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キレイごと

今から数年前。
どうにも就活がうまくいかず食い扶持のために就労継続支援A型事業所(A型)と呼ばれるところを利用していた。
福祉と縁がない方にとってはよく分からないと思うのでざっくり説明すると障害者のためにある福祉的就労サービスの一つで雇用契約を結ぶためサービス利用者と同時に労働者となり最低賃金が保証される。
ただ利用するためには福祉サービスだから
区役所で障害福祉サービス受給者証というものを発行してもらい利用手続きをしてから…と少し時間がかかる。
時おり耳にする作業所も同じ障害福祉サービスで正式名は就労支援継続支援B型事業所で
こっちは雇用契約が無いためあくまでサービス利用者。
賃金ではなく工賃という仕組みなので事業所によってまちまち。
まぁ…最低賃金を上回ることはまず無いでしょうね…なんせ全国平均で月額1万6千円なので…。
※参照元・厚労省

早い話B型では食い扶持どころじゃない。
わしは他でも書いたとおり結婚して世帯収入があるため利用料として毎月9300円の支払わなければならない。
つまり全国平均を基準にすると4割くらいしか手元に残らない。
(ほんとに謎の制度)
なのでA型で働いていたわけですが、業務内容は公共施設の清掃。
テーブルを磨いたり掃除機をかけたり洗い物をしたりトイレ掃除をしたりと体を酷使する仕事だった。
はっきり言ってキツい。
朝から夕方までずーっと続けていると終わる頃にはぐったりする。
さすがに危険性はないから3Kではないけど二冠王なので障害の有無を問わずハードなのは間違いないと思う。
福祉サービスなので体調面の配慮や勤務ペースを調整してくれるのがせめてもの救いだったかな。

トイレを清潔に保つというのは本来ユーザー側の意識があればある程度は維持できると思う。
が、しかし現実はまっっったく維持されない。
「掃除してくれるからいいでしょ」みたいな感覚なのか「自分ちじゃないから」みたいな感覚なのか分からないけどキレイに使うという意識がないんだろうな。
自宅なら親なりパートナーから叱られたり怒鳴られたりされるから維持できてるんだろう…と思わざるを得ない。

そしてそんなトイレをキレイにしてくれている清掃員にどこか冷たい眼差しを送っている人が多いように感じる。
仕事に貴賎はないと言われているけど現実は違うような気がしてならないのだ。
なぜかトイレ清掃などは往々にして賃金が低い。
そして「シニアも活躍!」みたいな文言を添えて広告を出していたりする。
どう考えても業務と比例していないので若い人はなかなか選ばないと思う。
例えば駅のトイレで清掃員と出会ったらよく見てほしい。
自分の親くらいの人ばかりということも珍しくないから。
キツい仕事を年老いた方、あるいは障害者が最低賃金で蔑まれながらこなしている姿を見てどう思いますか?
わしは何だか悲しくなる。
せめて老後はゆっくり過ごしてほしい。
そのために老齢年金があるんでしょうに。
様々な事情があるので誰もが悠々自適な老後というのは難しいと思うけど、にしてもなぁ…と考えてしまう。
精神障害に限った話ではなくて、
どうも「働かせてやってる、働く場所があるだけマシでしょ?」という感じが見え隠れしている。

清掃業は技術職なので特殊な清掃業務、例えば高層ビルの窓掃除とか危険が伴うものもある。
もちろん最低賃金ってことはない。
ただそこまで高くもない。
ビルは高いのに給料は低いのこれ如何に?って感じだけど経験者が言うには拘束時間が短いから時給にすると最低賃金の1.5〜2倍くらいにはなるらしい。
さらに専門的なスキルが求められるものは必然的に金額も上がる。
しかし日々のトイレ清掃は資格もいらないし言ってしまえばタフであれば誰でもできるし危険も少ないので待遇が悪い。
(でもタフだったら他にも仕事あるよね)
そうなるとやはり社会的弱者が採用されやすいということなんだろうか。
何かおかしいよね。
それが嫌なら努力しろって言う意見も分かるけどね。
そんな単純なことじゃないと思う。

先日カンヌ国際映画祭でヴィム・ヴェンダースが監督して役所広司さんが最優秀男優賞を受賞した「PERFECT DAYS」という作品は役所広司さんが渋谷のトイレ清掃員を演じている。
もともと渋谷区は公衆トイレを「TOKYO Toilets」というアートプロジェクトで個性的にしていたこともあって外国人のSNSによく登場していたから映画の影響でさらに観光スポット化しているらしい。
だったら清掃員の給料もそれに見合った金額にしている…のかな?
これで最低賃金だったらかなり問題があると思う。
日本のトイレはどこにいってもキレイだ!とか言われてるけどさ。
そこで働いてる人のことまでは考えてくれないだろうな…悲しいけど。

わしが腰痛と線維筋痛症を抱えてトイレ掃除をしていたときのこと。
清掃中でも男性トイレは使えるので「どうぞ」と声をかけて他のところを掃除していたら、
その男性が出る際に
「ありがとう、頑張ってね」と声をかけてくれたことが1度だけあった。
おそらくここが福祉事業所とは知らないだろうから意識してるわけじゃなくて自然に出た言葉だと思う。
なんというか、やる気が出るというか報われたと言うかすごく嬉しかった。
わしはどんなことでも仕事はきっちりやるのでピッカピカにしていたけど、あのひと言でわしはずいぶん救われた。
それだけは今でも覚えている。

その後、わしは心身への負担が大きすぎてドクターストップがかかり退職した。
あれから数年を経てとても大きな公共施設で働いているけど、トイレ清掃の方はやはり高齢の方が多い。
労いになっているかは分からないけど、すれ違うときや清掃中にトイレに入った時は必ず
「ありがとうございます」と言うようにしている。
大変な仕事だと身を持って知っているから。
その人たちがいなければトイレはあっという間に地獄の様相を呈すると思うから。
もちろんトイレに限らずあらゆる所に清掃員はいる。
その人たちがみんなの快適を支えている。
だからどうかその人たちに対して感謝の心を持っていてほしい。
そんな優しい気持ちを失わないでほしいなと思う。
そしてあらゆる労働に対して適切な対価を支払う世の中になってくれたらと心から思う。

では、今日はこのへんで。
いつもの如くながーい文章を最後まで読んでいただきありがとうございました。
およそ梅雨時とは思えないくらい暑い日が続いているのでどうぞご自愛ください。
では…アディオース!

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