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読書紹介 ミステリー 編Part6 『紙魚家崩壊 九つの謎』

 どうも、こぞるです。今回ご紹介する作品は、北村薫先生作『紙魚家崩壊 九つの謎』となります。
 前回のPart5で日常の謎に触れましたので、その代表的な作家の1人である北村薫先生の作品を紹介しよう!という運びとなりました。これまで数々の名シリーズを生み出している方でして、私は結構これまで読んできたので、どれを読み直そうかと思っていたのですが、今回思い切って、こちらの短編集に初めて手を出してみました。

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-作品内容-
日常のふとした裂け目に入りこみ心が壊れていく女性、秘められた想いのたどり着く場所、秘められた想いのたどり着く場所、
ミステリの中に生きる人間たちの覚悟、
生活の中に潜むささやかな謎を解きほぐす軽やかな推理、
オトギ国を震撼させた「カチカチ山」の“おばあさん殺害事件”の真相とは?
優美なたくらみに満ちた九つの謎を描く傑作ミステリ短編集。

 こちら、ミステリ短編集となっております。前述の通りシリーズものではなく、一冊の中にある9つの作品も1ペアを除いて全く繋がりのないものとなっています。
 そして、作品としても、これはミステリーなのか?と思われるようなものも入っているのですが、今回はこちらで紹介いたします。

 バラバラの作品群なので、内容に全く触れずに紹介するのは難しいのですが、まずこの北村薫先生の作品について。
 私は北村先生の作品を読んでいると、いつも、なぜか萩尾望都先生や名香智子先生の絵柄が頭の中で浮かんできます。それがなぜだかずっと分からなかったのですが、今回ハッと思いついた理由が、「女言葉」の美しさにありました。
 女言葉って聞いてわかりますかね?「〜だわ」とか「〜なのよ」といった、今ではキャラクター的な言葉として扱われる言葉のことです。現実ではあまり使われなくなりましたね。
 もちろん、この女言葉を使った方が美しい!とか、最近の若いもんは・・・とか、そういった意味ではなく、けれどこの女言葉というジャンル特有の美しさというものがあるように思えて、それが、私が北村先生と先述の少女漫画界の大御所の方々を、頭の中で繋げる理由にあたるのではないかなと思ったのです。
 これは、けっこう私の中で発見だったので、noteに感想を書き始めてよかったなあと思わされています。

 内容では、今作における、日常の謎について私が感動したのは、前回Partでも書きましたが、昨今ある日常の謎系の作品では、主人公が特殊な環境(店主であったりミステリ研究会など)に居どころをおき、そこに困った人たちがやってくるという流れが多かったりするのですが、今作に描かれているものは、謎を呼び込むわけでなく、本当に、ただ生きている中で起こりうるふとした疑問を「うーん、これはなんだろう」と他愛もなく考えることで生まれている「謎」なのです。
 謎がやってくるとか、謎が起こるのではなく、ただ、そこに、あたりまえのように謎が存在しているといったイメージです。この感覚というのは、さすが、北村先生だなあと思わざるを得ません。

 表題作でもある紙魚家崩壊に出てくる、右手と左手が恋仲で、いつもかってにイチャイチャしている探偵助手も、ものすごく心掴まれるのですが、個人的には、九つ目の作品である”新釈おとぎばなし”が一番お気に入りかもしれません。少なくともこれを書いている段階では。
 これは、あとがき解説にもありましたが、とても落語的です。噺の枕があり、そしてユーモアたっぷりに物語が進んでいく。新釈おとぎ話とあるように、ここではかちかち山を本格ミステリという目線で解釈するというお話になっております。かの有名な太宰治も同じようにかちかち山の独自解釈を行なっていますが、それにも触れつつ、しかし新しくファンタジーでありながらも、なんだかリアリティを感じる、そんな一変となっております。
 ちなみに、この作品の中で私が一番好きなセリフは

「素敵なのはフネより君さ」と、波平が聞いたら怒りそうなことをいう。

です。この本全体では、ダジャレ的な愉快さというのはあったりなかったりなのですが、こういったものが好きであれば、北村先生の覆面作家シリーズなどがおすすめです。ドラマ化もされていましたが、そもそものキャラクター設定がマンガチックでコミカルです。

amazonのレビューなどにもありますし、先にも書きましたが、本格的なミステリーを読みたい!という気持ちで買うと、すこし違うな・・・という気持ちになるかもしれませんが、Part2で紹介した『メルカトルかく語りき』のような、一風変わったお話にも手を出したいという気持ちがありましたら、おすすめの一冊となっております。

では、この辺で。

※現状kindle版がありません。(2020年6月6日時点)

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