見出し画像

いつもの本といつもの曲

 繰り返し同じ本を読む僕の姿を見て、母がひどく心配していた時期がある。別の本を買いなさいと言われてもらったお小遣いで、まったく同じ本を買ったのもよくなかったのかもしれない。繰り返し読んでいた本は、祖父のものだったので、自分のものとして保持したかっただけなのだが…。
 覚えてしまうくらい読んだ本でも、その時の感情や状況によって文章の受け取り方は変わる。自分が今、どんな人物や表現を好んでいるかを把握することに役立つ。読書を通した健康診断みたいなものだ。
 母について思い出したことがある。母は毎晩同じ曲を聴きながら料理をする。その曲は台所で、おそらくゆうに5000回を超える回数流れているのではないか。もし同じ作品に触れる回数を心配してくれていたのであれば、母の方が心配になる。
 でも多分、僕の心配をよそに今日も台所では同じ曲が流れ、母は料理をしている。そして僕は、母の心配をよそに同じ本を読むのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?