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『セヴン・アイズ』最終話

ジュンローの左目に再び光が宿ることはなかった。
それでもすぐにバンドのメンバーを集めはじめた。
ジュンローにとって、バンドが全てだった。
1年後、瞳の部分が赤い義眼をはめたジュンローは、
地下にある音楽スタジオで数日後に控えたライブの
リハーサルを行なっていた。
バンドの名前は『セブン・アイズ』。
4人の目玉の数からジュンローが名付けた。

リハーサルは、持ち時間を少しオーバーして終わった。
地下のスタジオから地上に這い出ると
空は季節っぱずれに晴れ、まるで春のような陽気だった。
ジュンローは目の前に停めてあったオープンカーの
後部シートに、むき出しのまま手にしていたギターを
乱暴に置くと、ポケットから鍵の束を取り出した。

「あれ?ジュンロー、車替えた?」
ドラムのミツオがジュンローに声をかける。
「いや、これ俺んじゃねぇよ」
そういうとジュンローは慣れた手つきで
鍵の束の中から小さな折りたたみナイフを
取り出した。
「おいおい、またかよ」
ミツオが呆れたように笑う。
ジュンローは何も言わず、運転席に乗り込むと
足元にかがみこもうとした。

「おい、お前ら何やってんだよ」
ミツオの後ろから突然荒々しい声がした。
ジュンローは立ち上がると笑顔を浮かべると
男に歩み寄った。
「なんだマサトじゃねぇか、これ、マサトの車か」
マサトはその質問には答えずに言った。
「ジュンロー、お前まだこんなことしてんのか?」
マサトの顔は険しかった。
ジュンローは手にした折りたたみナイフを
マサトに向けると笑顔のままで言った。
「丁度よかった、これで車いじらなくても済むわ。
なぁ、鍵貸してくれよ」

マサトの顔が怒りで赤く染まった。
制するミツオを振り払ってジュンローの
胸ぐらをつかむ。
ジュンローは胸ぐらをつかまれたマサトの手の甲に
表情も変えずにナイフを突き立てた。
「痛ッ!」
小さなナイフを突き立てたまま、マサトは手を離した。
「てめぇ!」
マサトは自分の手の甲に刺さったナイフを引き抜くと、
ジュンローに向かっていった。

マサトの手にしたナイフの切っ先が、
ジュンローの見える方の目の前を横切った。
ジュンローは何故か避けなかった。
マサトはナイフを投げ出して呆然と突っ立っている。
「なんで、なんで避けねぇんだよ、、、」
ジュンローは右目を手で押さえながら
声を立てずに笑っていた。
指の隙間から血が溢れて地面に落ちる。
真っ暗な世界でどくんどくんと脈打ちながら
疼く右目の痛みに耐えながらジュンローは考えていた。
(バンド名、『シックス・アイズ』に改名だな
その前に、この目でギター弾けんのかな?)
手探りでギターに歩み寄ったジュンローは
血まみれの手でライブのオープニングに演奏する曲を
弾きはじめた。
そして1曲弾き終えると大きく声を上げて笑った。

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