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【表現評論】涼宮ハルヒの憂鬱(原作) コアレビュー その2 第1章【再読】

●涼宮ハルヒ、その他作品、様々なネタバレが含まれます。

●前回の記事

●学区内の県立高校

キョン君の進学先は学区内の県立高校です。入学したてのホヤホヤ高校1年生。何県とは書いてないですが、少なくとも舞台が都道府でないことはわかる。いや、もちろん舞台になった場所がどこかは知ってるんだけど、作中で出てきてないので、知らないということにして進めます。学区内と言っているので、住所で受けられる高校が変わるタイプの奴ですかね。2003年当時にそんな制度を敷いていた地区を調べれば、ある程度は場所が絞られそうです。えらい山の上にあるということだけど、俺の高校なんて歩いて登れるレベルじゃなかったからな。キョン君より上だよ。なんの勝負だ。

男はブレザー、女はセーラー服の学校のようですが、そんなに変な組み合わせですかね。僕の高校は逆でした。男は学ラン、女はブレザー。っぱ男は学ランよ。今どきのアニメで学ラン着てる人いるんでしょうか。どいつもこいつもブレザーばっかり着やがってよぉ。スーツ着てる社会人じゃないんだから。今どきの社会人もスーツのイメージはないけど。

●自己紹介

最初の顔合わせてキョン君は無難に自己紹介を終えています。用意していた最低限のセリフで自己紹介を終わらせるあたり、目立ってめんどくさいことになりたくねえ感が伝わってくる。無味乾燥のキョンの自己紹介の後に続くのが、本書の象徴的なシーンであるハルヒの自己紹介です。

「東中学出身、涼宮ハルヒ」

涼宮ハルヒの憂鬱 P.11

ここまでは普通のセリフ。ちなみに涼宮という苗字はほとんど存在しないと聞いたことがあります。某作品のキャラの名前をもじったという噂を耳にしたこともありますが、そこまで深掘りするところではない。しかしこのカタカナでハルヒという名前は、どことなく奇想天外な印象がある。名前から感じるワクワク感が凄い。特に「ヒ」というカタカナからは解放感とハチャメチャ感を感じますね。仮にタイトルが『涼宮春日の憂鬱』だったら売り上げ激減だよ。ハルヒだから売れた説はある。

「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」

涼宮ハルヒの憂鬱 P.11

サンタクロースと並んで有名なセリフ。ギャグでもなんでもなく本人は大真面目です。読者をハルヒという登場人物に一瞬で引き込んでしまうがパワーがあるな。このセリフも宇宙人未来人超能力者は出てくるけど異世界人だけ出てこないとか、実はキョン君異世界人説とか色々考察されています。まあその辺はどうでもいいよ(どうでもよくはない)。自分が気になるのは敬語とぶっきらぼうな言葉が入り混じっているところです。

「ただの人間には興味ありません」は敬語なので、その後は「私のところに来てください」となるのが普通の感覚だと思いますが、「あたしのところに来なさい」と続きます。冒頭からぶっきらぼうにいくなら「ただの人間には興味ないわ」と来て「あたしのところに来なさい」が続きそうです。なぜこんなに敬語とぶっきらぼうな言葉が入り混じった不自然な言葉になってしまったのか。まあ作者に大した意図はないのかもしれないけど、というか多分ないけど、あえて深読みすると、ハルヒの常識人の部分と変人の部分が入り混じった結果なんじゃないかと思いましたね。自己紹介なので最初は敬語で行こうとしたけど、段々と高揚してきてぶっきらぼうな言葉遣いになっていったんじゃないでしょうか。いや、これは流石に考えすぎか。脚本の人そこまで考えてないと思うよ案件。

でもこれは敬語+敬語でも、ぶっきらぼう+ぶっきらぼうでも印象的なセリフにならないんですよね。

ぶっきらぼう+ぶっきらぼう
「ただの人間には興味ないわ。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」

敬語+敬語
「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、私のところに来てください。以上」

どっちもダメでしょこれは。やはり敬語+ぶっきらぼうなセリフになっているのでパワーがある。何らかの意図を持っていたかはわかりませんが、初っ端から象徴的で力のあるセリフにするために、何回も何回も練ったんじゃないかなぁ。このセリフは。あと「あたし」っていう一人称がいいよね。セリフと合わせてハルヒの傍若無人っぷりが伝わってくる。

●キョン視点から見たハルヒ

やたらとヒロインを詳しく描写するのはラノベの常な気がしますが、涼宮ハルヒの憂鬱もその作法に則っています。

 長くて真っ直ぐな黒い髪にカチューシャをつけて、クラス全員の視線を傲然と受け止める顔はこの上なく整った目鼻立ち、意志の強そうな大きくて黒い目を異常に長いまつげが縁取り、薄桃色の唇を固く引き結んだ女。
 ハルヒの白い喉がやけにまばゆかったのを覚えている。えらい美人がそこにいた。

涼宮ハルヒの憂鬱 P.11

容姿の描写で特に気になるポイントはありませんが、とにかくキョン視点ではえらい美人だったことはわかります。谷口もツラがいいと言っていたので、客観的にも美人なんでしょうが、それを差し置いても、見た目は完全にキョン君の好みの女なのではという気がする。「えらい」美人(キョン視点)だからね。一目惚れ説まであるな。

あえて言えば喉の描写は滅多に見ないですね。白い喉とは一体何を表しているのか。それだけ顎を上げて喋っていたということなのか。シャフ度的な。挿絵はそんな感じじゃないけど。

●その後のハルヒの行動

ハルヒは自己紹介の翌日以降、しばらくはおとなしくしていたという説明が入っています。これなんでですかね。とりあえず最初は変なことが起きないか観察してたということなのか。

そして数日後にキョンはハルヒに話しかけます。ファーストコンタクト。話しかけた理由は美人とお近づきになりたかったから。そんだけの理由でこんな頭おかしそうな人間に話しかけるかな。実際キョン以外の男性陣は全く声をかけた形跡がない。同じ中学出身の人間はもう素性がバレているから話しかけないだろうけど、他の男性陣も声をかけている形跡は皆無です。声をかけているのは委員長の朝倉涼子と見かねた女子陣だけ。考えられるとすればキョンにとってハルヒがあまりに絶世の美人だったか、もしくは非日常への憧憬が再燃していたのか、あるいはどっちもじゃないですかね。単に美人とお近づきになりたいだけじゃ薄い。多分どっちもでしょう。根拠? ないよそんなもん。コアレビューに根拠はいらない。主観で語ると前置きしたのはそういうことです。

で、ファーストコンタクトはめちゃくちゃに終わります。普通の人間がしょうもねえことで話しかけんなと。この時点で既にキョンはハルヒに惚れてる可能性もありそうだけど、流石に逆はなさそう。クラスのお節介女子が話しかけても、なしのつぶて。誰が話しかけても全てバッドコミュニケーションで終わります。キョンも流石にこいつは頭がおかしいと言ってのける。主人公にあたおか認定されるヒロイン。誰とも会話が成り立たないことで、読者にもそのおかしさは十分に伝わりました。

●ハルヒの過去

同じ東中出身の谷口からハルヒの過去が語られます。わかるのは中学時代から頭がおかしかったことと、校庭に謎の巨大落書きを作った事件があったことです。この事件は後々の伏線なわけですが、今回は除外。あとはツラがよくてモテること。告白されたら断らないので、誰とでも付き合う女だったこと。うわぁ。ヒロインに元カレがいっぱいだぁ。しかし長くて1週間、最短で5分で破局するとか。普通の人間の相手している暇はないとかでフラれるらしい。この調子で1週間持ったやつ誰だよ。ハルヒより貴重な人材じゃないのか。連れてきてくれ。彼女がいたという実績だけ欲しければ最適な人材かもしれない。5分で破局したとしても。相手を選ばないという意味で、実は聖女なのでは。

しかし誰であろうがとりあえず相手するってことは、もしかしたらこの世界に面白い男(人間)がいるかもしれないという希望は持っていたってことですかね。その希望も今や昔という感じなんでしょうけど。

●ヒロインのキャラランク

涼宮ハルヒの憂鬱では谷口の女評価が出てきます。全員やって欲しいんだけど、朝倉と長門しか言及してないよね。クラス委員の朝倉涼子はAA+、見た目も神で性格も良さそうという評価。これにはキョン君も同意してます。ちなみに長門はA-です。朝倉涼子は1年の女子ではベスト3に入るらしい。同じくらいの人が他にふたりもいるわけ? 谷口君の選球眼を信頼すると、作中の1年生で1番ルックスがいいのは朝倉涼子で、その次に続くのが長門とハルヒっぽい。作中の描写を見ると、一番美人だと思われるのはみくるだと思うけど、谷口は1年生の話しかしないので、みくるの話が出てこない。

谷口評と作中の描写を総合すると、登場人物4キャラのルックスは下記の通りだと思われます。

みくる>朝倉>長門≧ハルヒ

人気投票したら真逆になりそう。

キョン君は最後に彼女にするならハルヒより朝倉の方がいいと内心で言ってますが、これは嘘だな。なら朝倉に声をかければいいものを、わざわざハルヒに声をかけるんだから。こういう優等生はキョンの好みではなさそう。正体はやべーやつだけども。

●ハルヒの奇怪な行動

その1。髪型が毎日変わる。結び目が月曜は0、火曜は1(ポニーテール)、水曜日は2(ツインテール)と徐々に増えていく。その2。男がいる前でも平然と着替える。その3。全てのクラブに仮入部する。というような1ヶ月を経て、見事にハルヒは学校の有名人になったとか。

これら全てキョンから語られる内容ですが、いやいや、おかしいのはお前だよとキョン君に突っ込みたい。どんだけ毎日ハルヒのことを見てんのよ。もう恋だろ。こんなもん。ストーカーか。キョン君によるとハルヒはグラマーらしい。バッチリ見てんじゃん。ハルヒがみくるの胸を揉みしだいたてる時、あたしより大きいって言ってたので、そのあたしもそれなりに大きいことはわかる。

1ヶ月たったあたりでキョン君は再びハルヒに声をかけます。魔が刺したと言ってるけど、こんだけ監視してて魔が刺したもないでしょ。話したいから話したんだよ。愛ですよ愛。曜日で髪型を変えるという、髪型の法則について気づいたことを話していますが、キョン君に自覚があるかはともかく、ハルヒの気を引くための話題としては、これ以上ないものじゃないですかね。実際にこの時はぎりぎり会話が成り立っていますし、会話が成り立ったってことは、少しはキョンのことを認めたってことだし。キョン君は見ようによっては一生ハルヒの気を引くために努力している男にも見える。自覚的かどうかはともかく。

ここの会話で印象的なセリフが出てきます。

「あたし、あんたにどこかで会ったことがある? ずっと前に」

涼宮ハルヒの憂鬱 P.29

後の作品を知っていれば意味がわかるセリフですが、この時点ではなんとも判断しようがない。キョン君は「いいや」と答えています。多分、原稿を最初に応募した時点では、こんなセリフなかったんじゃないか。後々の作品につなげるために入れたセリフなので、この時点で意味があるとは考えない方がよさそうです。

●ハルヒの断髪

キョン君に髪型の変化を指摘された翌日、ハルヒは髪をバッサリ切ってしまいました。なぜ? ホワイ? めちゃくちゃ似合っていたのに、というキョン君評価。とりあえずハルヒの容姿は褒める男。理由は全く不明です。これはガチでよくわからない。根拠のない理由を述べることすら出来なさそう。その辺の男に気付かれるくらいのしょうもない習慣だったとでも考えたのか。伸びすぎて鬱陶しくなったのか。キョンに指摘されて逆ギレしたのか。全てが謎です。これだけはよくわからない。

●ハルヒと話すのが日課に

ホームルームの前のわずかな時間にハルヒと話すのが日課になっているキョン君。他の生徒からするとハルヒと会話が成り立つだけでも驚きのようです。髪型の変化に気づいたということで、こいつは多少他のやつとは違うかもリストに入ったのか。もしかすると髪型の変化に気づくやつを待っていたのか。で、用が済んだから切ったのか。謎。少しでも当たり前の会話をすると返事が返ってこないので、話題には毎回気を遣っているとか。惚れた女の機嫌を取る構図。ハルヒ側の感情は謎だけど、他の人間とは違うリストに入ったことだけは間違いなさそう。

付き合った男を全部振ったことが話題になった時、ハルヒが意外なことを言っています。

「あと告白がほとんど電話だったのは何なの、あれ。そういう大事なことは面と向かって言いなさいよ!」

涼宮ハルヒの憂鬱 P.34

なぜこんなところだけ古典的になるのか。常識外れのあたおかキャラとしてパーソナリティを確立しているのに、告白のことになるとやけに古典的昭和親父みたいなことを言い出します。面と向かって告白して欲しいってこと? 実は乙女なのか? ありえなくもない。白雪姫とかスリーピングビューティーとか言ってるくらいだし。言ってるのはハルヒじゃないけど。

とにかく面白いやつ(宇宙人的な)はいないのか、という話題に尽きているハルヒ。ここまでくると面白いとはそんなに重要なことなのか、と思わなくもない。面白いに脳が支配されて逆に面白くないという状態に陥っている。キョン君も非日常への憧れを燃やし続ける男なので、その点はハルヒに同意しているものの、ありえねえだろと冷めた面も見せます。この二人似た者同士だからね。ハルヒも内心ありえねえだろと思いながら全部やってるという。

クラスメイトからなぜキョンだけがハルヒと会話を成立させているのか不思議がられるシーンがあります。これはなんでしょうね。髪型の変化に気づいたあたりで、似たもの同士(非日常を求める常識人)だということを直観しているからじゃないでしょうか。そういう意味では、谷口が同じように髪型の指摘をしてもダメだな。似たもの同士ではないから。

●部活を作ろう

どの部活に入ってもま〜じでつまんねえ、なんで面白い部活がないのか、という流れの中で出てきたセリフ。

「結局のところ、人間はそこにあるもので満足しなければならないのさ。言うなれば、それを出来ない人間が、発明やら発見やらをして文明を発達させてきたんだ。空を飛びたいと思ったから飛行機を作ったし、楽に移動したいと考えたから車や列車を産み出したんだ。でもそれは一部の人間の才覚や発想によって初めて生じたものなんだよ。天才が、それを可能にしたわけだ。凡人たる我々は、人生を凡庸に過ごすのが一番であってだな。未分不相応な冒険心なんか出さないほうが、」
「うるさい」

涼宮ハルヒの憂鬱 P.42 P.43

これはもうハルヒは1000回は考えたことじゃないですかね。今更言われても、こっちはそんなこと1000回は考えてんだよと。そら「うるさい」としか言いようがないですわ。いいよね。このシンプルな「うるさい」。うるせえやつを黙らせるのに最高のセリフです。

で、結局ハルヒは自分で部活を作ることを思い立ちます。ここで1章は終わり。ハルヒのパーソナリティが余すところなく描写されてました。この章だけでキョンとハルヒがどんな人間なのかがよくわかる。物語の導入としてはこれ以上のものはないじゃないでしょうか。

●長すぎない?

1章だけでどんだけ文章書いてんの? という話ですが、コアレビューとは毎回こういうものです。ぜひ最後までお付き合いください。最後まで書けるのか。この調子で。

参考文献
『涼宮ハルヒの憂鬱』(谷川流 2003 角川スニーカー文庫)

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