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ショートショートの神様の孫弟子『日替わりオフィス』

 どうも、こぞるです。
 本日ご紹介する本は田丸雅智先生の『日替わりオフィス』です。246ページの中に全18作ものショートショートが収められたものとなっています。

ー作品内容ー
 地味なのに男性社員人気が高すぎる総務の江崎さん。居眠り常習犯でも、出す企画はすべてヒットする同僚のモニワくん。恋人がいなくても擬似恋愛でキレイになる後輩。「なんだか最近、あの人変わった?」と噂される彼らの秘密は、職場でのあり得ない行動に隠されていた。

 毎日寝る前に1話ずつ!といったアオリのお話が、1話で済んだ試しがありません。我慢できなくないですか?

いかにして孫弟子

 そもそもショートショートの神様ってどちら様?という方のためにお伝えしておくと、昔々あるところに、以前記事にも書いた星新一先生という1000遍以上もショートショートと言われる短いお話を発表された方がおりました。そのお方が生前唯一弟子に取っとされるお方が江坂遊先生と申しまして、その江坂遊先生に次はこいつだ!と認められたのが、今作の田丸雅智先生です。

 そもそも、星新一先生を知らない人が読んだら、この文は非常にわかりにくいんじゃないでしょうか……。

 ただし、田丸雅智先生の作品を読んで星新一っぽさを感じるかというと、そうではなく、その作風にはしっかりと独自性があり、近未来での難題や、現代への警鐘というよりは、身近にわき起こる奇妙な取っ掛かりに、おもしろ不思議のタネを投げ込むような作品が多いです。
 あと、オチのつけかたや風刺のタイプがちょっと落語っぽくあります。二つの意味で小噺なんつってね!
 お後がよろしいようで……。

会社員Aのお話

 今作『日替わりオフィス』では、各作品に繋がりはないのですが、オフィスという名前がついている通り、全話とも会社や、そこで働いている会社員を軸に据えたお話となっております。
 なので、どれだけ非日常な出来事や存在が目の前にあったとしても、だれもが想像できるありきたりな「会社生活」という風景がそこには広がっています。昔、西武セゾングループの広告に「サラリーマンという仕事はありません。」という素敵なコピーがありましたが、正しくその、無いと言われているサラリーマンという仕事が描かれています。
 みんなが想像するサラリーマン。いわばある種のあるあるネタみたいなものです。
 そんなある種あるあるネタと、「んなわきゃない!」というないないネタの掛け算によって、こちらの作品は面白さを生み出しています。

この身に落とし込む

 そんな誰しもが思い浮かべられる場面であったり、「そういう人いるよね!」や、「その気持ちめっちゃわかる!」といったツッコミが言いたくなるからこそ、各話のちょっとしたジャブやフックが自分にちょうどいいスピードで飛んできます。それも、全く説教臭くなく。すごい。
 私の目の前に起きたらどうしよう……とか、もしこれが現実だったら、自分はどう対応するだろうかとか、考えつつも笑いがこみ上げて、にやけてしまう。そういった作品です。

 単行本の帯に『きいろいゾウ』や『サラバ!』で知られる西加奈子先生が「すごく不思議。だけど、すごく信じられる世界です」という言葉を寄稿しています。私がこんなに一生懸命面白いことを伝えようと文をつらつらと書いているのに、たった20字程度でこんなに面白さの本質を伝えてくれるんだから、さすがですよね。そして、悲しくなりますね。

タイトルの妙

 あと、ショートショート全般にも言えるし、特に田丸雅智先生がすごいなと思うのは、タイトルの面白さです。
 タイトルって、つけるのが非常に難しいと思います。言わば、その物語の顔となるわけですから。そして、ショートショートを書くということは、お話もそうですが、そのタイトルも大量に生み出さなければならない。しかも、お話が短いので、あまりに芯を食ったタイトルにしてしまうと、それだけで出落ちになってしまうんですよね。
 私は学生時代に「いたい男」というタイトルで、胃と男がボクシングしているコントを思いついたことがあるんですが、これなんか悪い例です。

 その点、今作のお話で言うと「ポケットのあいつ」だとか、「客観死」なんて風に、気になるし、読むと納得がいくタイトルが様々つけられています。作品を生み出すのと同じぐらいタイトルに苦しむという作家さんもいる中で、改めて先生の素敵なセンスを思わされます。
 ちなみに、タイトルももちろんですが、中身も私は上記の2つが好きです。何の説明もなく、日常の中で異質な出来事がおこるというおかしみと恐怖が入り混じった作品です。コント「デウス・エクス・マキナ」みたいなことされます。

さいごに

 冒頭にも書きましたが、「1話5分」と大きくアオリが書いてありますが、5分でやめられる人がいたら教えてください。
 私は寝る前に本を広げて、「1冊120分」という単位で読みました。たぶん。うそかも。時間測ってないです。最後まで読み切ったのは本当です。やめられませんでした。

 ついつい読んじゃう本。日常の中の非日常。ショートショート。こう言ったものが好きな方は読んで間違いない本かと思います。
 ぜひ、一度お手に取ってみてください。


その他読書紹介文はこちらから→索引




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