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創作と鑑賞はいかに輪を成すのか

私、普段はビジネスモデルづくりの構想に携わっているのですが、音楽家というクリエイターの側面もある中で、作品が作り出される流れを整理できるか考えてきました。今回、一定の整理が進んだのでnoteしてみます。

※3,800字程度なので少し長めです。かいつまんで読んでいただいてもOKです◎

考えを進める中で感じたポイントとして、作品を生み出す行為とビジネスモデルは根本的にアイデンティティが違うという認識があり、その点も盛り込んでいます。

創作活動にフレームワークは必要?

「おいおいそんなことフレームワークにするなよ〜」なんて思う方もいるでしょう。

ただ、創作環境を誰しもが持ち得る時代になったからこそ、自分と見つめ合い、承認欲求に振り回されたり自我に喰われたりすることのないよう、活動の柱を持つことは大事になってきていると感じています。

そこで考えたのが、このフレームワークです。

具体的には
以上4つの段階に分けて生成されていきます。
では、以下段階別に解説していきます。


STEP1: Obsession - 執着

まずは、根元となる【執着】です。
個人史に紐付く原体験であり、イマジネーションの源泉となります。

この執着により、クリエイターは独自の価値観や思想を形成していくこととなり、一般的なものの見方からズレてきて、世間的には「変なヤツ」になっていきます。

このことを考えるにあたり、アメリカの作家ヘンリー・ソローの言葉を紹介します。

「ある男の歩調が仲間たちの歩調とあわないとすれば、それは彼がほかの鼓手のリズムを聞いているからであろう。めいめい自分の耳に聞こえてくる音楽にあわせて歩を進めようではないか。」- ヘンリー・デイビッド・ソロー(ウォールデン 森の生活)

「ほかの鼓手のリズム」というものは、原体験によりクリエイターが受けた啓示であり、彼らはそこから見えるビジョンに従って独自の歩調で歩んでいるように思えてきます。

ここで重要なのは、啓示は「受け手の解釈」であるところです。

創作行為について、行動原理の流れという点では、社会の中で「業」を作り出すこととの共通点も多くあるでしょう。具体的な比較対象を挙げると、起業・新規事業開発・キャリア形成などです。
こういった業を考えるときと最も異なる点があります。それは、利他性があっても無くても構わないという点です。初期衝動は利己かも利他かも、善かもしれず悪かもしれず中立であるかもしれない、如何様にも色が付く性質のものではないかと考えます。

逆に言えば、その衝動に利他性がある場合、価値提供の流れを整理するビジネスモデル構築のメソッドが役立つこともあるでしょう。


STEP2: Summon - 召喚

次に【執着】によって見えているイマジネーションを現実に落とし込む、現世に【召喚】するという作業に入っていきます。

脳内で空想世界から現実世界に呼び寄せる行為で、0→1の産みの苦しみを伴います。創造力と編集力をフル動員し、モヤモヤとした想像上の世界の要素を、現実界のフォーマットに落とし込む作業をしていきます。

構想力とともに基本的な表現技法が必要であり、よりファインなものをつくり出せるかどうかもこのコンセプトワークの技術によって左右されると思われます。マジックワードっぽいので曖昧なのですが、よく「プロデューサー」と言われる人の仕事はこのフェーズがメインかもしれません。

また、作品を継続して作り出すための「器」をつくる場合もあれば、個別の「作品そのもの」を作る場合もあるでしょう。
(このあたりは今後さらに思考を深めていきたいところ)


STEP3: Ritual - 儀式

召喚したイマジネーションを現世の人々にお披露目するのが、この【儀式】です。儀式は、再現性のない刹那的な行事です。
ここでは、場を支配するような総合的な演出が重視されます。また、ライブ性がある場合は、演者の技術や表現力も重要なファクターとなります。
受け手にとっては、作品と出会う「現場」であり、主催側としては物理的に最も手間暇金がかかるフェーズといえるでしょう。(何かと面倒が多い)

ex. 展示会、演奏会、発表会など
(コロナ禍ではこの儀式に大きな制限がかかっているわけですね)

そして、そこでの時間や場を共有する「受け手」に、想像上の世界を現実世界で知覚させることが最重要目的となるのです。受け手はリアルタイムで作品や実演を鑑賞することで、その時しか知覚できない何かを感じ取り、その特別な時間を共有できた喜びや感動を味わいます。(次の4につながる)


STEP4: Belief - 思い込み

最後に、受け手の心に作用させ、あたかも何か意味が存在するかのように【思い込ませる】ことで、【儀式】は完了します。
受け手が作品を通してエクスタシー(忘我)の境地に導かれ、現実世界から離れた作り手の想像上の世界を知覚し、そのクリエイティブを信じ込むことができます。それは、神秘的な心境であり、非日常的な体験として受け手の精神に刻まれるでしょう。
「騙されぬ人は彷徨う」というフランスの哲学者・精神分析家のジャック・ラカンの言葉もありますが、思い込む状態の安堵もあり、受け手にとっては価値になるのではないでしょうか。

別の視点で見ると、この3〜4段階で商業的な付加価値が加えられ、エンターテインメントビジネスモデルのように産業化させることが可能になります。例えば、アーティスト当事者は1〜2くらいまでしか関心がなく、ビジネス化させる関係者によって3〜4をプロデュースされるケースは多くあります。また、逆にアーティストと自称・公表しながらも実際は3しかやらずに1〜2はプロデューサーにより支配されているケースもよくあります。

つまり、マルチステークホルダーにより創作活動をすることで、各々の異なる思惑を達成するための構想に変化し、純粋芸術的性質と商業作品的性質の異なる2つの価値が同居することとなります。

これは、「受け手」という新たな関係者が登場する最終フェーズでの大きな特徴となります。


《検証》 Miles Davisさん、椎名林檎さん

クリエイターの行動原理は絶えず変化し続けるものと認識しながらも、試しにフレームを当てはめてみます。一部分を切り取った認識であることは重々承知しながらも、一貫性が伝わるのではないでしょうか。
私の活動範囲に近い音楽家という区分から、このお二人に当てはめてみます。

Miles Davisさんの場合
「帝王」と呼ばれる伝説のミュージシャンにして、ジャズの概念を時代に応じて拡張してきたマイルス・デイビスさんだとどうでしょうか?努力とチャレンジを続けて自身の音楽を進化させてきたマイルス氏の原点には、歯科医であった父の言葉があったようです。
①父に言われた「お前だけのVoiceを持て、モッキンバード※になるな。」
 ※他の音を声真似をするが、地声が見つからないとされる鳥
②ジャズを「変化する音楽」と捉え、フォーマットを固定しない創作スタイルで展開しつつも、自分のサウンドとして全体を支配することを徹底
③ 徹底したアピアランス(演奏時の姿勢に合わせたスーツをオーダーするくらい)と、時代に合わせたエキセントリックなファッション、世界観を表したアートワーク、ライブでの緊迫したパフォーマンス
④ 時代の変化を体現したマイルスへの圧倒的な支持

椎名林檎さんの場合
言わずと知れた、現代の日本の音楽シーンを代表するアーティストさんですね。様々なメディアで取り上げられていますが、自身の思春期の原体験が、彼女を音楽家として突き動かすWHYに繋がっているようです。林檎さんの場合、Obsessionに利他性が含まれる例として分かりやすいと思い、分析対象とさせていただきました。
(例えば以下の特集ページ)

① 新聞で知った15才で自殺した女の子への共感と憐憫
② 様々な女性像を、豊かな音楽性と歌詞で表現
③ 超自我的な世界観をビジュアライズ、卓越した演奏
④ 現代に生きる女性からの圧倒的な共感・支持

まとめ

私が問い続けてきた、人間が創作する行動原理への、一つの解として本記事を執筆してみました。

流れを簡単にまとめると、

1.執着から生成されたイマジネーションや思想を
2.現実界に召喚する工夫を凝らし
3.あたかも本当に現実に存在するかのように感じさせる儀式を行い
4.他者にその存在を信じ込ませる

となります。

作品が生み出されるまでのサプライチェーン的な流れの中では、1人が全てに携わることもあれば、複数の関係者によって創造されることもある(商業ベース前提の場合など特に)と思います。

すでに創作に携わっている人も、これから創作に携わる人も、創作の流れの中での自分の関わりを自覚することで、何が求められているのかが鮮明になるのではないでしょうか。

また、アートとエンタメビジネスがごちゃ混ぜにされて語られることを目にするたびに感じていた違和感も、私自身クリアになりました。表現する際に自分の立ち位置に悩み苦しむ人が、立ち位置を整理する一つの方法になるかもしれません。

創作には膨大なエネルギーが必要です。その源泉に向き合いながらも、どのように現実化させ他者に伝えるのか。そのプロセスを考えることで、クリエイティブに携わる各々の役割に専心し、創作活動のパフォーマンスとモチベーションを高めていくことにつながれば幸いです。

荒削りの理論かつ長文にお付き合いいただけた方に感謝します。

それではごきげんよう。

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