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読書紹介 ミステリー 編Part16 『私の大好きな探偵 仁木兄妹の事件簿』

 どうも、こぞるです。
 今回は、仁木悦子先生の書かれた仁木兄妹シリーズの短編を、東京創元社の元編集であり、元社長でもある戸川安宣さんが編纂した、こちらの本をご紹介いたします。 時系列順に仁木兄妹の物語が並んでいて読みやすく、また、雑誌掲載のみで単行本にそれまで未収録だったものも掲載という、ありがたさ満点の一冊です。

−作品内容−
 のっぽでマイペースな植物学者の兄・雄太郎と、ぽっちゃりで好奇心旺盛な妹・悦子。推理マニアのふたりが行くところ、事件あり。どこかほのぼのとした雰囲気の漂う昭和を舞台に、知人宅で、近所で、旅先で、凸凹コンビの名推理が冴えわたる!

 決して、索引ページのワ行を埋めたかったから選んだというわけではありません。本当です。私は無実です。

作者について

 wikipediaなんかで調べればわかっちゃう気もしますが、やはりここは書いておかねばと思う情報です。
 作者である仁木悦子さんは、日本で初めての女性本格ミステリー作家ともいえる人物です。というか、わざわざ女性なんて冠詞のように使わなくてもいいぐらいの、日本のミステリー界の土台を積み上げた偉大なお一人です。
 その始まりは、今も続く「江戸川乱歩賞」が新人賞に切り替えての第1作目として選ばれるほどのロケットスタートでした。しかも、当時は本当に女性作家がいなかったらしく、みんな女性ペンネームの男性だと思っていたなんていう逸話まで残して。その他にも様々な付帯情報やら逸話やらがありますが、それはgoogleに任せます。
 そんな仁木先生がその名を轟かせたのは昭和32年。つまりは1957年です。63年前!これは松本清張先生が『点と線』によってブレイクする前ということで、当時の印象的には、松本清張先生の先輩ミステリー作家といっても過言ではないでしょう。
 すごい!もっと今の人にも読んで欲しい!

仁木兄妹

 このシリーズの探偵役になるのは、兄の雄太郎と妹の悦子(作者ペンネームと同名)です。作品内の時間は非常に幅広く、二人が中高生の時のお話から、悦子が結婚し二児の母になっている時代のお話まであります。
 兄の方が頭が切れて探偵役というイメージではあるのですが、大人になって悦子が家庭を持ってからは、主婦である悦子単体での謎解きなんかも描かれています。
 そんな二人のいかにも兄妹な掛け合いが、なんとも愛らしいのです!めちゃくちゃ仲がいいのだけれど、その仲の良さがいかにも兄妹で、ベタベタはしないし、いたずら心を向けはするけど大きな喧嘩はしない。そんな絶妙でコミカルなバランスがこの作品の魅力をさらに引き立てています。

 あと、悦子が全然美少女じゃないのもいいですね。150弱の身長と60キロほどの体型と、顔については別に書いてはいないんですが、そんな感じです。
 ミステリーって、美女出過ぎじゃないですか?短編集だと一冊に8人ぐらい美女がいる気がします。

最近デビューした?

 近所の殺人事件から、いわゆる日常の謎まで多様なミステリー が含まれており、そのどれもが、提示された情報を見事に論理的に組み立てて、真実にたどり着く形式を取っている今作。その謎解きの美しさや面白さはもちろんなのですが、それよりも何よりもすごいと思ったのは、最近デビューした作家さんですか?っていうぐらいに、まっっっっっったく古臭さがないです。
 「昭和中期を舞台にしたミステリーを描いている新人さんです」と渡されても、全く疑わずに読む自信があります。これはちょっと恐ろしいことだと思います。90年代のものだって、多少はその匂いを感じるのに。
 それは、短編集を時系列順に並べたことで、いい意味で「今」らしさがないという編纂者の戸川さんや、ポップな表紙を描かれた中村祐介さんの技もあるとは思いますが、やはり作者様の実力あってのことでしょう。本当にすごい。

 仁木悦子先生は、ミステリー の前にもともと児童書を書いていたそうです。児童書って、なんか古びたりしにくいイメージがありますが、それも影響しているんですかね。

どんな色が好き?

 今更ですが、この本は5つの短編からなった本なのですが、最後の「ただ一つの物語」以外、「みどりの香炉」「黄色い花」「灰色の手袋」「赤い痕」と、色がタイトルに入った作品が集められています。今作には収録されていませんが、その他にも色が題に入るのものは多いです。直接的な理由は見つけられませんでしたが、仁木悦子先生と、色についてのお話が解説文にチラリと書かれているので、それも考えさせられるところです。

 さて、この中でなのですが、私が個人的に一番好きだったのは、「灰色の手袋」でした。これは、もう、まさしく論理トリックで、答えが見えてくると「美しい!」と唸ってしまいますし、兄である雄太郎の植物学者である知識が生かされているため、見所のある一本だなあと感じ入ります。
 みなさんの、お気に入りもありましたら、ぜひ教えてください。

さいごに

 日本ミステリーの古典の一人のはずが、なぜか知名度は高くないのは、もしかすると、古典っぽさがないからとかですかね。でも、それは古さを感じさせないという魅力にしか感じられないので、関係ないかな?
 読む人に、易しく優しく、ミステリーの面白さを教えてくれる一冊です。ぜひ、お手に取ってみてください。

その他読書紹介文はこちらから→索引

それでは。


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