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【ライブレポ】透色ドロップ「透色の秋 全国ツアー2022」 新潟公演

「透色ドロップの強みってなんだろうってみんなで悩んだりするんですけど」

5曲連続のハードなセットリストを終え、ライブの幕を閉じようかというとき、佐倉なぎさんが言いだしました。
「アイドルが有限だということをこの7人がよくわかっていて、今のアイドル人生をみんな一生懸命生きている。」

2022年9月10日、7人組アイドルグループ・透色ドロップの全国7箇所を巡るツアー「透色の秋 全国ツアー 2022」が新潟LOTSにて開催されました。
9/3の初日・東京公演に続く2会場目です。

MCなしで立て続けに5曲も披露するというのは、少なくとも透色ドロップのライブではそうそうありません。
満員のなか行われた前回東京公演でも最大4曲でした。
しかもその5曲はどれも細かなビートの、激しい振り付けの曲ばかりです。
腰に痛みを抱える見並里穂さんはこのブロックを迎えるにあたって「不安だった」そうで、酸欠になりかけたメンバーもいました。
瀬川奏音さんは大粒の汗をぬぐっています。
佐倉さんも「これまでにないほどしんどい」と息を切らしながら、なおも続けます。

「ダンスや歌や表現に、その有限さを落とし込めているところが強みなんだと私は思う。」
(意訳です。)

以前、佐倉さんが残したコメントを思い出しました。
3月の単独公演「瞬間的記憶」でした。

「女の子のアイドルグループが同じ形で長いことあり続けることは難しい」

勤めていた仕事を辞め、第二の人生として透色ドロップのオーディションに佐倉さんが応募したのが恐らく21歳の時。
2年近く前のことです。
一般的にみれば若すぎる「転職」ですが、アイドルとしてみればたいてい23~5歳でオーディションへの応募資格を失ってしまうので、特段早すぎるわけでもありません。
今アイドルをしている方でも、年齢的な問題から今のグループへのオーディションを「ラストチャンス」としていた人は多いそうです。
佐倉さんもラストチャンスのつもりだったのかもしれません。
そして、佐倉さんの言うように、いざグループが動き出すと直面しなければならないのが様々な変化です。
その時々の方向性や考え方などはかなり流動的で、同じままでいることは稀です。

休日や平日問わずライブが入っているライブアイドルは消費のスピードが速く、現状維持は退化という考えを軸とするとどうしても変わっていかざるを得ないという面もあるのでしょう。

こちらとしてもそれだけ頻繁に開催されるライブの全てをカバーすることはどだい無理な話で、そうなると一つのライブに行かないことをさほど大きなロスと考えなくなっていくのですが、少し間を空けたとき、時間としてはさして経っていないはずなのに、その間にグループが驚くほど様変わりしていることに気づいたりすることも珍しくありません。
傍からみてとても調子良さそうに見えていたのに、いつのまにか立て続いたメンバーの卒業などで存続が怪しくなっていることさえもあります。
アイドルから見る一年と、世の中に流れている365日は、象とネズミくらい感覚が違うものなのかもしれません。

「このライブは行けなくても仕方がないか」その一つ一つの積み重ねが最後の時に後悔となって現れたりするのですが、後悔するということは当然ながらもう手遅れだったということです。

業界的には決して早すぎない年齢でアイドルの世界に身を投じた佐倉さんだからこそ、この世界で居ることの儚さを強く意識しているのでしょう。
手遅れになる前に目に焼き付けてほしいから、何度も言葉にして発信しているわけです。

そして、佐倉さんは力説します。
透色ドロップというグループこそ、自分たちの脆さや儚さを理解し、パフォーマンスで体現している数少ないグループなのだと。
過去の単独・ツアータイトルには「瞬間的記憶」「目に見えない大切なもの」といった言葉が掲げられています。
これらも、刹那を生きる透色ドロップを形づくる大切な言葉たちなのでしょう。

「言葉にするの苦手なんだけど...」と謙遜してたものの、ラストのコメントは聴き入ってしまう内容でしたし、あくまでさらっとした口調のおかげで空気が重く冷めきってしまう感じもありませんでした。

会場の地、新潟は佐倉さんの地元でした。
2年近くアイドルとして活動し、2年前とは違う立場で帰ってきた佐倉さんが残したコメントは、透色ドロップというアイドルをやってきて得た一つの答えでした。

ーーー

ここからはライブの内容に入っていこうかと思います。
MCやトークの内容が中心になります。

会場に入り、まず圧倒されたのが広さでした。
ステージの幅や奥行きもさることながら高さがあり、ぎゅうぎゅうでなければどこに立っていてもよく見通せそうです。
「透色の秋」のツアーロゴがかかれた垂れ幕が、前回の渋谷DIVEより明らかに高い位置に掲げられていることも、会場の高さを誇示しているかのようです。
垂れ幕はしわもなく綺麗に広げられ、開演前にはブルーのライトが何本か当たっていました。

ライブは16時30分ちょうどに始まりました。

一曲目は「夜明けカンパネラ」。
イントロ前のぼんやりとした音が果てしなく続いていく気がしました。
いつもは前の曲のアウトロにかぶさってイントロが鳴り出すことが多く、フライング気味の印象があるこの曲ですが、前に曲がないと音源通りの長さでした。
フォーメーションについてから動き出すまで、かなり長めの空白が生まれます。

背中を向けていたセンターの佐倉さんがターンするのが、この曲の始まりです。
長い長い音が中央に集まり、佐倉さんが振り向きました。
同時にイントロが鳴り出します。
1回、2回と腕を下ろすのは、小さな鐘を意味するカンパネラのイメージなのでしょう。
佐倉さんがいたからこそ実現した新潟公演、真っ先にスポットライトが当たるメンバーはやはり佐倉さんでした。
佐倉さん推しの方も多く来られていて、メンバーカラーの真っ赤なサイリウムがいつも以上に伸びてとても綺麗に光っています。

この日は会場の音の抜けが抜群でした。
空間としては広いのに、音が勢いを失わずに頭上で伸びていきます。
スピーカーから音量をさほど出しているという感じでもありませんでした。
それなのに、しっかり届いています。

キュンと。」から「君色クラゲ」まで、前半戦は明るい曲。
序盤での会場の雰囲気もすごく良かったです。

いつも不思議に思うのが、地方と都内とでライブの乗り方みたいなものにどういうわけか差があるということです。
なぜか地方のほうがおとなしく見えてしまうのです。
その地方の近くに住む、ほぼ初見のような方が来られているからなのかもしれませんが、どこに遠征しても大抵ついてくるような濃いファンの方たちもたくさん来られているはずで、彼らのほうが数としてはよほど多いはずです。
そのため都内と変わらない雰囲気になっているかと思いきや、意外とそういうわけでもなさそうです。
自分が勝手に思っている以上に地元やその付近の方が多いのかもしれませんし、もしくはその地方なりの空気が確かに存在するのかもしれません。
この日は、大入りの初日公演のような爆発的な盛り上がりこそなかったものの、メンバー主導で会場全体が心を開いて打ち解けている感じが強くありました。
こちらのほうが居心地が良いです。

前半に短いスパンで入ってきたMCコーナーも、その象徴かのようでした。
もしグループのラジオ番組があったのなら、こんな雰囲気なのかもしれません。

一応は事前に大まかな流れの打ち合わせをしているのだと思いますし、ちゃんとトークテーマもあるのですが、実際に話始めてみると流れを意識しながら進めていくメンバーもいる一方で、脱線気味に自由に話し出すメンバーもいたり、それぞれが一通り喋ってみて会話の方向が定まってくるような、本当の意味でのフリートークに近い印象を受けます。
若干の間が空いてもそれでいいみたいな雰囲気で、誰も慌てません。

今回に限らず、とんでもない空気となったときに「気まずい」「この話やめない?」とあえて言うこともありました。
気まずいなんてわざわざ言わなくてもいいことですが、言ってしまうことにまたおもしろがあります。
面白いものも文章にするとニュアンスなどが伝わりきらなくて面白くなくなってしまうので、MCの様子を進んで書きたいわけではないのですが、つい書いてしまいたくなるようなゆるっとした時間が流れています。
舞台の上だからといって変に取り繕おうとしないところが自然体で良いなと思います。

昨年の透色ドロップ第二章の立ち上げからずっと一緒にいる6人が仲良しなのは知っていましたが、後から入った梅野心春さんもすっと馴染んでいて、前泊した晩の話になったとき、サウナの水風呂で佐倉さんに追い打ちをかけたエピソードでは佐倉さんに「この人ヤクザです!」と言われていました。

場内に椅子が並べられ、MC中われわれは座っていたことも、ラジオの公開収録の観覧のような感じを強めていた気がします。

野暮とは思いながらも、そんな空気を少しでも保存しておきたいので、この日のMCテーマの一つであった「むかしはどんな子供だった?」というテーマについて、7者7様の思い出話をここに書いていこうと思います。

天川さん:かなりのパパっ子だった
梅野さん:人見知り過ぎて小学校の給食で誰ともしゃべらなかった
花咲さん:ダンス?をしていたので髪をずっとあげていた
瀬川さん:習い事の日々だった
佐倉さん:進研ゼミを放置して怒られた
橘花さん:今とはまるでビジュアルが違った
見並さん:体力がなさすぎて、本5冊を持って帰るのも大変だった。

ここでも話の割り込みがあったり、マイクに乗らないような声で毒を吐くメンバーがいたりと、笑いどころがいくつもありました。

そんなくだけた雰囲気のまま、ライブはラストのパフォーマンスへと移ろうとしています。
曲振りは橘花さんの予定でした。
ところが、「これで最後のMCだよ!なぎちゃん言い残したことないの?」と佐倉さんに振ったところで流れが変わりました。
急遽佐倉さんがなにかコメントを残す流れに。
直前までエピソードトークをしていて、ひとしきり笑いが起こった後でした。
本人もまさか自分に飛んでくるとは思っていなかったはずなのですが、橘花さんの機転は今にしてみればファインプレーでした。
ただ、振られた時点ではそんなことを知る由もなく、話がどこへ向かっていくのかも誰も分かりません。
ややごちゃついた空気の中、佐倉さんが話し始めました。

「社会人を辞めて第二の人生をスタートさせたとき、新潟でライブをやるなんて思っていなかった」

ライブアイドルと呼ばれるジャンルで、ツアーをすることは簡単なことではありません。
人気度や、メンバーの努力や意志、運営のサポート、あるいは巡り合わせや運の要素だってあります。
あらゆる要素がプラスのほうにかみ合ってようやく成し遂げられるものです。

去年までの透色ドロップは全国ツアーをしたことがありませんでした。
東京と大阪の2箇所のみです。
この頃にはまだ新潟でライブをするイメージは恐らくなかったでしょう。
それが今年に入り、風向きが変わりました。
昨12月、今年3月の都内での単独公演の後、5,6月に見並さんの地元・九州の福岡を含む5大都市ツアーを開催し、夏の大きな舞台を経て今回、「透色の秋」ではさらに規模を増して宮城と新潟が加わりました。

特に新潟など、佐倉さんの地元だからというのが開催地に選ばれた大きな理由でしょうが、しかしそれだけで実現してしまうほど簡単な話ではないと思います。
北陸や甲信越地方は、新潟にNegiccoというレジェンド的グループがいるもののアイドル不毛の地であり、関東からのアクセスが悪くないにも関わらずあまりアイドルが根付いていない印象があります。
普通は、ツアーを開催するとなっても候補にはなかなかのぼらないのでしょう。
どれだけ入るのかという現実的な問題と相談してゴーサインが出るものだと思っています。
そんな地でライブが出来たのは、透色ドロップがこの1年間で単独ライブやツアーをいくつも成功させ、対バンやフェスでも真っ先に呼ばれたりメインステージに立つ機会が増えだしてきたという実績があったからこそ叶ったことなのだと思います。

しかも前回ツアーから今回のツアーまで空いた期間は2カ月とちょっと。
そんな短いスパンでツアーができるグループもそう多くはありません。
前回ツアーに先がけて公開された「だけど夏なんて嫌いで」のMVは9月現在で6万回再生を越えています。
ライブアイドルにとってみればかなりの数字です。
ここからなにかの拍子に一気に人気が高まっても何も不思議ではありません。

しかし佐倉さんは、順調だからこそ足元を見つめないといけないと思っているようでした。
そこには、後のMCでも繰り返す「アイドルの儚さ」がつきまとっているのでしょう。
今後ステージが大きくなっていき、一人一人のファンのことを覚えることが難しくなりそうな未来を想像しつつ、今会場にいる人たちと束の間のコミュニケーションを取っているような感じにも見えました。
笑いから始まった話し始めはそんな雰囲気でもなかったのに、言葉を重ねていくにつれて場内が静かになっていきます。
メンバーも神妙な顔つきになっています。

「7人で作る物語はまだまだ終わらないので、見届けてほしいです」

全てを言い終わった後、天川さんが「よかったと思います」と、どこか他人事みたいに感想を口にして場がなごみました。

そしてラストの曲目へと移っていきます。
ここまではMCが多く逆に曲が量的に少なかった印象で、「これがラストのブロックです!」と繰り返しているのを見て「もう終わりなんだ」と少し物足りなく思っていたのですが、むしろ本番はここからでした。
まずは「だけど夏なんて嫌いで」。
もうすっかりセットリストに定着しました。

続いてかかった長めのSEは「アンサー」へとつなぐ音楽です。
空気が重くなる曲であり、SEから丁寧に誘導されたことからこの後に曲が続くイメージがわかなく、若干早すぎるとは思いながらこれで終わりなのかと一瞬よぎりました。

しかし、ふと見るとアンサー終わりのフォーメーションとは違う並びになっています。
メンバーが横一列になって何歩か前に出てきていました。

その途端、バチバチとした電流のような音が流れ出しました。
「バカになれー!」見並さんが絶叫します。
桃郷事変」でした。
こちらも曲本編に先だってSEから始まります。
他のグループではあまりお目にかかれない曲間のSEはライブでいい助走になっていて、この数十秒間で雰囲気がすっかり出来上がります。
周りにとりのこされないよう流行りに乗り、外観を取り繕うことの滑稽さを歌ったこの曲は、透色ドロップ随一のファンキーソング。
そんなメッセージに共感してせいせいするからなのか、生で聴いて一番スカッとする曲です。
SE無しになだれ込んだ次の「りちりち」と事変はセットといっていいと思います。
君色クラゲ」とも違えば「ネバーランドじゃない」の雰囲気でもないこの2曲は、透色ドロップの曲の幅を相当広げたと思います。
「りちりち」はファンを置いてけぼりにするくらい難しいダンスがいくつもあり、特に2番サビ後の感想で右→左と腕を回すきわめて簡単な動きの後、腕をクルクルとさせるワッキングのような振り付けが入り、突如として難易度が上がります。
このときのメンバーは立て膝。

つまり、ステップがありません。
動かしているのは上半身だけなのですが、これが非常に難しく見えます。
何をどうやっているのかがよくわかりません。
生でしっかり見たいと思ってはいるのですが、立て膝なのでライブハウスくらいの規模だと最前列にいないかぎり見ることが出来ません。

ラストは「ネバーランドじゃない」。
この日のラストです。
結果として東京公演と同じ14曲を披露。
少し後ろから観ると、フロアから伸びる7色のサイリウムが一段と綺麗でした。
どの色が一番数が多いということではなく、均等に光っているように見えました。

「夢のなか僕と君がいる世界 いつまで覚めずにいられるだろう」

最後ということもあり、この歌詞が響いてきます。
夢が覚める時間が近づきつつも、なんとか抵抗したいという気持ちのせめぎあいがありました。

最後にかけての5曲連続は執念でした。
この日のセットリストはかなりかなり極端で、3回のMCを挟んで2,3,4,5曲のブロックという、後半にかけて密度が濃くなっていったような構成になっていました。
ラストのブロックの前に感じた消化不良感は今にしてみればフリでした。

記念撮影が終わり、一人ずつ上手袖に捌けていって最後の橘花さんが深々とお辞儀をして消えていったあと、拍手が止みませんでした。
スタンディングオベーション的なものではなく、再登場を願う拍手です。
東京公演ではこの日と同じ曲数で、アンコールがありませんでした。
もうメンバーが出てこないであろうことはほとんどの方が分かっているはずなのに、拍手は鳴り続けます。
自分は終わって早々に帰りかけていましたが、もしかしたらこの拍手に押されてもう一度挨拶くらいしに出てくるのではないかという気持ちもうっすらと芽生えてきて、遠巻きに様子を眺めていました。
やがてスタッフの影ナレが入り、場内が明転したことで本当に終わりなのだという空気になっていったのですが、予定調和ではないところから生まれた拍手は会場の響きの良さもあって非常に美しかったです。

新潟LOTSを出ると、外はもうすっかり暗くなっていました。
時刻は18時10分をまわったところです。
街灯が少ないからか、やけに暗い道を歩きながら、佐倉さんのコメントを反芻していました。

◆9/10セットリスト
ーーー
SE
M1. 夜明けカンパネラ
M2. キュンと。
ーーー
M3. きみは六等星
M4. 恋の予感!?
M5. 君色クラゲ
ーーー
M6. 自分嫌いな日々にサヨナラを
M7. 君が描く未来予想図に僕が居なくても
M8. 孤独とタイヨウ
M9. ≒
ーーー
M10. だけど夏なんて嫌いで
M11. アンサー
M12. 桃郷事変
M13. りちりち
M14. ネバーランドじゃない

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