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畳と旅する並行世界『四畳半神話大系』

 どうも、こぞるです。
 本日オススメするのは森見登美彦先生の『四畳半神話大系』です。
 アニメ化されたこともありますし、当時イラストレーターである中村佑介さんの表紙を伴って、様々な媒体で紹介されていたのを覚えています。
 今回もまた、作品の面白いと思ったポイントを紹介できればと思います。

ー作品内容ー
 私は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実はほど遠い。悪友の小津には振り回され、謎の自由人・樋口師匠には無理な要求をされ、孤高の乙女・明石さんとは、なかなかお近づきになれない。いっそのこと、ぴかぴかの1回生に戻って大学生活をやり直したい! さ迷い込んだ4つの並行世界で繰り広げられる、滅法おかしくて、ちょっぴりほろ苦い青春ストーリー。
(hontoより引用)

 なぜか、妖怪が出てくる話だと思い込んでいたので、最後の最後まで小津くんは人間じゃないのだと信じていました。

腐り大学生更生プログラム

 今作の主人公である「私」は上述の作品内容の通り、ままならない大学生活を送っているのですが、まあーーーーー腐ってます。
 世の中の大抵のものを斜めから見て、10文字で済みそうな情景を2ページ使ってぺちゃくちゃ語ります。よくもまあこれだけ豊富な悪口と自己肯定の言葉が思いつくなあ……と。
 なんて書くと、まどろっこしい小説なのかとか、嫌な気持ちになっちゃうのかとか想像されるかもしれませんが、そんなことは一切なく、ただただ共感と笑いに包まれます。
 あまりに面白いので、主人公には、どうかこのまま幸せにならないでくれとすら思ってしまいます。
 最近、バラエティ番組なんかでも、お笑い芸人さんが世の中に噛みつくという構成のものが増え、それが笑って受け入れられていることからも分かるように、毒を笑いに変化させるというのは、素晴らしいパワーが宿っているんだなと感じます。

 それから、今回の場合は、主人公の「私」を年下として見ることができたと言うのも、大きいかもしれません。やいややいやと言っているけれど、諸々拗らせた20そこらの青年かと思うと、なんやかんや可愛く見えてくるものです。
 自分って大人になったなあと思いながら「私」の脳内を覗かせてもらいました。

言語機能染まっちゃう系

 小説を読んでいると、頭の中の喋り口調が、その小説の文に影響を受けてしまうことがあります。特に今作……というか、森見登美彦先生の作品はその影響力が強いように感じます。なんだったら、最初はこの記事も似たような雰囲気で書いていたのですが、あまりにもすべっていたので、慌てて書き直している最中です。

 特徴としては、前述の通り語り手である「私」の独特な腐った視点と、無駄の多い描写、そしてそれらをスラスラと読ませるスピード感のある語彙力がいえるでしょう。たぶん、森見登美彦先生はラップバトルとか強いと思います。
 以下に個人的に感動した2文を載せます。

 あっちで腹を立て、こっちで腹を立て、乱立するのは腹ばかりだ。そうして、四畳半に隈なく乱立する腹の隙間をくぐり抜けようとしたしたゴキブリに怒りの全てをぶつけたため、不運なゴキブリは木っ端微塵になった。

 文章としての完成度がめちゃくちゃ高いと思ったのですが、みなさんはいかがでしょうか。 
 腹を立てるという慣用句から、それを乱立させるという比喩表現をはさみ、さらにはそれをすり抜けるゴキブリという動きのイメージを明確にした上で、最後に怒りという慣用句の本質的な意味で回収するという。恐ろしい技です。笑ったところを真面目に解説しちゃいました。

 こんな文章がいたるところに乱立しているわけですから、まあ、爆笑必至です。

こんなやつおらんやろ

 って思うけれど、でも不思議とリアリティを感じてしまうキャラクターたちが登場します。それを生み出しているのは、もちろん作者の力量でもあるのですが、大学、それも京都の大学という舞台も助力していること間違いなしでしょう。
 在籍できるだけしている長老学部生とか、サークルに顔を出し続ける博士課程の先輩とか、やたら顔が広くて人の噂を握りまくっているやつとか。どこの大学にもいそうでいない、でも、居ても実際話しかけたり仲良くなったことはないそんな彼ら彼女ら。そんな人物たちのお話なものですから、どれだけありえないと思っても、ありえないと言い切れない不思議な説得力があります。

 あと、明石さんがかわいいです。

さいごに

 作中で幾度となく『海底二万海里』(記事)というジュール・ヴェルヌの小説が出てくるのですが、偶然にもこの夏に読んだ本だ!と嬉しくなりました。最終章のお話も「八十日間四畳半一周」でしたし。しかも、文通のシーンではスティーブンソンの『宝島』(記事)もお薦めされており、これも読んだ本だ!となりました。
 さらには、作中の舞台は京都の一地域なのですが、関西の出身である私にとっては何度も訪れたことのある場面ばかり。下鴨神社に至っては、森見登美彦先生の『有頂天家族』を読んだ後に「ここが、あの場所かあ」と思いながら行っていました。いわば聖地巡礼ですね。

 などという、ダラダラ書けば何も面白くない個人的な話を面白くしてくれる今作品。何か楽しい気持ちになりたいとき、頭の中の語り口調を変えたいとき、腐り人間を見て自分がまともだと思いたいとき、ぜひ読んでみてください。

それでは!


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