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アイドルオタクのためのライブレポートのススメ

全アイドルオタク、ライブレポートを書いてほしい。

というのは長年の個人的願望で、実際には自ら進んで表現・発信するタイプのオタクはオタクの中でも限られた一部の人だろうし、表現方法も人によっては文章だったりイラストだったりマンガだったり演奏・コピバンだったりするだろうから、必ずしも全員が文章を書きたい人だとは限らない。

それでもできるだけ多くの人にライブレポートを書いてほしい、なぜなら、オタクの熱量ある文章からしか摂取できない栄養素があるからである。

文章は原理的には誰にでも書ける。これはそういうことを言うとその道のプロに怒られてしまうとかいう次元の話ではなくて、絵や楽器を触るよりは素人が始める素人なりのハードルが低い、ということである。

ということで本稿は、様々なライブレポートの事例や筆者の自分なりの書き方を紹介し、これを読んだ人が「ちょっと文章書いてみようかな」と思い立ち、その結果アイドルファン界隈にファンによるライブレポートが増えることを狙ってみるものである。

だって自分が文章読みたいから……。

引用を含めかなりボリュームのある記事になったので、「何でもいいからとりあえずライブレポートが書いてみたいんだ」という方は【2】か【3】まで飛んで必要な部分だけ参考にしてもらえればと思う。

*本記事は地下アイドルAdvent Calendar 2022 12月11日の投稿記事として執筆したものです。


【1】アイドルファンによるライブレポートの価値

この時点で「自分には文才がないし」「素人が書いた文章なんて誰も読まない」と思っている方はそれなりにいるのかもしれない。が、(メジャーアーティストに比べて)規模感が小さく、ライブの消費速度がとてつもなく速いライブアイドルの世界においては、素人であろうと十分に読まれる価値のあるレポートを生み出しうる(と筆者は思っている)。

記事内では便宜的に「価値」という表現を用いるが、資本主義的な、あるいは美的な・技術的な価値の高低を言う意図はないことに注意されたい。
アマチュアがレポートするのであるから、社会にとってはどうでもいいことを記録したっていいし、自分得でしかないものを書いても良いのである。

そもそもプロによるレポートが少ない・無い

グループがZeppワンマン規模くらいになってくるとモデルプレスやRealSound、激ロックなりpopp'nrollなりがプロによるレポートを掲載してくれるようになるが、それ以下の小~中規模のアイドル、特にワンマン以外の日常のライブともなるとプロによるレポートはそもそも書かれないし世に出ない。
かと言って日常のライブに書くべきトピックが無いかと言うとそんなことはないはずだ。


空間的隔たりから見るライブの報道価値

あなたが東京で毎週末ライブをするようなライブアイドルが好きだとしよう。

もしあなたが東京から離れた地方に住んでいて、たまのツアーか遠征でしか推しグループを観られないとするならば、毎週行われる都内のライブであった面白いトピックや、日々進歩するメンバーのスキル的成長、ファンダムの中に共有されていくライブの記憶の蓄積といった「積み重ね」からは物理的にも心理的にも距離が空いてしまう(最近は配信文化の隆盛でいくらか改善されはしたが)。

その距離を埋めてくれるのがTwitterに投稿される参戦者の感想であったり、そしてライブレポであったりするのである。

逆にあなたが東京に住んでいて頻繁に現場に通っているが、地方遠征はほとんどしない、というタイプであれば、地方の特別な環境で行われたライブのMCであったり、パフォーマンス中の出来事であったりはぜひ知りたい情報になるはずである。

よっぽど全通おまいつばかりで構成された小規模なファンダムでない限り、あなたが行った現場に何らかの事情で行けなかったファンは必ず存在しているはずであり、その限りにおいてあなたのレポートには価値が発生しうる。

ツアー地方公演での印象的な出来事がレポートされた例。ツアーに複数公演参戦するファンによる前後関係を踏まえた詳細なレポートは、グループのファンにとってそれだけで価値がある

時間的隔たりから見るライブの記録価値

新しくグループを好きになって、そのグループが既にそれなりの歴史を持っている場合、あるいは前身グループがあったり、メンバーに前世がある場合、そうしたバックグラウンドを知りたいと思うのは自然なファン心理である。

グループの公式ブログなどに歴史が残っている場合は助かるが、多くの場合はそうではない。過去のメモリアルなライブや、グループの転機となった出来事、特定の楽曲に込められた想いなどを後追いで知ろうとする時、ファンによるレポートが残っていると非常に有用であるし、実際個人的にもそういう記録を読んでグループのことをもっと好きになれた経験がたくさんある。

例えば我儘ラキアの公式ブログのカテゴリ「我儘ラキアとは」はグループ初期から中期に至るまでの変遷が記録された非常に分かりやすい公式の歴史資料で、新規のファンがグループのバックグラウンドを知るには最適のコンテンツになっている。しかし、公式にこのようなコンテンツがあるグループは限られている

そして現状、アイドルの寿命は残念ながら限られている。アイドルは見られることによって成り立つ職業である。解散や脱退でアイドルの存在が失われてしまった後、「見た人による生の記録」として時間を超えてアイドルの存在を残しておけるものがファンによるレポートだと思う。

極端な例であるがMaison book girlはその"削除"に伴いグループの公式サイト、公式Twitterなどの情報、歴史の大半を本当に「削除」してしまった。
幸いにも文章を書く人が多いファンダムの気質のお陰で、その終末期の動向の記録は何人ものファンにより多数残されている。後追いで何が起きていたか知るにはファンによる記録が適しているだろう

maisonbookgirl.com

自分の思考整理ツールとしての価値

人に読まれるためでなくとも、自分のグループに対する認識を再確認したり、時間が空いてから過去のライブの記憶を思い出したりするためのツールとしてもライブレポートは役立つ。

いつもより大きな会場でライブがあったとき、新曲が初披露されたとき、体制の変更があったとき。人間、意外と細かいことは忘れてしまうものである。その時々で自分が感じた気持ちなどを文章で保存しておけば、いつでもその時の感情に立ち返ることが出来る。

また、言語化する過程ではっきりとは気づいていなかったグループやメンバーの魅力に辿り着くこともある。個人的には、ライブレポートを書く過程で、特に普段あまり意識しない推し以外のメンバーの長所や魅力に気づくことが多い。

上記でレポートを紹介したかっつさんの記事「なぜライブレポを残すのか?」も是非併せて読んでほしい。


【2】ライブレポートの形式あれこれ

何もいきなり1万字レポートから始める必要はなくて、ツイートやブログの延長から気軽に投稿してほしい、というのが本稿の趣旨である。
ライブレポートと言っても色々な形式がある。ここでは手をつけやすそうなものから本格的なものまで順に例を挙げて説明していく。

ここから先は如何にも技術的っぽいことを書いていくが、あくまで素人見解なのでご了承願いたい。

①140字から始めるTwitterワントピックレポ

現場に行くアイドルファンをやっていてTwitterをやらない選択肢はほぼないと思うので、誰もが手を出しやすい簡単なライブレポート。

上記のツイートはMIGMA SHELTERというグループのメンバー・レーレがツアー福岡公演を以て一時活動休止に入ったときの筆者によるレポート。
概ね次のような項目を意識して構成している。

▪最も印象的なシーン・トピックを選ぶ
活動休止へと送り出すためのファン有志によるサイリウム点灯企画とメンバーの反応はこの公演で最も語られるべきトピック、また参戦しなかった人が知りたい需要のあるエピソードと考えた。

▪公演名または公演専用タグを入れる
MIGMA SHELTER SIX ALICE REMIXED TOUR "Cat" 福岡公演

▪その場にいた人にしか知り得ない情報を入れる
活動休止に入るメンバー・レーレさんが「この日を区切りとして」と言いたいところを「この日をトドメ??として??」と口走ってしまい会場が笑いに包まれたエピソードから、「トドメ」というワードを敢えて使用。
ちなみにそのままだと伝わらないのでリプライツリーで補足している。
このようにその場にいた人には伝わるようなエピソードを盛り込むことで、ライブの空気感をそのまま伝えたり、ただの情報の羅列にならない読みどころのあるレポートとしての価値を付けたりすることができる、気がする。

▪個人的な感想や感情を入れる
「美しい時間でした。もらい泣きしてしまった…」の部分。
「何が起きたか」だけでなく「それをどう受け取ったか」を書くことで読み手もその出来事のデティールを想像することができるようになる。
また、上述の通り自分の感情の保存としての機能も持たせることが出来る。


②パッケージ化されたライブメモ

長くて技巧的なかっこいい文章を書くことを意識しなくても、自分なりに項目立てて構成したメモ書きを記録しておくだけでも充分に上述したような「価値」を生み出しうる。

ゆっこいさんという方がnoteで書いている「ライブメモ(レポ未満、備忘録的なもの)」シリーズは、ある種システム化された形式で項目を立て、参戦したライブの記録をつけていくスタイルで、現時点でひとグループあたり数十記事という凄まじい蓄積量になっている。

「レポ未満」という謙遜混じりのようなコンセプトに反して内容はとても充実している。

特徴的だと感じるのは各グループについて「○○以来のライブ参加」と前回の参戦歴を書いている点。対バンによく通う人であれば、主現場以外のグループはランダムに現場間隔が空いてしまうことが多いだろう。
書く側にしてみれば、どの現場からどの程度の期間空いて見たかを意識すると、グループの成長度合いを実感しやすくなるだろうし、レポを読んでいる人にとっても、レポーターの温度感を適切に測ることができる情報になる。


③数千字規模の本格的なレポート

noteはてなブログといった投稿サービスを介して共有されるファンによる本格的なボリュームのライブレポートは、その日の現場の熱量を直に感じることのできるツールである。

ライブレポートにも一定の「型」があり、ある程度ツボを押さえれば、誰でもそれなりに読みやすく面白いレポートが書けると思う。

次章では実際に数千字規模のレポートを例として、筆者が自分なりに気を付けているそうした「ツボ」を順を追って紹介していく。


【3】我流・ライブレポート作成ガイド


ここでは勝手ながら、上記の2つのフォロワーによるライブレポートと、筆者自身によるレポートを例に、ライブレポートを書くときに個人的に意識している要素について説明していく(他の例を出す場合も適宜引用先を示す)。
以下、他の方が書かれたレポートについての記述はあくまで筆者が自分の見解として分析したものであり、作者自身の意図を説明するものではないではないことをご了承願いたい。
ちなみに、例に挙げた美味しい曖昧真っ白なキャンバスのワンマンについては筆者は実際に会場には足を運んでおらず、レポを読んで空気感を知った身であることを申し添えておく。


(1)ライブの基本的な開催情報を書く

当たり前のようだがグループ名(対バンの場合は全出演者名または自分が観覧した出演者名)・公演名・日付・会場あたりの基礎情報は網羅的に記しておくべきである。

2022年11月18日、TOKYO DOME CITY(TDC)ホールで行われた真っ白なキャンバス 5周年ワンマンライブ 『希望、挫折、驚嘆、絶望、感謝 それが、私。』に参加してきました。

【ライブレポ】ぼくなりの白キャン5周年ワンマン|かべのおく

上記のように各情報を1文にまとめて概要として書いておく、あるいは箇条書きにして最初にまとめておくのが一般的であろうか。
あるいは、

10月31日、新宿。

美味しい曖昧というアイドルグループのワンマンライブがあった。

そのタイトルは、「いつもとちょっと違うワンマン1」。

(中略)

新宿のトイレの個室でスーツから「曖昧なオタク」Tシャツに着替え、準備万端。新宿ReNYへと向かった。

いつもとちょっと違うけど、いつもとおんなじ魅力(美味しい曖昧ワンマンレポ)|けたみ


このように文章の中でさりげなく触れながら、最終的には上記の基礎情報が網羅されるように気を付ける、という手法もありである。



(2)曲順に内容を追いかけていく

ライブレポートの本体とも言える部分である。
セットリストの順に曲名を書き、その曲のその日のパフォーマンスで特筆すべき点や、ライブの中でのその曲の位置付け、特に印象に残ったパート、フロアの反応について書いていく。

MCがあればその内容も覚えている限りで書いていく。MCは特にその日ならではの要素が出やすく、グループにとってのそのライブの位置付けが現れる記録価値の高い部分である。

このとき、無理に詳細に丁寧に書こうとせずに、自分にとって印象に残ったものに注力するように書いていけばよい。
特に長い尺のワンマンライブなどの場合は、(自分にとって)特筆すべき点が少なかったパートや、ライブの流れの中で体感的・相対的に進行速度が速かった部分は適度に端折ることで文章にもリズムが生まれるし、それはそのまま観客の体感したライブの流れの反映になるからである。

一曲目は「サプリメ」。MVも公開されている曲で、このグループの楽曲の中で僕が最初に知った曲の一つだ。

ギターのカッティング、ファンキーなベースライン、ポップだが複雑なダンス、メンバーの個性豊かな歌唱...このグループの特徴がよくわかるキラーチューン。

メンバーが縦に並び、イントロが鳴れば無条件でテンションが上がるものだ。

大サビでのジャンプは会場の都合でできないが、それでも一曲目から会場のボルテージも高まっていく。

いつもとちょっと違うけど、いつもとおんなじ魅力(美味しい曖昧ワンマンレポ)|けたみ

一曲についてこれだけの分量を割いて描写する箇所もあれば、

そんな調子で「さめないワナビー」、「バッドエンドのその先」「ナブルナブルナブル」と、名曲を繰り広げていく。開演前に気になっていたステージ上の幕のことも、メンバーの後ろの謎の枠も、そしてこのワンマンが「ちょっと違う」ことすら忘れて楽しんでいた。

いつもとちょっと違うけど、いつもとおんなじ魅力(美味しい曖昧ワンマンレポ)|けたみ

ダイジェスト的に次々と展開を進める箇所もあってよいのである。

もちろんこれは必ずそうしなければいけないわけではなく、全曲についてひたすらに語りたいことがあればそうしてもよい。
この辺りは、完全に自分ウケのために書くのか、ある程度ファンダムで共有されることを前提に書くのか、その場合読み手の熱量はどれくらいを想定するか、によって使い分けていくとよいと思う。

では端折らない場合に内容の部分にはどう言うことを書けばいいかというと、おおよそ以下のような内容のいずれかに当てはまるのではないかと思う。

■パフォーマンスにおいて特筆すべき点

メンバーがいつもと違う動きをしていた、歌い方をアレンジしていた、歌詞の一部を変えていた、このパートの表情が良かった、マイクをぶつけるなどのアクシデントがあったがうまく対応していた、推しメンが可愛かった、など。

自由なセッションがブレイクし、聞き覚えのあるイントロが流れ、「あまあま」が始まる。しかしこれは当然バンドの生演奏の「あまあま」であり、今まで聞いてきたものとは全く異なる印象を受ける。

メンバーも一部のダンスを省略し、ファンを煽ったり自由に踊ってたりしている。

いつもとちょっと違うけど、いつもとおんなじ魅力(美味しい曖昧ワンマンレポ)|けたみ


■演出において特筆すべき点

大きなワンマンライブの場合は特に重要。紙吹雪・銀テ・炎などの特効の使われた曲・タイミング、レーザー照明が綺麗だった曲、ミラーボール、曲前後の映像演出と曲の対応、VJなど。

中盤のMC以降は「これまでの5年間の感謝を伝えます」という橋本さんのコメントにふさわしく、これまで大事に歌い続けられてきた楽曲が続きました。「全身全霊」では過去映像を重ね合わせながら、メンバーが過去の自分達と共演するという泣ける演出。

【ライブレポ】ぼくなりの白キャン5周年ワンマン|かべのおく

また夏フェス等のイベントであればメンバーが自分で打てる水鉄砲やCO2ガス砲が用意されているステージがあったりもする。短い尺の中でどのタイミングでそれを使うかに注目してみると、ライブの盛り上がりの山を捉えやすい。

屋外イベントであれば天候や、時間の経過による自然光の変化による演出にも注目したい。TIF・SKYステージの夕夜帯の夕日や夜景が有名な例だろうか。


■ライブの中でのその曲の位置付け

その曲がなぜその日のセットリストに入っているのか、なぜその位置なのか?
その曲を歌うことでその日の観客に何を伝えたかったのか、その日のその曲に個人的に何を感じたのか。

これもワンマンライブであれば意識しやすいかもしれないが、日頃の対バンであってもその日にその曲をやる意味として特筆すべきポイントは結構あると思うので、書いてみると面白いポイントだと思う。

また、《一か八か》は映画『賭ケグルイ』の主題歌としてPassCodeがカバーした楽曲でもある。PassCodeのことは知らなくとも賭ケグルイは知っているという人はこの日の観客の中にもきっと多かったはず。そうした層への名刺代わりのアプローチであり、サービスとも言える選曲であったのだろう。事実Twitter上の感想では「賭ケグルイこの人たちが歌ってたんだ!」という声が散見された。

【ライブレポート】PassCodeの夏の幕開け-NUMBER SHOT 2022|muradan

もちろん主観的なことでもよくて、例えばめちゃくちゃ嫌なことがあって落ち込んだ週のライブで好きなグループの応援ソングに励まされた、みたいなごく個人的な「文脈」でも十分なトピックになりうる。


■フロアの反応

ライブはステージとフロアがあって成り立つもの。
この曲の振りコピがすごかった、笑顔になった、みんな泣いていた、拍手が一際大きかった、レア曲が来て声出し規制の中思わずどよめきが起こった、生誕のペンラ企画があって綺麗だった、推しジャンがすごかった、リフトが乱立した、サークルができた、などなど。

フロアの反応も合わせて書くことでライブの熱量がそのまま伝わる文章になるだろう。

「メンバーはどこから出てくるんだろう?」と思っていると、なんといきなりセンターステージに。これにはアリーナだけでなくバルコニー席の温度も上がります。

【ライブレポ】ぼくなりの白キャン5周年ワンマン|かべのおく

ワンマンという事もあって、Bメロの手拍子も迫力があり、会場は一体になる。

いつもとちょっと違うけど、いつもとおんなじ魅力(美味しい曖昧ワンマンレポ)|けたみ


個人的にはフロアの反応を書くことはステージの熱量を正確に伝えるための演出効果的なツールの一つと捉えているので、嘘は良くないが多少誇張的であったり、主観を事実のように書く部分があってもいいと思っている(生誕ペンラ企画などの事実をレポートするべきトピックは除く)。

伸びやかで芯のしっかりとした歌声を響かせる大上陽奈子のボーカルがそのメッセージを観客の心の深くまで浸透させていく。

【ライブレポート】PassCodeの夏の幕開け-NUMBER SHOT 2022|muradan

例えばこの記述は、実際に観客一人一人にインタビューしてメッセージが心に浸透したか確認したわけでは勿論ないが、少なくとも自分はそう感じたということをあたかも全体の反応であるかのように拡張して書いている。
大事なのはあくまでステージでそれだけのパワーのあるパフォーマンスが行われたと読み手に伝えることなので、そのための手段として嘘にならない範囲のことなら書いてよい、はず。


■最も印象に残ったシーンを設定する

文章のリズムと言う点に関して言えば、「その日最も印象に残った瞬間」を設定して、文章の中でそこに焦点が当たるように工夫するとよいだろう(分量を割いて描写する、やや大袈裟めの修飾句を用いる、エディタの強調機能を使う、あえてセトリの順序とずらして冒頭で書くなど)。

普段はそれぞれの声質の強さから歌割りを分けられることの多い大上と南が声を合わせ「2人なら…」と歌うパート、ドームの特大スクリーンに映し出された背中合わせの2人の姿はこの日最も美しい瞬間のひとつであった。

【ライブレポート】PassCodeの夏の幕開け-NUMBER SHOT 2022|muradan



(3)その日のライブの総括を書く

一通りライブの流れを追い終えたら、その日のライブの主題はなんだったのか、あるいはそこから自分が何を受け取ったのかを書くことで全体をまとめる。

「歌え!」という煽りが「手上げろ!」に言い換えられるようになって2年。この2年、突き上げた拳によるレスポンスは、もはやただ「声の代わり」とだけは言えないほどの想い出を積み上げてきた。広い会場で、歌に合わせて拳を上げれば、ファンかそうでないかはもう関係ない。それがロックフェスという大きな文化の中で受け継がれてきたルールであろう。
こうしてPassCodeもまた、名だたるアーティストが参加してきたNUMBER SHOTという祭りの列に合流した。

【ライブレポート】PassCodeの夏の幕開け-NUMBER SHOT 2022|muradan


上記の例では、名のあるロックフェスに今年初めて参加したという特筆すべき点に注目して、コロナ禍のグループの動向を踏まえたまとめを書いている。
その日のライブの主題、という部分で迷ったら、例えばライブのタイトルを参照することがヒントになるかもしれない。

「いつもとちょっと違う」のは、バンドセットというその構成だった。もちろんメンバーの気合の乗り方や、細かいダンスの違い(あまあまの間奏など)もあった。バンドが一切表に出てこないというレアな演出もあった。
(中略)
来年のワンマンライブの予定も発表された。

美味しい曖昧はどこまでも進化していくのだろうが、「いつもと同じ」居場所を、常に与えてくれるような気がしている。

いつもとちょっと違うけど、いつもとおんなじ魅力(美味しい曖昧ワンマンレポ)|けたみ


周年ワンマンなどの記念的イベントではグループコンセプトそのものに立ちかえりながらまとめると、そのライブの意義をより印象付けることができるかもしれない。

結局、地下アイドルオタクにとって推し始めるのに遅すぎるなんてことはないと思います。アイドルは投資ではありませんし、オタクはそんな合理的には動けません。すでに描かれたキャンバスを眺めているだけでもいいし、筆を取ってそこに何かを書き足したっていいと思います。

だから僕もこれからは真っ白なキャンバスが描く夢を見守りつつ、許されるならそこにときどき線を書き加えたり、色を付け足せるような関わり方ができたらと。

【ライブレポ】ぼくなりの白キャン5周年ワンマン|かべのおく


また、その日のライブで自分が受け取ったこと、自分自身に起きた変化を記しておくことは【1】で述べた記録価値の観点からも推奨されることである。

僕は5人にずっと付いていくと改めて心に決めると同時に、僕自身も「自分の道は自分で決め」られるよう、戦っていたいと実感した。

いつもとちょっと違うけど、いつもとおんなじ魅力(美味しい曖昧ワンマンレポ)|けたみ

そして、今回のワンマンは僕に救いをもたらしてくれました。それは白キャンのセトリにのせてこれまでを振り返れたからです。

【ライブレポ】ぼくなりの白キャン5周年ワンマン|かべのおく

こうした総括を書くことで、読み手にとっても「結局そのライブを一言で言うとどんなライブだったのか?」が分かりやすくなる。


(4)セットリストを書く

レポート中どこかしらに、MCの位置・アンコールの位置などを含めた正確なセットリストの一覧を載せておくのが望ましい。
(1)の基礎情報と一緒に載せてしまってもいいし、(2)の本体となる文中に載せてもいい。
個人的にはレポートの最後に補足的に、改めて基礎情報とともに載せるのが好みなのでそうしている。

【ライブレポート】PassCodeの夏の幕開け-NUMBER SHOT 2022|muradan

以上(1)〜(4)があればライブレポートとして十分な体裁が整った文章が書けると思う。
以下ではさらに、+αとしてよりリッチなレポートを書くために工夫できそうなポイントを紹介していく。

(+α1)会場までの道のり・開場中の出来事について書く

会場へのアクセスや前物販、開場中のフロアの会話について書くとそれだけでライブに参戦する臨場感を演出することができるだろう。

水道橋までは、三田線を使ったほうが楽だった。

【ライブレポ】ぼくなりの白キャン5周年ワンマン|かべのおく

掴みの何気ない一文で会場までの道のりがリアルに想像されてワクワクするような例。


仕事を終えて職場から急いで新宿駅へと向かう間、イヤホンで美味しい曖昧の楽曲を聞きながら「ちょっと違う」の意味について思案していた。

新宿のトイレの個室でスーツから「曖昧なオタク」Tシャツに着替え、準備万端。新宿ReNYへと向かった。

いつもとちょっと違うけど、いつもとおんなじ魅力(美味しい曖昧ワンマンレポ)|けたみ

社会人オタクがスーツからグループ Tシャツに着替える描写、リアル。
レポーターのその日の行動をそのままに追体験できる導入になっているので、後のライブ部分にスッと没入することができる。


17日にホーム・心斎橋で、18日にツアー名古屋でそれぞれ6周年記念のライブを終えてきた両グループとそのファン達が続々とESAKA MUSEに集う。場内、VIPチケット入場者が中心となる前方エリアは特にヤナミューのファンが多く集まっているようであるが、「今日のセトリはヤナミューに寄せてきますかね?」といったラキアクルーの会話もちらほらと聞こえてくる。

【ライブレポート】ヤなことそっとミュート×我儘ラキア-YSM SIX TOUR in 大阪 ESAKA MUSE 2022.06.19|muradan

上記は筆者による2グループによる対バンライブのレポートで、開場時間中に実際に筆者がフロアで耳に挟んだ会話を元にその日の客層をなんとなく掴みながら、後に書く「その日のライブの位置付け」につながるような導入を意識して構成している。

現場に行けば見知ったオタク仲間がいるような場合であれば、その日その日の他愛ない会話が臨場感を演出するトピックになってくれる場合もあるだろう。


(+α2)特典会とtwitterで収集した情報を活用する

地下アイドル現場のレポートでぜひ実践するべきだと思うオススメなポイントが、特典会でメンバーから直接聞いた情報を盛り込むことである。
別に取材記者ではないのでレポートのために質問するようなことは全くしなくてよいのだが、特に意識しなくとも普段の特典会の中でその日のライブについて「あの曲の時実は〇〇だったんだよね」みたいなことを聞く機会って結構ないだろうか。

今まさにライブを終えたばかりのメンバーから直接ライブについての情報を聞けるって結構すごいことなので、特典会の何気ない会話の中で聞くことができたエピソードやトリビア的な情報はぜひレポートに盛り込んでみてほしい。それだけでそのレポートをそのエピソードをメンバーから直接聞いたあなたにしか書けないレポートにすることができる。


先手、我儘ラキアが温めに温めた会場に流れる、「ヤなことFriday」。星熊南巫をして「天使みたいな女の子たち」と言わしめたメンバーたちが、笑顔で手を振りながらステージに現れる。

【ライブレポート】ヤなことそっとミュート×我儘ラキア-YSM SIX TOUR in 大阪 ESAKA MUSE 2022.06.19|muradan

細かいのだが、上記の例で「温めに温めた会場」とやや誇張的に書いたのは、この日の特典会で筆者自身がヤなことそっとミュートのメンバー・なでしこさんから「今日ステージがめちゃくちゃ暑かったんだよね」と心底暑そうな顔で教えてもらったことに由来していたりする。


また情報収集先としてtwitterも有用である。
自分と離れた位置で見ていたファンによる感想を見て見落としていたトピックを拾ったり、主観的な感想を客観的な感想に変換したりできる。

抽選で入場できる最前スタンドエリア、アリーナ指定席、スタンド指定席と徐々に埋まっていく福岡PayPayドームに鳴り響く爆音のバンドリハーサル。トッパーはアイドルなのか、と構えていた初見のオーディエンスが、そのサウンドに早くも驚く様子も見られた。

【ライブレポート】PassCodeの夏の幕開け-NUMBER SHOT 2022|muradan

この例では「暗い会場で初見のオーディエンスを見分けて観察し驚きの表情まで読み取っていた」かというとそんなことはなくて、リハ中にtwitterでパブサをかけたときに多数見られた驚きの声を反映して描写しているのである。


(+α3)サブテーマ・裏テーマを設定してみたり伏線回収してみたりする

完全に上手くは説明できないのだが以下のレポートを読んでみてほしい。

アイドルの卒業公演のレポートなのであるが、冒頭以下の文章から始まる。

サッカーにそれほど詳しくないよ、という人でも、レアルマドリードという名前くらいは聞いたことがあるはずだ。そしてたぶん、だいたいこう続くはずだ。ああ、あのお金持ちのクラブね、と。

菅井友香がレアルマドリード過ぎた卒業公演|lovelikefoot

写真3枚と冒頭数十行を使ってレアル・マドリードの入門的解説が行われていて、サッカーど素人の筆者でも何となくクラブのポリシーとサッカー界での位置付けがふむふむと頭に入る内容になっている、のはいいのだが、ライブの内容とレアル・マドリードは直接何も関係ない
何も関係ないのだが、最後まで読めばなぜこの話からレポートに入るかがわかるように構成されていて納得感があるのである。

このように一見関係ないように見えるが書き手自身の脳内では確かに繋がっているようなテーマを裏テーマとして持ってきて、そのタネを明かすように構成すれば、「読み物として面白い」「オマケ的に知識が増える」といった点から文章の付加価値・あるいはクオリティを高めることができる。

いつもいつでも使うことができる技ではないが、書けそうなネタが思いついた時には試してみると面白いと思う。

先ほどから例に挙げている筆者によるレポートでは、PassCodeが出演したステージが「山笠ステージ」という名前であったところから文章を起こしている。

福岡には博多祇園山笠という祭りがある。
毎年7月1日から15日までの15日間、人、商業施設、メディア、交通、食に至るまで街全体が一体となってこの祭りのために動く夏の一大イベントである。
最終日7月15日のフィナーレとなるレースイベント「追い山」では、「山」と呼ばれる、絢爛な人形飾りを施した神輿を人々が担ぎあげ、早朝の博多の街を疾走しそのタイムを競い合う。
700年以上の歴史を持つこの祭りは、博多に暮らす人々が脈々と伝え、受け継ぎ、大切にしながら楽しんできたものだ。

【ライブレポート】PassCodeの夏の幕開け-NUMBER SHOT 2022|muradan

冒頭でこの導入を書いておくことで、「オチ」の部分の表現につなげて文章全体を一つのストーリーにまとめ上げることを意図している。
具体的につなげている点は以下の2点で、

広い会場で、歌に合わせて拳を上げれば、ファンかそうでないかはもう関係ない。それがロックフェスという大きな文化の中で受け継がれてきたルールであろう。
こうしてPassCodeもまた、名だたるアーティストが参加してきたNUMBER SHOTという祭りの列に合流した。

【ライブレポート】PassCodeの夏の幕開け-NUMBER SHOT 2022|muradan

まず「伝統的な博多の祭り」と「福岡の夏フェス」をかけてオチを作り、

博多の街では、7月15日に山笠の祭りが終わると梅雨が明け、本格的な暑い夏がやってくると言われる。
PassCodeはこの日の山笠ステージを皮切りに、同日大阪の「猿爆祭」など4つの夏フェスに出演する。
PassCodeの熱い夏が今、始まった。

【ライブレポート】PassCodeの夏の幕開け-NUMBER SHOT 2022|muradan

「山笠と梅雨」に関する伝承でもうひとオチ作り、グループのその後の展開にまで言及するように構成している。

このように裏テーマを設定すると、より書き手の個性が現れたオリジナルなレポートを残すことができる。と思う。


まとめ

さまざまな実例から小手先テクニックらしきものの紹介まで行ってきたが、これくらいなら自分にも書けそう、と思ってもらえただろうか。

  • 素人の文章でもライブアイドルのライブレポートには様々な価値が発生しうる

  • 一口にライブレポートと言っても本格的なものからひとことから始める手を出しやすいものまで形式はいろいろある

  • ライブレポートには一定の型があるのでツボを押さえればそれっぽいものが書ける(はず)

ということが分かってもらえれば何よりである。
そしてぜひあなたの推しグループのライブレポートを書いてほしい。

だって自分が文章読みたいから(結局)。



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