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#アドベントカレンダー2021 『まだクリスマスではない日の話』 ショートショート

こんにちは!
12月になったので、いよいよアドベントカレンダー企画が始動します。

自分自身で企画するのは初めてなので、ご参加いただいている方には既にいろいろご面倒をおかけしてますが、最後まで走り切れれば、と思ってます。

さて、今回はアドベントカレンダーということで、総勢25名のクリエイターの皆様で物語を紡いでいくことになります。

小説もあればイラストもあって、エッセイもあればレビューもある。川柳もあれば動画もある。そんな彩り鮮やかな、まるで賑やかなクリスマスツリーのようなイベントになるようです。

参加クリエイターの担当日はこんな感じ。

作品は毎日1つずつオープンします。ぜひ下記URLよりお楽しみください。

https://adventar.org/calendars/6734

今回の企画の趣旨は至って簡単。

「お題を1つ選んで自由に綴ってください」というだけ。

<お題>
『クリスマス』
『2021』
『年末年始』
『今年の締めくくり』
『担当日の日付にちなんだ話題』

その他の詳細は下記noteをご参照ください。

というわけで、早速、初回である 2021/12/1 を担当する自分の作品をお届けします。

クリスマス間近のちょっと癖のある二人のお話です。

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まだクリスマスではない日の話

「クリスマスってさ、キリストの誕生日でしょ? 世界中の人から誕生日を祝われるって、どんな気分なんだろ」
 11月30日から12月へと日付が変わろうかという瞬間に、彼が相変わらず突拍子もないことを言い出した。それに、12月25日はキリストさんの誕生日ではなく「降誕祭」という行事だと聞いたことがある。しかし、かくいう私も降誕祭なるものが何だかはよくわからない。
「んー、芸能人みたいなもんなんじゃない?」
「あー、なんとか君お誕生日おめでとう! みたいな感じねー」
「みたいな感じなんじゃないかねぇ。わからないけどさ」

 ダラリと座っていたソファから身を起こす。テーブルに少しだけ足が当たり、空になったお皿がガシャンと音を立てた。そこに綺麗なケーキが置いてあった証として、フォークにはチョコが着いている。そのお皿とフォークを洗い物当番である彼に渡す。
 最近、夜な夜なケーキを食すのが日課のようになっている。このままではいけないと思いながらも、その魅惑的なフォルムが目に入ってしまっては、誘惑から逃れることができない。
 彼は「なるほど、なるほど」などと言いながら、洗っていたコーヒーカップを丁寧に水ですすぐと、食洗機へと優しく入れた。洗剤を使って洗って、さらに食洗機で洗うという不思議なことをするのが彼らしさだ。酔っ払っているだとか熱に浮かされているだとか、そういったことは断じてない。彼にとっては日常的な行動だ。彼の不可思議な行動に対しいちいちめくじらを立てていては、一緒にいて気が休まる瞬間など訪れることはないだろう。彼と同棲して半年になる私が言うのだから間違いがない。

「で、その誕生日がどうしたというのさ?」
「や、今まで世界中の人から祝われていたのに、突然、誰からも祝われなくなったらどう思うのかなー、って思って」
「ふむ」と声を出してしまう。そんなこと考えたこともなかったけれど、はてさてもしもそうなったとしたら、キリストさんはどう思うのだろう。「もしも君がその状態だったとしたら、どう思う?」と彼に問う。
 テレビからは、ビルが爆破される美しいラストシーンが流れている。私はこの映画が大好きだ。しかし、彼は「ブラピに殴られたら痛そうだから観ない」と言って、いつだって頑なに目を背けている。確かにあのイカした筋肉で殴られたら鼻血ものだ。むしろ、裸のブラピが近寄って来たならば、殴られる前に鼻血が出る。それにしたって、「痛そうだ」と言うわりには鬼退治のアニメを好んで観ているのだから、不思議なものだ。私からすれば、鬼とのいざこざの方が俄然痛そうだし、気味が悪い。
「んー、そうねぇ。俺がキリストだったらかぁ……」
 文字面だけ見るとあまりにも不遜で不敬だけれど、聞いた自分がいけないので注意することはできない。
「あー。Twitterに間違えてエロ画像を投稿しちゃったかな? とか思うな」
 聞いた私がバカだったと反省する。もっと崇高で、もっと哲学的な答えが出てくることを望んでしまっていた。あぁ、彼にそんなことを期待してしまうなんて、どこまで私は愚かなんだ。

「あ、でも、間違えて画像を投稿したけど、この前、誕生日祝われたな」
「え、何。君、そんなことしてたの。サイテー」
 見事に墓穴を掘った彼が、わかりやすく凹んでいた。上目遣いで頬を垂らす。その姿はまるでシャワーに濡れた大型犬のようだった。あまりにも可哀想だったので、助け舟を出してあげることにする。
「でもさ、死んでからも毎年、多くの人から誕生日をお祝いされるってすごいよね。しかも、二千年以上の間もさ」
 大型犬は息を吹き返したボクサーのように、再びムクっと立ち上がる。立て、立つんだ。まるで声援が聞こえてくるようなワンシーンだった。
「そうなんだよ。そんな自分がだよ、突然、今年だけは誰からも祝われないとしたら、物凄く驚くんじゃないかなぁ、って思うんだ」
「うんうん」と相槌を打った。ひとまず優しく聞いてあげることにする。

「たださ、そんな陽キャだから、きっと彼はモテない男のことなんて考えられないと思うんだよね」
 なるほど、陽キャ。彼の中で、キリストさんはパリピ扱いなのか。確かに人気者ではあるけれど、陽キャだとか陰キャだとかとは少し——というか、だいぶ——違うと思うんだ。それに、自分で十字架を背負って丘に向かうって、おそらくそこまで陽キャじゃないよ。ハロウィンのコスプレじゃあるまいし。
「なんなら、クリスマスがあることで独りぼっちを強く認識してしまう人もいるんじゃないかと思うんだ」
「……まぁ、それはある、かもしれないわね」
 『くりぼっち』などと自虐をしたり揶揄したりするくらい「クリスマスは大切な人で仲良く過ごしましょう」というのが一般通念になっている。逆を言えば、クリスマスがなくなれば孤独を感じる日が減る、というのはその通りなのかもしれない。
 しかし、いくらなんでもそれではキリストさんが可哀想だ。暴論だ。生まれたことは祝福されるもので、貶される謂れはない。優しく聞いてあげようと思っていたけど、前言撤回。「でもさ」と反論をする。「キリストさんだってさ、別に祝ってくれと強要している訳ではないんだし、彼のせいではないでしょ。素直にクリスマスを楽しんだらいいじゃないの?」

「んー。俺さ、思うんだよ」
 彼は諭すような声を出す。それにしても、映画も見終わったし、私はそろそろベッドでごろりと眠りたい。そんな私の気持ちなど気に留めることもなく、彼はとうとうと話を続ける。
「なんかの漫画で出て来たんだけど、主人公がクリスマスが苦手だって話があるんだよね。『アセるのだ。お前はいま幸せか? 居場所はあるのか? と問い詰められるような気持ちになるのだ』ってモノクロームが出てくる感じで」
「あー、それはなんかわかるかも。あのきらびやかな感じと『あと何日でクリスマスイブだぞー』って急かされる感じは、チクチクとするよね」
 そうなんだよねぇ、とのんびりした声で彼が呟く。
「決して忘れていた訳ではないし、こう、祝う祝わないってタイミングとか状況とか、そういうのによるんじゃないかなぁ、って」

「ふーん。なるほどねぇ……で、この話は、君が私の誕生日プレゼントを用意し忘れたことと何か関係でもあるのかな?」
 12月1日。今日は私の誕生日。
 大型犬は再びしょぼくれて、耳を垂らす。ばれていたかと焦り始める。しどろもどろになりながら、あうーと声に出している。
「あの……その……ごめんなさい」
 ふぅと息を吐く。やれやれ、相変わらず回りくどい。そもそも彼からは既に十分過ぎるほどの贈り物を貰っている。それなのに、彼はそのことに気付いていない。鈍感なのか純粋なのか。いずれにせよ「鈍い」ことに変わりはなさそうだ。

「君ってやつはさー、どうして私が怒ると思ってるんだい? ここ二週間くらい、ずっと私のためにケーキを作ってくれていたのでしょ?」
 パティシエである彼は、私の誕生日に合わせて、連日連夜オリジナルの誕生日ケーキを創作してくれていた。私のイメージに近付くようにと、毎日のように「これは違う」「あれが違う」などとブツクサ言いながら研究を重ねている姿を見てきた。
「明日……というか、もう今日か。まぁ、どっちでもいいや。次はさ、遂に完成品が食べられるのでしょ?」
「なんでわかるの!?」と大型犬は驚く。
 なんでわかるのかなどわかりきったことだ。ついさっき大きな声で「これだ! できた!」と喜んでいたのを知っているのだから、君以外なら誰もが気付くものだぞ。
「だからさ。それだけでも十分嬉しいんだよ。ありがとう」
 そう言い終わるが早いか、大型犬が尻尾を振って近寄ってきた。えぇい、暑苦しい。こんなペットを飼った覚えはないのだ。一方だ離れさせるためにもヨシヨシと頭を撫でてやる。

「で、誕生日プレゼントなんだけど——」と彼の鼻先にスマホを突きつける。そこには、プラダの財布が並んでいた。
「あの……ケーキで十分という話では……?」
「何を言ってるんだね、パティシエのくせに。甘い物は別腹ですよ」

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いかがでしょう?

「二人の日常」のようなものをコメディタッチに描いてみたいな、と思って書いたのですが、うまく空気感が伝わっていれば良いなと祈るばかりです。

さて、明日12/2は 井月 亜矢さん です。

「ポインセチアの思い出をエッセイ風にしてみます」とのことですので、ぜひ明日もご期待ください!

一足早いですが、皆様、良いクリスマスを!


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