庭の人格を形作った100冊(100/100)

part4、つまりラストです。
前回↓

76. 西欧精神医学背景史 【新装版】
中井 久夫
背景史というだけあって、教養人というものについて考えさせられる博覧強記を思い知らされた。
 
77. 計算論的精神医学: 情報処理過程から読み解く精神障害
国里 愛彦,片平 健太郎,沖村 宰,山下 祐一
精神を行動と知覚と学習の連環の中でのアルゴリズムと計算原理のレベルから見ることで、精神疾患をそのパラメータの異常などととらえて、生物学的基盤と対応関係を調べることで実装の領域に踏み込み、操作的定義が付きまとう精神科領域の疾患概念について革命が起きることを強く予感させた間違いなく学部時代の青春の一冊。今はさすがにそこまで楽観的に見てはいないが、それでもこの分野の発展が人類の進歩につながることを願っている。
 
78. 圏外通信 2021
反-重力連盟
初めて主体的にかかわって出した同人誌。重力という視点を足掛かりに、仲間を得て創作の世界に一歩踏み出したと感じている。多分今後の人生の岐路になっていく。
 
79. 圏外通信 2021裏
反-重力連盟
自作『老い縋る未来』は自分の思想やアイディアを小説としてきっちりやり遂げられた初めての作品だと思う。巻頭言は自分の人生の話です。「庭を守ってください。自分の庭を」
 
80. 時間・自己・物語
信原 幸弘
時間的に広がった自己を記憶に基づく物語によって同一性をもってまとめ上げることについていつも考えていたら、そのものズバリな本だったこれを見つけ、自分の着眼点の立ち位置を再確認するとともに、新たな視点を得られた。
 
81. NHKにようこそ! (角川文庫)
滝本 竜彦
順風満帆だったはずの中学生の時にこれを読んでいたく感じるところがあったのは、何か現在への暗示のようにも思える。この文体とユーモア、救済として現れる少女、その嘘、および敵の不在というテーマは今も根深く自分の中にある。
 
82. STEP内科シリーズ
講義聴かないでこのシリーズ読んだ貯金だけで国家試験を何とかした。自分は羅列的な病みえより記述的なステップ派だったが、もう改定しないらしいので残念。
 
83. 感傷マゾ合同
かつて敗れていったツンデレ系サブヒロイン(wak)
TLの皆さんにはこの概念およびこの形に言語化されたことを嫌っている人がいるようだが、自分はこの言葉として形になったことで多くの気づきを得たし、一連の流れも好いている。実は一回寄稿させていただいたが、迷惑しかかけなかったように思うので申し訳ありません。
 
84. 計算論的神経科学: 脳の運動制御・感覚処理機構の理論的理解へ
田中 宏和
日本語で割と網羅的なこの分野の本が出たことは業界の潮流に大きく影響してくると思う。何か説明するとき、結構な割合でこの本の何章の話かを言うだけで基礎となっている研究を共有できるので本当に良い。『脳の計算理論』は著者の研究紹介が中心なので、こういった網羅的な本があるのは自分の方向性や引き出しづくりにもありがたい。
 
85. 記号創発ロボティクス 知能のメカニズム入門 (講談社選書メチエ)
谷口 忠大
連続的な外界の感覚から離散的な記号的理性による世界認識がどのように生まれてくるのか非常に示唆に富んでいたと思う。連続的世界を記号として扱えるとはどのようなことなのかというテーマは、時間と自己と物語の関係の次に個人的に重要視している。あるいは、その二つは同じなのかもしれない。
 
86. 統計的因果探索 (機械学習プロフェッショナルシリーズ)
清水 昌平
因果探索という介入なしのデータからベイジアンネットワークのリンクの有無を問うという一見不可能に思える挑戦が、非ガウス性によって可能になるということに衝撃を受けると同時に、これは神経科学の様々な現象の説明に応用されうると思っているので注目してます。
 
87. 脳のなかの自己と他者: 身体性・社会性の認知脳科学と哲学 (越境する認知科学)
嶋田 総太郎
自己を考えるうえで、他者と外界、およびその境界でありインターフェースである身体について非常に多くの知見を得た。特に、哲学的概念から始まり、それと対応する神経基盤へと進んでいく流れは、心的概念を言語化して科学者による検証の俎上に上がるよう認識させるうえでの哲学の重要性を改めて認識することとなった。
 
88. ベイズ統計の理論と方法
渡辺 澄夫
統計学とモデルについてきちんとした数学的基盤を養いたいと願うきっかけになったと思う。嘘、単に内容全然わからなかった。それもまた勉強。実はこの本から着想を得た研究を提案していた時期もあった。
 
89. Theoretical Neuroscience: Computational and Mathematical Modeling of Neural Systems (Computational Neuroscience Series)
Peter Dayan,Laurence F. Abbott
情報理論をベースにして、情報のコードという視点から神経科学をとらえなおす際の足場となった本。さすがにちょっと古くなってきている。
 
90. 新装改訂版 現代数理統計学
竹村 彰通
統計量の不偏性のような、実験屋の自分としてはあまり重視していなかったものの重要性を認識し、統計への自分の無知無理解を再確認した本。勉強します。
 
91. 数学に魅せられて、科学を見失う
ザビーネ・ホッセンフェルダー
美と真実の関係のなさ、あるいは科学が人間社会の営みであるということが、ある種の絶対的な基準を揺るがしつつあるということを明らかにされ、特に、すべての基盤となる科学であるはずの高エネルギー物理学の検証不可能性と説明可能性は、科学に対して絶望的な気分にさせられた。しかし、最後に記された前向きな提言の数々は、人間社会の営みとしての科学の再出発の希望になるかもしれないと思わせる力も見えた。
 
92. 精神神経症候群を読み解く: 精神科学と神経学のアートとサイエンス
DSMに載ってないがテーマの、奇妙な精神神経疾患について集めた本で、その常識が通用しない変容した例外たちは、改めて人間精神の本質と精妙な機構について多くの示唆を与えた。
 
93. チャイニーズ・タイプライター-漢字と技術の近代史 (単行本)
トーマス・S・マラニー
文化と社会だけでなく、技術と金属がいかに文字とその身体とのかかわりを規定したのかについて思いをはせた。出てくる実例がすべて興味深く、自分の思考の外の内容ばかりで、文字とそれを記述するとは何なのかを考えるうえで、一つ新しい翼を得た。
 
94. 自閉症スペクトラムの精神病理: 星をつぐ人たちのために
内海 健
当事者の自分としては人生の進研ゼミともいえるような、恐ろしく”わかってしまう”本。「これあたしだ……」となる症例が無限に挙げられ、それらを踏まえた鋭い考察が自閉所の精神病理を鮮やかに解き明かす。それは自分のこれまでの人生の審判でもある。同時に、我々が分析されるということは、その対比である定型発達のあまりにも異質な思考様式を初めて知る機会でもあった。本当にすごい。
 
95. 気分障害のハード・コア―「うつ」と「マニー」のゆくえ
内海 健
これも同じく当事者として、根源的喪失を自分が選び取ったことにすることで舞台に上がる近代的自我、すなわち「大人」の話と、青年期の延長と鬱の新しい形の話は、自分の人生を考えることとなった。また、専門家による精神病理的分析を読むことは、自身に対しても治療的効果があったように思える。あと精神科医って天才の名文のおかげで志望者を確保している気がした。
 
96. 地下世界をめぐる冒険——闇に隠された人類史
ウィル・ハント
この本の著者は人間の本質は穴を掘って地下に潜ろうとすることだと本気で信じているようで、あまりにも異常な思想と啓示、完全に違法行為も含む気合の入った調査(あるいはただ単に地下を愛するだけの)活動など、常軌を逸した人間の異様な情熱を知ることができる。奇書です。
 
97. リザバーコンピューティング:時系列パターン認識のための高速機械学習の理論とハードウェア
田中 剛平,中根 了昌,廣瀬 明
「計算機」ってそんな自由な発想で作れるのかと驚かされた本。脳と身体とデコードの関係やSFアイディアとして参照することがある。
 
98. 知識ゼロから学ぶソフトウェアテスト 【改訂版】
高橋 寿一
余りにも自分がやっていることが怖くなり始めたので、入門書として読んだ。バグを含む人間とプロダクトを管理するにあたって、工学が何をしているのか様々な概念を初めて知り、特にバグの遭遇間隔から現在のバグの多さを見積もる話は普通に興味深かった。普段やっていることについてはより怖くなりながら一切改善していない。
 
99. ガリンペイロ
国分 拓
ドキュメンタリー番組の時よりも、さらにしょうもない行き詰まりにフォーカスが当たっており、成していく人生の野望を持っていた学部生の頃には欲望とその失敗の物語に見えたガリンペイロたちが、敗北して絶望した現在からみると、その欲望すら本当はあきらめたのをごまかしている敗残者のように見えたのも、自分自身の変化と重ねて衝撃的だった。
 
100. 時間と自己 (中公新書 674)
木村 敏
分裂病の狂気を現在と未来の予感の区別のなさからまとめ上げ、それを人間の意識の本質的な時間論へとつなげた理論は、自分の中心的テーマである時間と自己に対してきわめて多くの示唆を与えた。ベルクソンはそのうち読みます。
 

100冊のリスト↓

ちなみにフォロワーさんが触発されたのか似た企画をやっているので、感謝を込めてここで紹介させていただきます。


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