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小ホラ 第38話

渡り廊下



 とある老舗温泉旅館の話だ。
 豪奢な新館の裏には旧館があり、現在そこは倉庫代わりになっている。
 渡り廊下は新館の裏手からその旧館に伸びていた。
 出入り口には従業員以外立ち入り禁止の張り紙をし、鍵までかけてあるのに、なぜか渡り廊下に出てしまう客があり、そこで女の幽霊を目撃するという。
 仲居頭の話では、もともと幽霊は旧館の、ある一室に出現していたそうで、二十数年前、不倫の別れ話がもつれて首つり自殺した女なのだそうだ。
 お祓いしても除霊できなかったため、新館を建てたが、今度は渡り廊下に出るようになったらしい。
 
 夫は到着した時から様子がおかしかったと、その熟年夫婦の妻は語った。
 定年退職祝いのサプライズで高級老舗旅館を予約し、せっかく来たのに、夫はすぐ帰りたがったという。
 説得して何とか押し留め、浴場に向かうまではよかったが、気付くと二人、暗い渡り廊下に立っていた。
 何もないのに暗がりを指さし怯え泣き喚く夫は妻が止める間もなく引きずられるように旧館の闇に消えた。
 従業員総出で探すもどこにも見つからず、妻は今も途方に暮れているらしい。
 ただ、それ以降、渡り廊下に幽霊は出ない。


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