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読書紹介 ミステリー 編Part17 『雪密室』

 どうも、こぞるです。
 今回ご紹介する本は法月綸太郎先生の法月綸太郎シリーズ第1冊である『雪密室』です。part17を名乗るほどやってきましたが、まだまだ名探偵ってたくさんいますね。思えば、『名探偵コナン』は背表紙の折り返しに100巻近く名探偵を紹介しているんですよね。
 先は長いですが、その分楽しみもまだまだありそうです。

ー作品内容ー
 雪の山荘で美女が殺される。部屋は旋錠され、犯人の足跡もない! 本格推理の極。誇り高い美女からの招待で信州の山荘に出かけた法月警視だが、招待客が一堂に会したその夜、美女が殺される。建物の周囲は雪一色、そして彼女がいたはずの離れまで、犯人らしい人物の足跡もついていないのだ。この奇怪な密室殺人の謎に法月警視の息子綸太郎が挑戦する、出色本格推理。

 タイトルのシンプルさからして、本格推理への作者の意気込みが感じられますよね。これをつけるのは相当な勇気だと思います。

親子推理

 今作の主人公であり語り手は法月(のりづき)貞雄という警察官(警視)です。この方自身ももちろん優秀な警察官であることにかわりはないのですが、今作の名探偵は、彼の息子であり、売れ始めの若手推理小説家である法月綸太郎(作者と同じ名前!)が、担っています。
 作者と同じ名前の名探偵、父はただの警視。この条件を聞けば、ミステリーマニアならピンとくるものもあるでしょう。エラリークイーンのオマージュですね。もしそうでなかったら、息子が勇者であるドラクエ5のオマージュでしょう。

 そして、今作ではこの関係性が面白く使われており、父親が捜査に加わった事件を息子が解決するといったシンプルな形ではなく、父親が休暇中なのに事件に出会し、それを締め切りに追われていた息子が助けに来るという流れになっています。
 休暇中なら、父親警視じゃなくてもいいじゃん!と思いきや、休暇の理由であったり、その事件の裏側の部分に警察組織の闇や権力批判が存在しています。
 名探偵のロジカル本格推理な面だけでなく、そのような権力へ反抗する組織の人間を描いた警察小説という面を上手にミックスしているところも、この作品の面白いところと言えるでしょう。

雪と足跡と完全犯罪

 そんな今作が本格推理小説として挑んだのが、タイトルそのままにあるように、雪による密室事件です。
 古くはディクスン・カー(作中内で紹介あり)で使われ、小説、漫画、ドラマなど様々な媒体のミステリーで取り上げられ、犯人たちはあの手この手で雪上の足跡をどうにかしてきました。頑張って消してみたり、つけないようにドアまでやってきたり。

 それだけ、もう擦りに擦られた場面設定です。しかも、今作の発表は1989年。私のようにそれ以降に生まれて、いろいろな作品を読んできた読者にいまさら・・・・・・面白い!
 面白いし、すごいです。
ミステリーの魅力の一つに、どんでん返しや意外性というものがあります。よく、本の帯なんかに書いていますよね「大どんでん返し!」とかって。本当にそうあれば書いちゃダメだと思うんですけど。
 しかし、今作の狙いはそういうところではなくて、推理のロジックとかパズル性にあります。クイーンのオマージュがあるということを上に書きましたが、作風にも強く影響があり、わざわざ見開き1ページを使って、読者への挑戦上という文言を使っています。ここまでに書いてあることを組み立てれば、犯人はわかりますよ、と。

 そして、犯人がわかってから見返すと、ああ、ここにその狙いがあったのかと悔しくなる。だからこそ、探偵が名探偵として映る。正しく、本格推理小説の原点を思わせてくれます。

ポッピングシャワー

 作者が当時24歳ほどで書き上げたこの作品。専業作家としての第1作だそうですが、最近のインタビューなどで本人が語っている通り、作中人物の掘り下げというものがあまりされていません。容疑者や被害者がどういう仕事をしていて、どういう関係性でというものは書かれていますが、その実態などはそれほど描かれていないのです。ですが、私は今作においては、それはいい意味でポップでプラスに働いていると思いました。
 このことについて、人物が描けていない!といった批判的なレビューなどをみたこともあるのですが、個人的には、好みももちろんですが、この感覚って流行り廃りがあるのではないかと思いました。今の時代、物語でもなんでも、関係性や人物の背景というのが好かれるように思います。漫画の人物全員に過去編があったり、読者からキャラクターの細かい設定を求められたりだとか。もちろん、私もそういったものは大好きです。妄想できるし、没入感も変わるし。
 しかし、物語の面白さっていうのは、それがなければ損なわれるかというと違う気がしていて、今作のように「探偵のかっこよさ」「謎解きの美しさ」といったものをフィーチャーしていくといった魅力も十分にあると思うんですよね。
 なので、こういった作品も廃れず続いていってほしいなと思う次第です。

さいごに

 今なお続く人気シリーズの第1作。
 何よりも、作者の若さから来る本格推理への熱意と愛情に惚れ惚れします。ページ数も文庫で280ページと短いので、たまには短編じゃないミステリーが読みたいけど、時間があまりないというジレンマに陥っている方にはぴったりじゃないかと思います。さっくり楽しく読めます。

 また、何度も名前が出てきますが、エラリー・クイーンについて、「後期クイーン的問題」というミステリー界では有名な提言があるのですが、それは法月綸太郎先生が「現代思想」で書いた「初期クイーン論」という論文が端を発しています。それほどのエラリー・クイーン好き、ミステリー好きが書いたミステリーという視点でも楽しめるかもしれません。
 ぜひ、読んでみてください。

それでは。


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