1日約2,400円。「青春18きっぷ」で過ごす「贅沢」な時間

この年末年始も、青春18きっぷで帰省した。
関東から関西まで、時間にして約10時間。ひたすら在来線に乗り続ける旅だ。

1日あたり約2,400円、ちょっとした飲み会よりも安価に帰れるこの旅の道中は、僕に非常に贅沢な時間を与えてくれる。

それは日頃感じることがない、「余白」の大きい旅だからではないかと思っている。

旅好きだけどお金がない、そんな学生時代の強い味方が青春18きっぷだった。言ってみれば当初は「鉄道の旅が好きで」「安いから」の理由それだけだった。
九州をほぼぐるっと1周めぐったり、近場を1日・2日単位で旅したり。あてもなくふらっと旅することもできれば、目的のゲストハウスを訪れた一心で動くこともできる。お金がないけど時間がある大学生には、青春18きっぷはもってこいの手段だ。

社会人になり、(未だにカツカツだが)相対的に見ると、多少使えるお金は増えた。
関東ー関西を往復新幹線で移動することもできなくはないし、セールを狙えば飛行機も1万円を切ることもある。

旅好きな知り合いの先輩には「学生時代みたいなことしてるね」なんていじられるけど、それでもなお青春18きっぷを使い、長い時間をかけて帰省するのは、その行為、過程自体に魅力を感じているからに他ならない(節約したい気持ちももちろんあるが)。

ひとつのきっかけは2年前、学生時代のことだ。
当時お世話になっていたNPOの活動の一環で関東を訪れた僕は、同じく関西在住で参加していた後輩、共通の知り合いである旅好きな先輩とともに、18きっぷで関西に戻ることになった。確かその理由も「なんか楽しそうだったから」と「安いから」だったと思う。ちなみに、それまで僕は(比較的王道にも関わらず)関東ー関西の移動は夜行バスが多く、18きっぷは使っていなかった。

ただ、実際電車に乗ってしまえば、これがとても楽しい。朝の出発が早くて眠くても、途中で電車が遅れても、大雪で関ヶ原を越せなくても(やむなく三重県経由で迂回した)、それ自体が「非日常のイベント」となった。もちろん、そのときは後輩先輩がいたからワイワイできたこともあるけれど、流れゆく車窓の景色を眺めながら、普段とは異なる時間をたっぷりと共にすることに、大きな幸せを感じる自分がいた。

昨年も同じ先輩と18きっぷで帰省した。お互い社会人ということで、社会人相応の話もしつつ、でもお互い疲労に勝てずにうとうとしながら、10時間をかけて移動した。

先輩が関東から異動してしまったため、今年の年末は一人だった。
その場合はどうかというと、またそれはそれで贅沢な時間を過ごせていると思っている。昨年の帰路や春休みなどにも単独18きっぷ帰省を楽しんでいたが、苦痛だと思ったことはいまのところ、ない。

一人の場合だと、乗車中は正直「暇」だ。ただそれは言い換えれば、「自分と向き合う」時間が増える、ということだろう。ただ景色をぼうっと眺めたり、忙しさを言い訳に疎かにしていた日記を数日分書いたり、気になった本を読んでみたり、そしてnoteを書いたり。
この時期ならではでいえば「2024年やりたいこと、やりたくないこと」や「キャリアビジョン、生き方」なんて、時間があるときにしかできないようなことでも、時間があるからこそできる。もちろん、ずっと根詰めて義務感に駆られる必要はない。少し疲れたら、その車窓が、山が、田園が、あるいは見慣れたまちの風景がリフレッシュの一助となる。

家にいたらただスマホを見ながらダラダラしてしまうかもしれないが、旅では自然とその行為を避けてしまう。一方で、日頃から億劫になる行為も、10時間の道中で少しずつ、履行されていく。

夜行バスなら、ただ寝ているだけで着いてしまう。
新幹線や飛行機でも、乗車時間はほんの数時間だ。確かに「タイパ」のよい旅だが、そこには余白はない。それだと正直、土日で帰省することもできる。
18きっぷでの帰省ができるのは、販売期間中で、かつ長期的な休みを取ることができる、年末年始や盆期間だけなのだ。しかも、きっと家庭ができたり、守るべきものが多くなったり、あるいは自身の身体が衰えたりと、この先「余白のある旅」が成り立たなくなる可能性が高い。できるのは、今しかない。

この贅沢な時間を過ごすことができるのもあと僅かかもしれない。そんな少し寂しい気持ちになっていると、電車が静岡駅に滑り込んだ。ゴールまであと数時間。余白を感じながら、山科駅の書店で偶然見つけたお供の本『小ネタの恩返し(ほぼ日文庫)』に浸かることにする。

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