『後ろのドア』
夜中、パソコンに向かっていると、ときどき後ろに気配を感じる。
振り返っても誰もいない。
ただ、後ろのドアが少しだけ開いている。
おかしいな、閉めたはずなのに、、、
閉めなおして再びパソコンに向かう。
しばらくすると、また後ろに気配を感じる。
僕の後ろに何かが立っているような気がするのだ。
恐怖を押さえ込みながら息を整える。
心臓の鼓動がうるさくて少し苛立つ。
意を決して振り向いてみるが当然何もいない。
ただ、後ろのドアが少しだけ開いている。
背筋に冷たいものが走る。
ドアに近づき、そっとドアを開けて外の様子を覗き見る。
廊下には誰もおらず、少し離れたところから
家族の寝息が聞こえてくるだけ。
僕はドアをしっかりと閉めると、
ドアを固定するものはないかと部屋の中を見回した。
このドアには鍵がなく、廊下に向かって開くので
重いものを置いても意味がない。
考えた挙句、工作用の針金でドアノブを固定することにした。
ドアのそばに置かれたベッドの柱とドアノブを針金でくくる。
多少のことではベッドは動かないはずだ。
ペンチを使って針金をきつく縛り、ほっと胸をなでおろす。
これで安心してパソコンに集中できる。
僕は再びパソコンに向かった。
しばらくすると、またあの気配が戻ってきた。
しかも今度はさっきよりもすぐ近くから。
背中に嫌な汗が滴り、不快だ。
僕は振り向くことができずに画面を凝視する。
何かが僕の背中越しに覗き込んでいるような錯覚に陥る。
なにかの息遣いが聞こえた気がしたが、
すぐにそれは自分のものだと気づく。
気のせい。そう、気のせいだ、、、
僕は決心してゆっくりと振り向きドアを見た。
ドアは閉まったままだった。
ドアノブには針金がきつく巻かれている。
やはり気のせいだったのだ。
なんだか急にばかばかしくなって一気に力が抜けていった。
もう今日は寝ることにしよう。
そう思い、電源を切ろうとパソコンを見ると、
文書ファイルに何やら文字が打たれている。
が、小さすぎて何が書かれているのか分からない。
僕はフォントサイズを上げてみた。
気のせいじゃないよ
体中の神経がざわめいた。
きんきんと耳鳴りがする。
このとき僕は初めて、
部屋の中に風が流れ込んでいることに気がついた。
慌てて窓を見ると、閉めたはずの窓が少しだけ開いている。
そしてさきほどの気配は、僕のすぐ後ろにいた。
うわぁぁぁぁぁ、、、
僕は部屋から逃げ出そうとドアに向かった。
狭い部屋の中、ドアまではほんの数歩の距離。
しかし、
ドアノブに巻かれた針金は
あまりにもきつすぎて、、、
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