そう分類して週別に出さないといけないんです。
　第一週、第三週の水曜日が缶瓶の指定日、第二週がプラ、ペット、第四週が紙、布製品というふうに。
　その週は第二週の水曜日でプラとペットボトルの日でした。
　回収される時間を見計らい、わたしは集積場をチェックしに行きました。
　そこには次週回収の布製品が一般ゴミ袋に入れられ置かれていました。指定ゴミじゃないので回収されなかったんですね。
　散らばったゴミの掃除はもちろんのこと、出し間違った資源ゴミを預かり、指定日に出すというための当番でもあります。
　なんでルール違反した他人のゴミを押し付けられなければいけないのかという理不尽さに憤りを覚えつつも、わたしは仕方なく持ち帰りました。
　ゴミ袋の中は外から見た感じ無造作に丸められた敷きパッドのような、薄手のラグのようなものでした。素材のわりに少し重さを感じたのですが、このご時世、中を開けてまで確認する気になれず、袋に詰め込めばこんなものだろうとたいして気にもしませんでした。
　ちょうど一般ゴミ袋に入っていることだし、わたしは次週を待たず、もう明日のゴミの日に一緒に出してしまおうと考え庭の片隅に袋を置きました。よほどのものではない限り、指定袋に入っていれば一般ゴミとして回収してくれるからです。
　そして夜が来て、夕飯を食べ終え、風呂に入った夫と幼稚園の息子、わたしの三人は寝室で休みました。
 
　深夜、掃き出し窓のガラスの割れる音がしました。
　わたしたちは寝室のクローゼットの中に隠れていたのでその音にすぐ気づき、携帯電話で１１０番通報しました。
　何者かが寝室に入ってきましたが、息を潜めたわたしたちに気づかず見つかりませんでした。家中をうろうろしていた犯人は、駆け付けた警察官にあっさり逮捕されました。
　後から聞いた話ですが、犯人は女で、しかも侵入は泥棒目的ではありませんでした。
　忍び込んできた女は例のゴミを置いた人物だったんです。
　あの袋の中は人知れず産み落とし殺した赤ちゃんが入っていたそうです。
　指定日を間違ったことに気づいた女が取りに戻った時はすでに遅く、当番――つまりわたしが持ち帰った後でした。
　今月の当番が誰かを調べた女は殺人と死体遺棄が発覚するのを恐れ、わたしたちを殺そうと思い立ち、夜中家に忍び込んできたんだそうです。
　おかしくないですか？　そのまま庭に置いていたゴミを持ちかえればいいだけなのに――だって、もしわたしが袋の中を調べていたら、もうとっくに通報してますよね。事件になってないってことはまだばれてないってことなのに、殺そうと家の中まで入って来るなんて――わたし、もう怖くて怖くて――」

　ここで、この話を録音しながら、メモも取っていた男が顔を上げた。

「あ～、せっかく話を聞かせていただいたんですが、これ怪談じゃなくて人怖ですよね――」
「あら、すみません――肝心な部分話しそびれて――
　わたしたちは犯人が入って来るより先に起きてクローゼットに隠れていたんです。ガラスの割れる音にすぐ通報できたのはそのためです。
　なぜかって？
　実は夜寝静まった後、庭から赤ちゃんの泣き声が聞こえて来て、わたしも夫もそれで目が覚めたんです。
　どこの赤ちゃんが泣いているのかなと思ったのですが、近所にうちより小さな子のいるお宅はありませんし、それに赤ちゃんの泣き声は庭から居間に、居間から廊下にとだんだん寝室に近づいて来るもんだから、怖くなって眠っていた息子を抱きかかえ、クローゼットに隠れたというわけなんです」