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【ライブレポート】PassCodeの夏の幕開け-NUMBER SHOT 2022

福岡には博多祇園山笠という祭りがある。
毎年7月1日から15日までの15日間、人、商業施設、メディア、交通、食に至るまで街全体が一体となってこの祭りのために動く夏の一大イベントである。
最終日7月15日のフィナーレとなるレースイベント「追い山」では、「山」と呼ばれる、絢爛な人形飾りを施した神輿を人々が担ぎあげ、早朝の博多の街を疾走しそのタイムを競い合う。
700年以上の歴史を持つこの祭りは、博多に暮らす人々が脈々と伝え、受け継ぎ、大切にしながら楽しんできたものだ。

飾り山と呼ばれる大きい神輿。担いで走るときはもう一回り小さいサイズの山笠を用いる。

感染症の影響による中止を乗り越え、約3年ぶりの開催となった2022年の追い山行事。
その熱気がまだ微かに残る7月18日の朝、NUMBER SHOT 2022 二日目のトップバッターを任されたPassCodeは、まさにその「山笠」の名を冠した巨大なステージに立った。
本稿ではその様子をレポートする。


抽選で入場できる最前スタンドエリア、アリーナ指定席、スタンド指定席と徐々に埋まっていく福岡PayPayドームに鳴り響く爆音のバンドリハーサル。トッパーはアイドルなのか、と構えていた初見のオーディエンスが、そのサウンドに早くも驚く様子も見られた。

午前10時30分、フェスのオープニングカウントダウンに導かれオンタイムで幕開けたステージ。
SEに乗せてまずはバンドメンバーの4人が登場。続けて、武道館公演を行った際の黒衣装に身を包んだPassCodeの4人が現れた。

「ナンバーショット始めようか!」と南菜生の号令から始まったこの日の1曲目は《Ray》
PassCodeがステージに立つ意味を歌ったメジャー3rdシングル表題曲である。
この日、キャリアの中で初めてドーム会場のステージに立ったPassCode。これまでより一回りも二回りも大きな舞台に対し、きっと心理的にも技術的にも戸惑う部分があったであろう。しかしこの《Ray》という曲はその舞台のスケールに遜色ない大きなポテンシャルを持っている、ということがハッキリと示された見事なパフォーマンスであったように思う。

続けて披露したのは《FLAVOR OF BLUE》。有馬えみり加入後のリリースであるこの曲は、今のPassCodeの姿を最も雄弁に語ることのできる曲のひとつだ。
さらに続く《一か八か》も、いつの間にやら有馬えみりの多彩なボーカルスキルが堪能出来るモンスターナンバーへと進化を遂げていた。歪みながらもしっかりと詞のメッセージが聴き取れるメロディックなシャウト、地の底から響くようなグロウル、耳をつんざくフライスクリーム、そしてそれらと対極に位置する明るいクリーンボイス。
ラウドサウンドに耳の肥えたロックフェスの観客をも思わず唸らせるステージングで序盤のインパクトはばっちりである。

また、《一か八か》は映画『賭ケグルイ』の主題歌としてPassCodeがカバーした楽曲でもある。PassCodeのことは知らなくとも賭ケグルイは知っているという人はこの日の観客の中にもきっと多かったはず。そうした層への名刺代わりのアプローチであり、サービスとも言える選曲であったのだろう。事実Twitter上の感想では「賭ケグルイこの人たちが歌ってたんだ!」という声が散見された。

《SPARK IGNITION》ではテーマカラーの黄色に灯ったムービングライトが広いドームを鮮やかに彩った。それにしても、随所で発揮される高嶋楓のアイドルスキルの高さには舌を巻くものがある。凛とした歌声に溢れる笑顔、ドーム会場であっても手前から遠くまでしっかりと目を配る様、どこをとっても非の打ち所がない。往々にして「アイドルらしからぬ」「アイドルを超えた」などと形容されがちなPassCodeであるが、決してアイドルとしての属性を蔑ろにしたり、低く見ている訳ではない。それは例えば今年5月に5年ぶりの復帰を果たしたアイドルフェス・MAWALOOPでのステージで示された通りであるのだが、ロックフェスであるこの日のステージでもそのスタンスは貫かれていたし、その先頭を担うのが高嶋のステージングであると筆者は考えている。

曲振り含めほとんどMCを挟むことなく楽曲を詰め込んで勝負したこの日のセットリスト、終盤を彩った2曲はいずれもPassCodeにとって、今なお続くコロナ禍と切り離せない縁を持った楽曲である。
《STARRY SKY》は世界に訪れる災禍の中で、大切な人と自らの意思で選びとった道を進むことを歌う。この日NUMBER SHOTに出演したアーティストの多くが、コロナ禍の中で音楽シーンが受けたダメージと、そうした日常の中でどうにか前へ進んでいくための希望について、様々な言葉で語った。PassCodeはMCでそれらについて触れることはしなかったものの、この曲の中にその想いの丈が託されていたはずである。
伸びやかで芯のしっかりとした歌声を響かせる大上陽奈子のボーカルがそのメッセージを観客の心の深くまで浸透させていく。
普段はそれぞれの声質の強さから歌割りを分けられることの多い大上と南が声を合わせ「2人なら…」と歌うパート、ドームの特大スクリーンに映し出された背中合わせの2人の姿はこの日最も美しい瞬間のひとつであった。

また《Anything New》はコロナ禍において制作され、アンセム的なシンガロングパートを持ちながらもまだ一度もライブ会場のフロアで観客の歌声を響かせることのできていない楽曲である。いつか、この日のような大観衆の会場で全員で一緒に歌えることを夢見ながら、今日もまた声の代わりのクラップとともにこの曲が紡がれた。

「アイドルだから出られなかったイベント、アイドルだからとライブを観てもらえなかったこと、そんなことが何度もありました。そういう日々を乗り越えて今日ここでNUMBER SHOTがPassCodeを選んでくれて、皆がPassCodeを選んで観に来てくれて、本当に良かったと思います」

「アイドルだから」と「アイドルらしからぬ」の間で葛藤してきた胸の内を明らかにする南の短いMCを挟んで最後に披露されたのは、PassCodeとハッカー(PassCodeのファン)が最も大事にするライブアンセム《It's you》
《Seize the Day》からずっと受け継がれるこの曲の旋律は、節目節目で「大きなところでやってみたかった」「次はもっと大きな景色で」「また絶対に歌おう」と何度も「次の大きな景色」を約束されてきた旋律である。
今日この日、PassCodeはこの歌とハッカーを自身最大規模であるドームの舞台へと連れてきてくれた。
「歌え!」という煽りが「手上げろ!」に言い換えられるようになって2年。この2年、突き上げた拳によるレスポンスは、もはやただ「声の代わり」とだけは言えないほどの想い出を積み上げてきた。広い会場で、歌に合わせて拳を上げれば、ファンかそうでないかはもう関係ない。それがロックフェスという大きな文化の中で受け継がれてきたルールであろう。
こうしてPassCodeもまた、名だたるアーティストが参加してきたNUMBER SHOTという祭りの列に合流した。

終演後、ステージを降りるメンバーの最後尾を行く南が立ち止まって振り返り、「最後まで気をつけて楽しんで!」と伝えた姿は、自身も数々のライブやフェスに通う音楽ファンであることが知られる彼女らしい、シーンへのリスペクトが込められたワンシーンであった。


博多の街では、7月15日に山笠の祭りが終わると梅雨が明け、本格的な暑い夏がやってくると言われる。
PassCodeはこの日の山笠ステージを皮切りに、同日大阪の「猿爆祭」など4つの夏フェスに出演する。
PassCodeの熱い夏が今、始まった。



2022年7月18日(月・祝)
NUMBER SHOT 2022 Day2
福岡PayPayドーム 山笠ステージ
PassCode セットリスト

  1. Ray

  2. FLAVOR OF BLUE

  3. 一か八か

  4. SPARK IGNITION

  5. STARRY SKY

  6. Anything New

  7. It's you


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