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#小説
力強いグラス〔ショートショート〕
私、割れないグラス。もし人間だったなら、鉄仮面のような人だって言われるかも。テーブルの高さから派手に落ちたこともあるけど、割れないし、欠けもしない。一度でも落ちたら一瞬でかよわく割れちゃう他のグラスたちをみてると、いかにもガラスらしくてちょっとうらやましい。そういうときは特別な強さを思い出して切り替えるにかぎる。
私たちは職人さんの手で一つ一つ美しいガラス工芸品になって世に出ていく。出来上が
懐くロボット〔ショートショート〕
お風呂上がりに一杯飲もうと、冷蔵庫の前に着くよりも先に、部屋のあかりを吸い込んだ銀色の腕がすっと伸びて、パジャマの袖をちょんとつまんだ。長年一緒にいる私のロボットだ。
家のなか限定で日常的に付き纏われている自覚はあるが、満更でもない。可愛げがあって気に入っている。
そもそも、このような生活になるはずではなかった。もう随分前の事、一人暮らしに退屈していた私は、友人の勧めもあって熱帯魚を飼う事
料理に使える裏声〔ショートショート〕
秘訣といえば、料理にだってあったわ。少なくとも、私のつくる料理にはそれがかかせなくなったの。
なぜならそのおかげで、私も誰がいつどんなふうに食べても、うなるほど美味しくって、食べることに夢中になって、おかわりをしきりにねだられるんだから。
昨夜は、リスさん達をお招きしたの。先週正装して来たキツネさんや、先々週ハンカチを置き忘れて行ったこだまさんとやっぱりおんなじ反応で、私は何度もキッチン
長い耳の帽子〔ショートショート〕
たまにはお洒落したくて街に繰り出した私は、大通りから入ったとある小路の一番奥の、今まで入ったことのないお店の前で立ち止まった。個人でやっている小さな帽子屋さん。そこで、珍しい帽子に出会った。
濃いマゼンタ色の、つばの広いハットに、太いうさぎの耳のようなものがくっついている。耳に魅かれ、そっと軽くかぶってみた。すると、さっきこぢんまりとしたお店の中に入ってしいんとした空気だったのに、何かの重なる音