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【感想文】『スイス・アーミー・マン』

貴方は友達の前で「おなら」が出来るだろうか?


何故そんな質問を、と思われるかもしれないが、今回の記事に大いに関係する問いであるのだ。

今回は『スイス・アーミー・マン』という映画について私の感想を書き連ねてみようと思う。

以前書いた記事だが手直しして上げなおしました。

あらすじ

無人島に漂流してしまい、助けも来ず一人孤独に過ごすハンクは絶望に陥り自殺を決意した。そんな時、無人島に一人の男の死体が流れ着いた。ハンクはその死体からおならの様に放出されるガスに目をつけ、死体に乗って無人島からの脱出を試みる。流れ着いた先でハンクはその死体と共に故郷を目指して歩き続ける。


この映画、かなり設定がぶっ飛んでいる。開始15分、自殺を試みる男とおならをする死体が出てくる。なんだこれは。現実と非現実が混在している。

しかしこの映画、冒頭だけでも中々ぶっ飛んでいるのにこの後更なる展開を迎えるのだ。

ハンクと共に故郷を目指す、ダニエル・ラドクリフが演じる死体はスイスアーミーナイフの様に万能だ。劇中ではおならで海を渡り、体内に水を貯めることで水筒の役割を果たす。さらに、この死体、喋るのだ。劇中で自ら、メニーと名乗る。凄い。


ここまで読むと、一見コメディに振った作品かと思われるが、ハンクとメニーという、生命体として対照的な2人が友情を育みながら前に進んでいく様を通して「生きる」ということを考えさせられる作品である。

また、作中では度々「愛」について語られる。恋愛的な意味であったり、家族や友人など親密な人々に向けたものだったり。愛されること、愛することを知らない2人が、旅の途中で愛について知る様は、込み上げてくるものがある。


更にこの作品、映像と音楽がとにかく美しい。

特に、森の中のバスのシーンがあるのだが、そこでのハンクが木漏れ日を感じさせるような光の演出や音楽が相まって儚く、美しく見えた。個人的にこのシーンはかなりお気に入りである。

また、ハンクがよく音楽を口ずさむのだがそれも良い。感化されたメニーもハンクのためにと歌を作る。そこにハンクもメロディを乗せて2人の歌になる。2人の友情の証の様でとても好きだ。


この作品はかなり賛否が分かれるものである。生を語るにあたってやはり性の話が出てくるし、人によってはグロテスクに感じるシーンもあると思う。世界観や、ラストも人を選ぶかもしれない。Google検索のサジェストに「スイスアーミーマン 気持ち悪い」なんて出てくる程だ。

私はこの賛否両論の評価は正にこの映画に通じる所があるのではないかと思った。

友達の前でおならをするのが許せるように、「こう言う映画もアリじゃない、死体だって動くよ」なんてこの映画の奇特さを受け入れられるのか、なんて。



以下、ネタバレ含む



物語の終盤では、人目を気にしておならも我慢しなくてはいけないのに、何故故郷に戻りたがるのかをメニーがハンクに問うシーンがある。このメニーの問いに、私は今まで何となく享受してきた生きることの窮屈さに気付かされて少し寂しくなってしまった。

しかし、終盤のメニーの

『1人が「それでも平気だ」と言えばみんな歌って踊りオナラをする。寂しくなくなるさ』

この台詞になんだか救われたような気持ちになったのだ。死体なのに良いこと言うじゃないか。


そういえば、終盤でメニーの死因が「橋から飛び降りた死体だ」と軽く言及されていたが、自殺なのだろうか。もしそうなら、自殺した人間が、曲がりなりにも自殺しようとする人間の命を救うなんて。なんて出来すぎた話だろうか。何故だか、切なくて胸の奥がキュッと締め付けられる思いである。



長くなったが、良い映画に出会えたと思う。

とても美しく、そしてとても優しい物語だった。


さて、貴方にはおならをしても許してくれる人はいるだろうか?



原題:Swiss Army Man



サントラあるのとても嬉しい。


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