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阿江 邦彦/阿江牧場Sunset Farm

法人名/農園名:阿江牧場Sunset Farm
農園所在地:北海道久遠郡せたな町
就農年数:2021年〜
生産品目:酪農
Facebook:阿江牧場

no239

地域おこし協力隊として酪農ヘルパーから就農。移住者を歓迎し、応援するせたな町

■プロフィール

 兵庫県神戸市の教員家庭という農業とは無縁の環境で育つ。机に座って勉強するより、野外で実習するのが好きだったので、家族に勧められてオープンキャンパスに訪れた兵庫県立農業高校に進学。

 学科選択の際、作物を生産する耕種農業も選択肢にあったが、「農家の生まれじゃなければ就農は難しいんだろうな」という誤った思い込みがあった。そこで幼い頃から動物好きということもあって、畜産学科へ──。

 卒業後は漠然とした憧れを抱いていた北海道江別市の酪農学園大学の酪農学部酪農学科(現:サスティナブルデイリーシステム研究室)に進学し、「土づくり、草づくり、牛づくり」を基本に、持続可能な酪農について学ぶ。

 大学を卒業後は、一般社団法人ジェネティクス北海道に就職し、担当する十勝地方で5年にわたって牛の人工授精用凍結精液の販売営業を担当。その後、当別町の酪農資材会社「ファームエイジ株式会社」に転職し、のちに妻となるうつきさんと出会う。

 学生時代の先輩が住むせたな町を訪れたことがきっかけで、町の魅力に気づき、妻と2人で「せたな町移住定住体験ツアー」に参加したのち、2019年春に移住。地域おこし協力隊に参加して、2019年4月〜2021年3月まで酪農ヘルパー(※)として活動。

 地域おこし協力隊の活動を修了した2021年春、青年等就農資金や農地保有合理化事業、JA畜産経営継承支援事業などを活用して独立就農を果たした。

※酪農ヘルパーとは、家族経営の小規模酪農家にとっては休みが取りにくく、万が一、入院するような事態になれば離農するケースもあることから、こういった事態を解消するために、牧場種の必要に応じて朝夕2回の搾乳作業や牛舎清掃、餌やりなどを依頼できるシステム。 

■農業を職業にした理由

 神戸の教員家庭で生まれるが、小さな頃から親が自然豊かな体験農場に連れて行ってくれたこともあり、動物好きな少年だった。

 オープンキャンパスに訪れたことがきっかけで、兵庫県立農業高校畜産科に進学し、初めての当直当番でホルスタインの世話をしたときに、「こんなに大きな体をしているのに、なんておとなしいんだろう」と牛の穏やかな瞳に魅了されて以来、「将来の仕事は牛飼いだ」と決意する。

 江別市の酪農学園大学を卒業後は、帯広や当別町の酪農関係の企業で営業職として働きながら、就農候補地を探して道内各地をめぐる日々を過ごしていた。

 そんな時、高校時代の先輩が日本海側に位置するせたな町の酪農家に嫁いだことを知って遊びに行った際に、海の近くの小高い丘に広がる牧場の風景の素晴らしさに感動する。 

 せたな町では農業の担い手を育成するために、町ぐるみで就業体験ツアーを運営しており、2018年に妻と2人で参加。その際、家族で小規模経営を行う酪農家の姿を見て、理想とする酪農家像に出会えてと、2019年春に移住。

 また、農業や畜産業を志す若者に向けて、受入農家や関係機関が連携してサポートする体制が充実しており、子育て世帯にとっては、子供の教育費や医療費が無料になるなどの優遇措置も魅力だった。

 移住を決めた時点で、就農候補地が定まりつつあったのも決め手になった。そこでまず2年間は地域おこし協力隊に参加して酪農ヘルパーの活動を通じて、さまざまな牧場で働くことで、異なる経営方法を学んだ。

 地域おこし協力隊の活動を修了した2020年12月、新規就農者向けに無利子で資金を貸し付けてくれる「青年等就農資金」などを活用して、引退した酪農家が残した牛舎や搾乳機、トラクターなどの機器を数千万円で譲り受け、7頭のホルスタインとともに翌2021年2月から搾乳スタート。

 さらに北海道農業公社の「農地保有合理化等事業」を利用して、離農した酪農家から15ヘクタールの牧草地を引き継ぎ、集約放牧を取り入れている。

■農業の魅力とは

 北海道にはさまざまな経営規模の酪農家がいて、十勝では数百〜1000頭以上の牛を飼養するメガファームも増えています。

 大学卒業後に営業職として就職した、牛の人工授精用の家畜凍結精液を扱う会社では、さまざまな経営スタイルの酪農家や農業法人を見てまわりました。

 そうしたなかで、規模の大きな酪農経営よりも、家族経営で暮らしながら仕事する酪農スタイルを想い描くようになりました。さらに、酪農や畜産は初期投資にかかる負債額が大きいので、ゼロの状態から農地を探すのは現実的ではなく、牛舎や設備を居抜きの形で引き継げる就農を模索していました。

 北海道南西部に位置するせたな町は、理想とする小規模酪農家が多いため、経営で悩んだり、迷ったりしたときに、すぐに相談を持ちかけられる先輩がまわりにいるのも安心です。

 また日本海に面して海岸線が伸び、後ろには山々が広がる自然豊かな地域なので、海や山の幸に加えて、お米や野菜、乳製品が充実しているのも魅力です。

 妻と最初に訪れたときに一目見て気に入り、ここなら思い描いてきた暮らしが実現できると思いました。移住を決めた当初から、離農する酪農家が手放す牧場候補地が見つかっていたのもスムーズな独立につながりました。

 就農準備から畜舎の改修、長男の出産などすべて同時進行でしたから大変でしたが、それでも自然豊かな環境で、家族との時間を十分に取りながら子育てにも参加できるのは幸せです。

■今後の展望

 就農と同時にコロナ禍の影響をこうむりました。学校給食がストップして乳価が暴落し、飼料価格が高騰した影響で、事業計画が大きく狂いました。

 放牧酪農は牧草を食わせるので、牛乳の生産量が下がる代わりに、市販の配合飼料を使う割合が少なくなるというメリットがあるのですが、当初の想定より収益率は下がりました。また副収入になる子牛の販売価格にも影響がありました。

 2024年現在、乳価はだいぶ持ち直しました。ウチでは年間200トン近くの生乳を生産していますが、今は利益率より利益額を重視した経営です。今後は利益率も追求していかなければいけないので、そのためにも放牧酪農をもっと極める必要を感じています。

 ウチでは「集約放牧」と呼ばれるやり方で、15ヘクタールの牧草地の一部を10アール程度の小さな区画で最大30区画に区切って、ローテーションで移動させていきます。

 草丈をコントロールし、ベストな栄養状態の草をたくさん食べさせると同時に、他の区画の牧草を休ませる間に草の再成長を助けます。更に牛、草、土を良くしていくためには堆肥づくりの技術を完璧にする必要があります。

 2021年に酪農経営を始めて3年になりますが、将来的には幼い頃に両親が体験させてくれたように、外部からの見学や実習等の体験も受け入れたいと思っています。(取材:2024年5月)

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