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葉しょうがの辛くなる頃。

葉しょうがを、ひと口囓る。
するとみずみずしいフレッシュな香りが体中を包み込み、鮮烈なしょうがの風味が鼻に抜け、やわらかな辛みが口いっぱいに広がる。

毎年夏になると、そんな素晴らしい葉しょうがが地元の直売所に並びます。

立派な葉っぱ付き 葉しょうが

家人も私も、この葉しょうがが大好き。
なんといっても、蒸し暑さの続く長い夏場には元気をもらえるし、しかも食べ方がとてもシンプル。
肉巻きなど、料理にももちろん使えるけれど、そのまま味噌を少しつけて囓るだけでおいしいので、たいていは残ることもなくあっという間になくなります。

この葉しょうが、出回るのはだいたい7~8月頃からですが、年々人気が高まっているせいか、10月に入ってからも店頭に並んでいることがあって思わず買い求めたくなります。

その結果、夏場から秋口にかけてはつい足繁く直売所に通うことになるのですが、やはりあまりしつこくするのはいけません。ある年、少し痛い目に遭いました。

実はこの葉しょうが、毎年ある時を境に、急に味わいが変化するのです。

それまでみずみずしく、筋張ったところのないなめらかなツヤ肌だったしょうがの根の部分(可食部)が、突如として小さめになり、入り組んだ構造になり。しかも食べてみると、以前よりもかなり辛みが強くて、思わずぎゅっと体が縮こまるほど。

年にもよりますが、これはだいたい、8月の終わりか9月にかけての頃から。
まだまだ日差しは強く、残暑が厳しいけれど、それでもどことなく風がわずかに涼しくなって秋の気配が感じられる、そんな時季です。

そう、初夏の「さくらんぼの実る頃」ならぬ、初秋の「葉しょうがの辛くなる頃」。

そういえば、ホワイトアスパラガスをこよなく愛するドイツ人は、その収穫期を終える目安として、「さくらんぼの実が赤くなったら、ホワイトアスパラガスの季節は終わり」という言葉をよく使います。なんだかそんなこともふいに思い出されたり。

▽ 第4章「野菜の女王アスパラガス」


さくらんぼの季節は初夏ですが、葉しょうがの方は秋。

今までと同じようでいて、少しずつ季節が変わってゆく気配。
そんな季節の移ろいのきざしを、食べ物を通して感じるというのはなんとも風情があります。

葉っぱの香りの鮮烈さに酔いしれる…。

秋が近づくにつれ、肉質はやや硬くなり、辛みも強くなってくる葉しょうが。とはいえ、残暑の厳しい近頃ではこの味わいもまた格別の楽しみです。

毎回、そのまま捨ててしまうのがもったいなくなる葉の部分は、水を入れた小瓶に差しておいたり、冷蔵庫の消臭剤がわりにしたりと最後まで楽しみます。

調理の合間に葉をこすってみては、その鮮烈なしょうがの香りに酔いしれながら。

今日も今日とて、葉しょうがの泥を黙々と丁寧に洗い落としながら、葉っぱの香りに包まれたキッチンで、いつもより少し楽しみな夕餉ゆうげの支度が始まります。

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