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◎道後温泉クリエイティブステイ日記③


背中に重い疲れを感じて起きる。本屋にいたような気もするし、映像作品について考えていた気もするし、道後の観光をしていた気もする。そんな夢を見ていた。


朝食会場でやたらと農園の話をする東北っぽい言葉が聞こえるなあと思ったら、宮城から来ている夫婦だった。1週間四国を回って帰るそうだ。一昨日砂丘に行ったら風が強すぎて目が開けられなかったと言っていた。「金毘羅に上るから、鍛えなきゃと思って昨日スクワットしたら今朝筋肉痛になってなあ~」と笑っていた。かわいい。
一人で来ている旅行客は少ないようで、朝食会場などではかなり浮く。お年を召した団体客などが多い。今日も数組いて、その中の一組はホテルの中の小さな橋のような場所を数人でずらずら歩いていた。おじいちゃんがもう一人のおじいちゃんに「長生きするんだよ」と言って肩に手を添えていて、何だかいい場面をみたなあと思った。

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目当てにしていた喫茶店がまだ空いていなかったので、駅舎のスタバに入る。外見からはわからなかったけれど、思っていたより広くて居心地がいい。朝一だからか人も少なく、店内にある駅舎の昔の写真の展示などをじっくり見て、作業を進めた。
観光案内所のガイドさんが暇そうに案内所のまわりを歩いているのが窓から見えた。足湯には修学旅行生が20人位群がっていて大変なことに。


今日は演劇関係の方に会うための日にしているので、伊予電鉄で大街道駅まで出た。車体サイズ感も速度もいい感じ。値段が170円と安くてびっくりする。外見はド派手なミカン色で、どこからでも目に入る。

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松山の劇場「シアターねこ」で、鈴木さんとお会いする。思っていたより立地がが中心街からすぐで驚いた。色々な人から話は聞いていたけれど、鈴木さんに実際にお会いするのは初めてだ。クリエイティブステイのスタッフさんからも連絡がいっていたらしい。ありがたい。鈴木さんはとても朗らかな人でお話ししていてたのしかった。元幼稚園だと言う劇場内を見せてもらう。奥行きが広くて天井が低いという、初めてみる感じのつくりだった。「ぜひ公演してくださいね」と言っていただき、ぜひともとお返事をする。


東温市の職員の方ともう一人、もともと京都にいて、現在は東温市の協力隊になっている田中くんも交えて色々話す。東温にもいい湯の温泉があるよ、と言う。ぬめりのあるアルカリ系のお湯だとか。道後のプロジェクトについての話もいくつか。道後はもともとバブルの時の仕様のホテルが多く、団体客向けだったのを、近年の少人数での旅行客にどう対応を変化させていくかの過渡期にある、という話を聞く。それでアートで町おこしを始めた部分もあるのではないかと言う。和歌山の白浜の温泉で聞いた話を思い出した。和歌山のホテルのほとんども同じくバブル期の仕様になっており、団体客向けの部屋などを持て余していると言う。日本全国で同じような問題が起こっているのだなと思う。
温泉街に限らず観光地というのは、リピーターをどう増やすかが大切だと思うのだけれど、確かにその観点からすれば芸術祭や期間限定のアートイベントなどは「今しか観られない」という気持ちを掻き立てて、訪れるきっかけになりやすいのかもしれない。そして、やはりアーティスト側にはその土地を更に魅力的に思える創作が求められている。


鈴木さんと別れ、東温市まで向かう車に同乗させてもらう。
車中、東温の現状を色々聞かせていただいた。田中くんの関係で京都の劇団もいくつか関わっている東温市、「東温アートビレッジセンター」はよく聞いていたのでぜひ伺いたかったのだ。東温市は、平成16年に周辺の町が合併してできた比較的新しい市で、元々「坊っちゃん劇場」があったためにミュージカルに明るく、市民はミュージカルを見ることに慣れていると言う。全く知らなかったのだけれど、坊っちゃん劇場はわらび座さんとつながりがしっかりあるらしい(秋田と愛媛、すごい距離の絆だ…!)。近年は坊ちゃん劇場の隣のショッピングセンターにできたシアターネストなども使いながら、市民ミュージカルの流れをどう広めていくかが課題だと言う。

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今回はシアターネストを見学させてもらった。実際にショッピングセンターの中に劇場があるのはなかなか衝撃だった。一階はフードコートになっていて、マクドナルドで学生やご老人たちが楽しそうに喋っている。今では見られないような古いゲーム機なども置いてあって、古き良き空気をそのままとどめているように見える。
劇場はとても立派で、オペ席からの見晴らしが最高だった。普段の公演では大学生などはあまり来ず、坊っちゃん劇場の型がゲストで来られた時にはそのファンが来たりするのだという。劇場から出ると、吹き抜け部分から一階が見下ろせる。劇場に負けず劣らずのたくさんのベンチが並んでいて笑ってしまった。ぽつぽつと埋まっていて、ご老人やスマホを見る若者などが座っている。この光景が演劇みたいだなと思った。一階と二階の空気を何か突破するというか、一階で話している人たちが二階に気軽に上がって来れるようになれば何かおもしろいことに発展するかもしれない…などと思う。よそ者は好き勝手に思うだけで申し訳ない。田中君が、帰りにぽそっと話していた「市民の中に入り込んで制作する難しさ」ということを考える。今年の「とうおんアートアートヴィレッジフェス」に参加中のソノノチさんの公演も、その試行錯誤を繰り返しながら進んでいるんだろうなと思った。

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見奈良駅でお礼を言って別れ、松山市まで電車に揺られる。車窓に温泉を見て心が揺れたけれど、ぐっと我慢して松山市駅まで。
現在開催中の、同じく道後クリエイティブステイに参加してらっしゃるケイタタさんの写真展を見るため、松山の「本の轍」さんへ向かう。

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途中、商店街を歩いていたら明屋(はるや)書店という地元の本屋さんを発見し、愛媛の本を一冊購入する。そこに載っていた内子市にある古い芝居小屋の情報が目に入り、俄然興味が湧いたので滞在中に行こうと決意した。歩き疲れて「そば吉」というこれまた地元の蕎麦屋さんにひょっこり入る。何となく最初に目に入った「じゃこ天入り都そば」を頼んだら白っぽいとろとろのつゆに入ったもりもりの蕎麦が出て来た。あんかけっぽくなっており、熱すぎてちょっと涙が出た。かなりお腹いっぱいになって店を出る。あのつゆは一体何だったんだろう?とろろか大根おろしあたりかと思うが、果たして。


本の轍さんに向かっていたら、地面にざるを並べて野菜を販売している八百屋を発見し、おもしろそうなのでその通りを歩く。何やら新旧入り混じったおもしろい道だった。すると、右手に「鶴の一声」とでかでかと書いた黄色い紙が貼られている古本屋を発見、あまり時間がないのだけれど何かの勘が働いて入る。

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ここが本当におそろしいくらい興味関心にドストライクなお店で、いっそ「棚のここからここまで全部ください!」と言いたいくらいによい本が並んでいた。泣く泣く郷土芸能や民俗歌集団の日記など5冊に絞る。店主さんが店内に貼られていた他の紙を指して「あの、これは今日の夜のイベントのために貼ってるだけなので」と言うので色々聞いてみる。どうやら「鶴の一声」は店名ではなく、お店の名前は「社日(しおりび)」さんというらしい。民族系の本が多い古本屋さん。元々は他の方が店主をされていたところに、色々な事情が重なって今の方が引き継いだそうだ。話していても人生に紆余曲折ある感じの方で、おもしろい人だなあ~と思った。
ここは柳井町商店街と言って、近くにある「来島金物」さんは鍋焼きうどんの有名なお店で使われている金物を作っているんですよ、と教えてもらう。確かに店構えに貫録があった。昔は「ヤング」というボンタンなどを打っているファッション店もあったそう。今は営業もまちまちだそうだけれど、少し上の世代の方からすると「柳井町商店街=ヤング」なのだとか。松山ブンカ・ラボ関係の方と、前に店主をしていた方と19時からことわざにまつわるイベントやるのでよかったらどうぞ、と誘っていただき、「じゃあ来ます」と言って店を出た。「鶴の一声」はことわざイベントのためだったのか…!


その後やっと本の轍さんに到着し、写真展を見る。限られた店内に溢れんばかりの本と雑貨への愛、それに写真の大きな(実際にかなり大きい)パワーが加わってかなりの熱量を醸し出しているお店だった(ものすごくオシャレで居心地がいい店内です)。店主のご夫妻がとても気さくな方で、松山の色々な情報を教えていただいた。「松山は石手川を超えると車が必要」という言葉に、観光ガイドを重ね合わせて納得する。しかし言ってみれば川を越えない範囲であれば徒歩で散策可能なのだった。ミロコカフェやサントリーバー露口、おもしろそうな書店の載ったマップをいただく。聞けば聞くほど、松山!すごい!魅力がすごいぞ!と興奮する。その後は、ケイタタさんも交えて皆さんでUFOを観に行くと言うことで、お店は17時で閉店。また来ますと言って退店した。こんなに素敵な本屋がある松山、いいなあ。絶対にまた来ると誓う。

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定刻になったのでふたたび社日さんへ。狭い店内でゆるいことわざイベントが繰り広げられていた。

「これってなんでこうなんですかね?」
「このことわざってどういう意味なんでしょうね?」

と言いながら、それを突き詰め過ぎない(時に謎は謎のまま放置しておく)姿勢がおもしろかった。「食事にスプーンは必要」というどこかの国のことわざに対して、

「僕前岡山から松山までの電車で、プリン食べようと思って買ったらスプーン入ってなくて、【スプーン ない プリン 食べ方】とかで色々検索したんですけどいいのがなくて、っていうのも結構ちゃんとしたやつやったんですよね、そのプリンが。クリームとモンブランみたいになってて…」

と実体験を交えて「このことわざ、わかる」と話していたのが印象に残っている。それにしても、どうして人が口頭でする食べ物の説明ってあんなにおいしそうなんだろう…と思う。

また、参加者の一人の方の話も興味深かった。

「情けは人のためならずという言葉が好きなんです。最初はね、情けをかけても人のためにならないよって、そう思ってたんです、私も。でも本当の意味は違うらしいですね。自分のためらしいです。情けは人のためじゃなくて、自分のためになるよっていう」

その言葉にしずかに心打たれた。ああ、私のこのことわざへの解釈も、今日以降の人生でぱっきり変わるなあと思った。ふと入った、たまたま開催されていた、昨日まで知らなかった町の古本屋で、こうした出会いもある。


イベント終了後、さすがにへろへろになって伊予電で宿へ帰る。古い車両を改装したものだったらしく、教室の油挽きのにおいがした。

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つり革もみかんでとてもかわいい。愛媛はかんきつ押しがすごすぎて街のいたるところがオレンジ色になっているけれど、元気が出る色なので街が随分明るくなっていると感じる。
夜、作業をして泥のように眠った。


(④へ続く)