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【表現評論】ストライク・ザ・ブラッド 聖者の右腕編【論破される主人公】

この記事には重大な作品のネタバレが含まれています。

⚫︎登場人物の動機

物語には対立が存在しますよね。で、何か動機があって対立するわけですよ。崇高な理由。低俗な理由。どちらであっても、原因なき対立はありません。物語においてその動機の質と妥当性は、主人公サイドと敵サイドを分かつ決定的な要因と言えます。読者が寄って立つ側は、感情移入する方は、その妥当性が高い方になるでしょう。大したこともない理由に我々は感情移入しませんし。妥当性は普通主人公サイドにあるわけですが、しかし、今回取り上げるストライクザブラッド(原作はライトノベル。アニメ化されている)はその前提を覆すものでした。特に聖者の右腕編は、確実に読み取れる情報のみで考えると、敵サイドに理があるとしか言えない作品です。

⚫︎ストライク・ザ・ブラッドについて

ごく簡単に内容を説明すると、主人公が暮らす魔術で作られた人工島(東京の南方300kmほどに浮かぶ島)は、魔族が同居する島で、敵サイドの信仰上、排除すべき対象の溜まり場になっています。それだけならまだしも、人工島は、その創設の際、巨大な構造を維持するために、敵サイドの聖人の右腕(聖遺物)を盗み出して、贄として捧げているという経緯がありました。

物語は、40年以上もこの状態が秘密裏に続いている事実に、いい加減キレ散らかした敵サイドの人物が、実力行使で聖遺物を取り返しに来るという流れになっています。で、聖遺物を引き抜かれると島が崩壊するため、主人公とヒロインはそれを阻止しようとするというのが、「聖者の右腕編」の内容である。

主人公とかヒロインについては本題ではないので、特に説明はしません。主人公は吸血鬼の真祖で、ヒロインはなんかすげー機関のすげー人みたいな感じです。アニメではひたすらスカートの中身を披露している人です。

このように敵側が主人公でもおかしくなさそうな設定ですが、設定で見た通りに主人公サイドは悉く敵に論破されまくっています。以下、論破の内容をまとめたものをいくつか挙げてみます。

●論破その1

主人公:右腕を引き抜いて島が崩壊してもいいのか?
敵:元々右腕を盗んだお前らが悪い。全員で罪を贖え

右腕を引き抜くと島が崩壊し、島に住んでる(右腕のことなど知らない無関係な)数十万人が犠牲になるわけです。主人公はそれを訴えたが、敵はこの街が贖うべき罪であると主張します。主人公はそれ以上言い返すことが出来ませんでした。

●論破その2

ヒロイン:贄の使用は現在条約で禁止されている。今の技術なら贄を使わない事も可能なはずだから、正統なやり方で返還を訴えるべき。
敵:どこに訴えるんだ。この国の裁判所か? 無理に決まっている。返還を訴えたとして、その間、聖遺物が踏みにじられているのを黙って見ていろとでも言うのか。お前、自分の肉親が現在進行形で踏みにじられていても同じことを言えるのか?

今度ヒロインが主張した言葉で卯sが、これも即座に反論されています。そもそも人工島側が何もなしに過去の罪を自白をするはずがないので、ヒロインの主張にあまり説得力を感じません。案の定、言い返すことは出来ませんでした。

●論破その3

目的のために人工生命を作り出し、使い捨てようとした敵に対し

ヒロイン:あなたの目的のためだけに命を道具のように扱うな。
敵:魔族に対抗するため、不要な赤子を金で買い取って技をたたき込み、戦場に送り込んでいるお前達(ヒロインの所属機関を指している)に言われたくはない。そもそも俺は道具として作った物を道具として使ってるだけだ。祝福されて生まれてきた人間そのものを、戦場の道具として扱っているのは、俺じゃなくてお前達の方だ。

この場面でも、ヒロインは何も言い返せない状態でした。所属機関について特に語られないので、この書籍だけの情報では、敵の言葉が遠からずだと判断するしかないですね。ぐうの音も出ない状態です。

⚫︎論破され、相手を殴り飛ばして物語は終了

このように主人公サイドが論破される一方なので、正義は相手にあるのかもしれないと、主人公が考えている描写がありますが、とは言っても、敵の言葉に従えば島の数十万人が死ぬので、当然引き下がるわけにはいかないところです。

で、グダグダと論争しているうちに、話し合いなんて無駄なんだよ、文句あるなら殴り合おうや、と敵サイドの方から言い出し、主人公が敵をしばき倒して争いは終了しました。

その後、敵が逮捕され、事が大きくなり、各国に実態が知れ渡り、島に対して非難囂々となり、2年以内に聖遺物が返還されることになったというオチです。結果的に主人公サイドの行動が最善に近い形となっている気はしますが、論破自体は全く無効になってないですよね。所詮結果論。

この作品、敵の人物が完成されていて、主人公サイドの未熟さが際立つ内容になっているんですが、それがストライクザブラッドの魅力でもあります。子どもの説得に動揺する大人なんて見たくないですしね。かといって、大人の言い分をあっさり聞く子どもを見たくもないということで、その折衷案をとったような物語です。

⚫︎論破がどうした

主人公とヒロインが論破される理由ですけども、彼らは非常に頭が良いんですね。あんまりアホなこともやらかさないし、論理を理解して話し合うことができるような二人です。でもそれがダメなんですよね。頭がいいから相手の論理に巻き込まれ、反論できなくなるわぇです。物わかりがいいから、相手に正義があるのかもしれないと思う。うるせえ黙れ馬鹿、と言えない。

大体、何かを論破するための論理なんか、多少の経験があれば容易に組み立てることができるわけですよ。実は討論も論理も大した意味はありません。Aという立場であれ、Bという立場であれ、相手の論理を崩すことは出来ます。それでも経験がない彼らは、論理に対抗できないわけです。対抗するには拳のやり取りになってしまう。だが、その仕方なさがいい。それが聖者の右腕編の魅力です。

論理バトルで勝敗を決めるなんか、限定された箱庭の中でのお遊びにすぎないんですよ。利害関係が大きく衝突するときは、討論も論破も無意味、殴り合いで勝った方が勝利。ということを教えてくれ作品です

お前の理屈はわかった。お前の正義もわかった。だがお前は認められねえ。

それが主人公の結論でした。



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