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ゲーテ「ファウスト」第10章 【悲劇第二部】第五幕 ファウストのたましい:感想

こんにちは。

ゲーテのファウストを読んだ感想の第11回目で最終回になる。
この第二部では、何を風刺しているのか、示唆しているのか、なんのメタファーだか分かりにくいストーリーになっている。

それで、この投稿を始めたきっかけはC.G.ユングを読み漁り始めたところゲーテの「ファウスト」に高評価を与えていることがわかったからである。

読んだと言うよりは聞いたのであるが、こちらを聞いた。

目次はこのとおり。

序章
第1章 【悲劇第一部】メフィストフェレスとファウスト
第2章 恋に落ちたファウスト
第3章 ファウストとマルガレーテ
第4章 罪
第5章 ワルプルギスの夜
第6章 【悲劇第二部】第一幕 いつわりの国
第7章 第二幕 古代のワルプルギスの夜
第8章 第三幕 ファウストとヘレネー
第9章 第四幕 戦
第10章 第五幕 ファウストのたましい

ファウストの目次

【悲劇第2部第5幕】
第10章:ファウストのたましい
⭕️主な登場人物
・メフィストフェレス:誘惑の悪魔
・ファウスト:哲学、医学、法学、神学まで学んだ博士、先生。生きる喜びを失っている。
・聖母マリア他、マリア様多数。
・罪を贖う女たち
・フィレモンとバキュウス:ファウストが王として支配する土地に昔から住む老夫婦。
・心配:死神の妹の一人

⭕️あらすじ
前の幕では、ファウストはファルツ帝国皇帝への反乱軍の鎮圧にメフィストの化け物軍団の力で勝利する。そして、皇帝から開墾のための海岸を褒美として譲り受けて、そこの王となった。

広々とした土地に菩提樹が立っている。そこに旅人が現れる。
旅人は昔、難破してこの海岸に打ち上げられた経験をした。その時助けてくれた小屋の住人フィレモンとバキュウスという老人と老婆に再会する。
 
周辺の土地の新しい王様について旅人に話をする。新しい王は城と堀と土手を建設して海を埋め立てている。港のあたりには新しく住人達が増えたことを語る。
 
フィレモンとバキュウスは海岸を見渡せ、かつ住んでいるところの小屋と丘からの立ち退きを命じられていることを話す。変わりの土地は元は海底だったので移りたくはない。
 
新しい王とはファウストのことである。一度は若返りの薬を飲んだファウストも再び老いていた。教会の鐘の音を聞きながら、菩提樹と教会と小屋がまだ自分のものなっていないことを不満に感じている。
 
メフィストと先の戦で参加した三人の戦士が乗った船が帰港。彼らはファウストの家来として世界中の財宝を集めている。出港した時は2隻だった船が20隻になるほどの財宝を持っての帰港。何やら海賊行為を働いているようである。メフィストは力が強いものこそ正義とファウストに力説する。
 
海を海岸から沖へ押しやることに成功し、世界の財宝も集めて世界を抱き寄せているではないかとメフィストは言うが、ファウストは、しかめ面である。菩提樹のあたりの土地が手に入らないことが不満だと述べる。
 
ファウストはメフィストに、フィレモンとバキュウスを立ち退かせるように依頼する。三人の戦士にメフィストは指示する。荒っぽい所業でフィレモンとバキュウスと居合わせた旅人を殺してしまった。
 
ファウストはメフィストと三人の戦士を叱責するが後の祭り。そこに4つの影が夜の庭にやってくる。灰色の女のような影の名は、不足、心配、罪、苦しみ。三人は帰って行った。彼女らは死神の妹たち。一人残った”心配”がファウストのもとにやってきて、ささやく。
 
「”心配”という名の私の手のもとに落ちれば、誰であっても世界の全てのものが役に立たなくなるものです。闇に包まれ太陽が昇ることも沈むこともありません。心のうちに闇が住み着いてしまうからです。幸せも不幸も気まぐれになり、喜びも悲しみも明日に推しやってしまう。待ち望んだ未来は訪れることはありません。」と。
 
ファウストは”心配”のいうことは認めないと強く否定する。しかし、”心配”は「それでは、私の力をお見せしましょう。人間は一生、きちんと物事を見ることはできないのです。ファスストさん、あなたの目も見えなくして差し上げましょう。」とささやき、ファウストの顔に息を吹きかける。
 
すると全く目が見えなくなる。それでもファウストの心の中には明るい光が輝いていた。
 
考えてきたことを早くやってしまおうとするファウスト。家来達を起こして大事業を進めるよう発破をかける。メフィストが先頭に立ち、呼び出した幽霊達を働かせていく。目が見えなくてもファウストは宮殿から出てきて工事の進捗を確かめ進行を催促する。
 
ファウストは大事業が完成した時のイメージを語る。
「何百万人のために土地を開こうとしている、ここではみんなが豊かにはなれないかもしれないが自由に働き自由に暮らすことができる。
 
野原には緑が生い茂り、畑には実りが増える。大勢がこの土地へ移り住んでくるだろう。海が荒れてもこの中はまるで天国のような土地だ。
 
これこそが人間の智慧がたどり着く最後の行く末だ。
この国では子供から大人も年寄りまでみんな忙しく働いて暮らすのだ。
私はそれが見たい。自由の土地に自由の民が暮らしているのが見たいのだ。
その時こそ、私はこう言いたいのだ。
 
実に美しい、だからここにとどまってくれと。
私がこの世界で築き上げたものは、決して滅びはしない。
 
『すばらしい幸せの予感がする。
私は今最高の瞬間を味わっているのだ。
ああ、このまま時が止まればいいのに。』」
 
メフィストと契約したキーワードを叫んだ瞬間、ファウストは命を絶った。
 
工事に携わっていた幽霊達は、死神の正体を表す。そして、ファウストの亡骸を葬る準備を始める。
 
メイフィストは息絶えたファウストのそばでこうつぶやいた。
 
「どんな楽しみも浴びず、どんな幸せにも満足しなかった男だ。変わっていく姿を追い求めたあげく最後には空っぽの瞬間を握りしめようとしていた。悪魔であるこの俺にも随分と楯突いたが、時が勝った。老いぼれが地面に転がっているだけだ。時計は止まった。」
 
「終わりだ、何もかもが過ぎ去ったぁ。」とどこからともなく叫びが聞こえてきた。
 
メフィストは「過ぎ去っただとぉ?けしからん言葉だ!過ぎ去ったとは何もないのと同じではないか。作り上げることになんの意味がある?時が過ぎ去れば作られたものは全て無の中に奪われていく。初めから何もなかったのと同じではないか。まるでそこに何かあるかのように輪を描いて回っているだけ。そんなものより、俺はこの永遠の空っぽの方が好きだ。」と呟いた、
 
その後、死神達に命じてファウストのお墓を作らせる。
たくさんの悪魔が現れ、地獄への入り口も開く。
そして、悪魔に呪われて死んだもの達がうろつき地獄のハイエナが噛み砕こうとしている。
 
メフィストは悪魔達にファウストの魂が抜け出すのを見張るように指示する。逃さないようにと。
 
すると突然、天から眩しい光が差し込み、天使達が大勢現れて美しい歌声で歌っている。
ファウストの罪を赦し、天の国に迎え入れようとしている。
天使達は薔薇の花弁を振り撒き悪魔を凍り付かせる。
 
メフィストは、ファウストの魂を取られまいと悪魔を振り立たせようとするが、天使たちの花弁は燃え上がり悪魔を地獄に落としていく。
 
天使達はファウストの遺体のそばに集まり、悪魔達を退けていく。メフィストも天使の歌声に聞き惚れ、体を炎に焼かれていく。
 
そのうち、ファウストの体から清らかな魂が現れた。天使達はファウストの魂を囲み天の国に運ぼうとする。
 
メフィストは悔しがる。「天使なんぞに見惚れて、まんまとファウストの魂に逃げられてしまった。」と落胆し苦笑いをしてファウストの魂を見送った。
 
天の国に昇る過程で多くの者が現れる。
 
洞窟の中にいる修行中の三人の隠者。もみの木のそばで空を眺めて呟いた。
「朝の雲がたなびいてくる。中に幼い霊の群れがいる。」
朝日の中から救われた少年の霊たちが現れた。
 
彼らは自らの正体がわかっておらず隠者に自分達は何者か聞く。
「夜中に生まれ、目も開かぬうちに両親の元から引き離され天使達に捕まったのだね。天の高いところに登って、神様がおそばにいらして強くしてくださる。汚れのないやり方で大きくお成り。」
 
少年たちの霊は山のてっぺんに登ってフワフワと漂っていると、ファウストの魂を運んでいく天使達を見つける。
 
天使の一人が「霊の世界から尊い魂が一人救われたのです。彼のように絶えず努力をするものは天使によって救われます。このファウストという人には天から愛が降り注いでいます。」と伝えた。
 
別の天使が、罪を贖う女達の作った薔薇の花弁が、悪魔を苦しめたことを説明した。
 
天使は少年たちの霊に気が付く。そして、ファウストの魂を預ける。聖母マリアと罪を購う女達が現れる。その中にはかつてのマグラレーテもいた。かつてのマグラレーテは聖母マリアにファウストの世話をすることの許可を得る。

マグナレーテとファウストは手を携えて天に登っていくようだった。
 
ENDE.

⭕️感想
ファウストは、海岸を干拓、埋め立てすることが、この地上に残っている自分の手がけるべき仕事と悟る。

その意欲の強さは、”心配”という死神の妹に視力を奪われても、衰えることはなく継続していくことで表されている。

幽霊たち、要は死神を使ってでも手段を選ばぬ実行力。どうかと思うが、悪も使いようということか?

大事業が完成した時のイメージを語っている。再度書くとこうだった。

「何百万人のために土地を開こうとしている、ここではみんなが豊かにはなれないかもしれないが自由に働き自由に暮らすことができる。

野原には緑が生い茂り、畑には実りが増える。大勢がこの土地へ移り住んでくるだろう。海が荒れてもこの中はまるで天国のような土地だ。

これこそが人間の智慧がたどり着く最後の行く末だ。
この国では子供から大人も年寄りまでみんな忙しく働いて暮らすのだ。
私はそれが見たい。自由の土地に自由の民が暮らしているのが見たいのだ。
その時こそ、私はこう言いたいのだ。

実に美しい、だからここにとどまってくれと。
私がこの世界で築き上げたものは、決して滅びはしない。

あらすじから。

多くの人たちが、豊かで自由に働き暮らす土地。それが天国のようだと言っている。これが築き上げたかったもの。確かにプロテスタント的な理想郷のようだ。

ここで、最後の言葉を言ってしまう。

ああ、このまま時が止まればいいのに。

あらずじから。

メフィストとの契約通りに、その瞬間に絶命する。

この後は、メフィストがファウストの魂を手に入れることができなかった。天使たちが現れて、ファウストの罪を赦し、天の国に迎え入れようとしているというのだ。

しかし、ファウストに犠牲にされた者たちの魂はどう扱われているのか?
ファウストに直接殺されたマグナレーテの兄は報われたのか?
メフィストを使って殺したマグナレーテの母、海岸に昔から住んでいて殺されたフィレモンとバキュウスも居合わせた旅人も報われたのか?
皇帝への反乱軍から奪った多くの命は無視するのか?
他にもファウストの気ままな欲望のために犠牲になった人はいるだろう。

これで赦すとは随分と納得がいかない。
私なら、天が赦すと言っても贖罪の道を選ぶだろう。
もっともこれはファウストが毒をあおって死んでいく間際の悪夢なら納得もいくが、後味の良い物語ではなかった。

ユングのファウストに対する感想に戻る。

ユングは早速ファウストを読み、感激した。彼は、「奇跡的な鎮痛剤のように私のたましいに侵みこんできた。」と述べている。

「ここについに、悪魔を真面目に取り上げ、彼―完全な世界を創ろうとする神の計画の裏をかく力をもっている敵―と血縁関係を結んだ誰かがいる」とユングは考えた。

彼はゲーテこそ、人間を暗黒と苦悩から解放する際に悪が果たす神秘的な役割がわかる人であると感じたのである。21%

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河合隼雄著[ユングの生涯」

多くの人を犠牲にしたファウストが、恋人の魂と天に昇るラストシーンは私は気に入らない。

しかし、悪魔的なものも使い様によっては理想郷を築くのに役に立っててしまった手腕は絶賛していいと思う。それが、”人間を暗黒と苦悩から解放する際に悪が果たす神秘的な役割”なのであろう。

善だ悪だとこだわらないことも意味があることもわかる。善と悪の境界線は常ならぬ人のフィルターによるのだから。流石に人の命を奪う凶悪なものでない限り。

第二部はわかったようなわからないものだった。また、時間を置いて読んでみると新しい気づきがあるだろう。ファウストの感想noteはここまでで終わる。


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