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[ショートショート]A BARD DAY'S NIGHT

 鳥になった夜。

 いつぞやに「この大空に翼を広げ飛んでいきたい」と歌いはしたが、まさか本当に鳥になるとは思わなんだ。

 鳥ってこんなに飛ぶの大変なのか……明日から鳥を見る目がわかりそうだ。鳥目だけに。

 ……なんて変な駄洒落が出てしまう。

 いやはや、疲れたなぁ、な夜。
 丸太のようにぐっすり寝よう。

 僕は鳥のように羽を休めることにした。

 だが、あまりの出来事にすぐには眠れそうにない。
 そう、全ては昼間のあの時から始まった。

「お前、飛ぶか?」
 そう言われたのは、つい半日前のことだった。
 強面の男からの依頼など良いことなはずがない。
「……飛ぶ?」
「飛ぶっつったら、そのものズバリだろ」
「高飛び、バックれ、薬中——」
「ばーか。んなわけあるかよ。適法で、合法で、応報なことだよ」
「おう、ほう……」
「お前が飛ぶなら、この件、チャラにしてやるからよ」
 強面の男にそんな取引をされてしまえば、ぐうの音も出ない。
「……はい、飛びます」
「そうだよなぁ! お前の牡蠣のせいで、パイロットが腹を壊したんだからなぁ」
 そう言うや否や強面の男もトイレへと駆け込んだ。

 確かに、僕は「Uber eats」の配達人として彼らに生牡蠣を届けた張本人だ。
 しかし、頼んだのは彼らではないか。

 なんでこんな大一番に生牡蠣なんて頼んだんだ。
 なんでこんな人たちの食糧を運んでしまったんだ。

 後悔先に立たず。
 立つ場所は超高台。
 失敗すれば海へと真っ逆さま。

 あぁ、まさか『鳥人間コンテスト』のパイロットになるなんて。

<リスペクト>
『A Hard Day's Night』The Beatles

#クリエイターフェス  #ショートショート #小説 #短編小説

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