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データサイエンティスト不足の実際のところ

こんにちは。弊社はデータ分析コンペティションやデータサイエンティストに特化した求人メディア“Nishika Connect”というサービスを運営しています。

日本全体が人口減少・労働力の減少の時代に突入していることは言わずもがなですが、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が多くの企業にとって一丁目一番地の経営課題となっていることもあり、IT関連人材の不足は特に重要な課題となっています。弊社の主なユーザーであるデータサイエンティストについても、様々なところで「不足している」という声を耳にします

一方で、データサイエンティストという職種については、公的な定義があるわけではないこともあり、実際の人数や不足感については曖昧な部分も多いです。そこで、本記事では、複数の調査結果を見ながら、現在日本には何人くらいのデータサイエンティストが居て、どれくらい不足しているのかという実態についてまとめてみたいと思います。

そもそもデータサイエンティストとは?

データサイエンティストという言葉はそれほど古いものではありません。“データを分析してビジネスに有用な示唆を抽出する”という仕事自体は昔からありますが、2000年代にはデータアナリスト等の呼ばれ方の方が一般的だったと思います。

2012年にHarvard Business Reviewにて「21世紀でもっともセクシーな職業である」として特集した記事が一つの契機にはなり、データサイエンティストという呼ばれ方が世界的に定着していき、その役割もかつてのデータアナリストという職種からイメージするような、データの収集・分析・活用といった側面だけではなく機械学習モデルの開発なども含めたものとして拡大していきました。国内では、2013年に一般社団法人であるデータサイエンティスト協会が設立されたこともデータサイエンティストの認知を拡大させました。

2013年の協会設立辺りからじわじわと浸透

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出所)Google Trends(”データサイエンティスト”で検索した結果)

Google Trendsで“データサイエンティスト”というキーワードの直近10年間における推移を見ると、協会設立時の2013年の7月がピークになっています。その後、ディープラーニングのブレークスルーを契機として2016年頃からじわじわと上昇傾向にあります。AIの社会実装が急激に進展していることもあり、数学や統計学の知識だけではなく、機械学習などの数理モデルも使いこなしてAI開発・活用を促進する人材としてデータサイエンティストへの注目が年々高まっています

データサイエンティスト協会の定義では、データサイエンティストとは「データサイエンス力、データエンジニアリング力をベースにデータから価値を創出し、ビジネス課題に答えを出すプロフェッショナル」とされています。そのために必要とされるスキルセットとして、ビジネス力、データサイエンス力、データエンジニアリング力の3つのスキルセットが提示されています。以降、本記事においてもこの定義を前提として記述したいと思います。

DS定義

現在のデータサイエンティスト数は6.3万人~9.4万人

データサイエンティストの不足を考える上で、まずは現在国内でデータサイエンティストが何万人居るのかを見ていきたいと思います。データサイエンティストという職種については、総務省の「日本標準職業分類」などの公的な分類では規定されていないため統計データはありません。そのため、複数の調査レポートやアンケート結果等から数字を推計したいと思います。

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まず、矢野経済研究所の「データ分析関連人材規模に関する調査」では、国内のデータ分析関連人材を2019年度の見込で63,400人と推計しています。このレポートの中では、データ分析人材を①分析コンサルタント、②データサイエンティスト、③分析アーキテクト、④プロジェクトマネージャーの4人材と定義しています。4つの区分けの中にデータサイエンティストが小項目として入っていますが、本稿の定義と照らし合わせると、データ分析人材をデータサイエンティストと捉えて問題ないと思います。

注目点としては増加率の高さです。2019年に6.3万人だった規模が3年後の2022年には11.6万人と倍近い人数まで増加すると予測されています。背景にはAIやIoTなどに限らず分野を超えてデータ分析案件が増加している点が挙げられています。

AI人材みずほ

経済産業省の「IT人材受給に関する調査」では「AI人材」という形で供給数が試算されています。このレポートによると、「AI人材の供給数」は、2018年時点で10,696人、2030年には119,547人と予測されています。

AI人材というくくりのため推計対象が本稿の定義よりも狭義にはなりますが、それでも2020年時点では供給数が38,408人と推計されています。成長率の観点では2020年時点で2018年比の3倍以上になっているため、この調査でも高い増加率が予測されている点は前述の調査と一致しています。

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データサイエンティスト協会が昨年11月に行った「データサイエンティストの採用に関するアンケート調査結果」からも供給数を推計したいと思います。こちらの調査では、「データサイエンティストが1人以上いる」会社が全体の29%という調査結果が出ています。

調査対象である「従業員数が30名以上の国内企業」は、現在日本国内には約32.5万社あるため、各社のデータサイエンティスト人数を1人と仮定すると、国内のデータサイエンティスト人口は9.4万人程度と計算できます。

実際は、調査の中でもデータサイエンティストが10人以上いる会社が30%程度あるため、1人とした仮定は固めの見方になると思いますが、アンケート回答企業はデータサイエンスに親和性の高い企業が含まれている可能性もあるので、ここでは所属人数を1人として推計します。ちなみに上記の所属人数の加重平均値を取るとデータサイエンティストが所属している企業では、平均して一社辺り18人のデータサイエンティストが働いていることになります。

定義による部分はありますが、以上3つの調査レポート結果をまとめると、現状国内のデータサイエンティスト数は6.3万人~9.4万人程度であり、今後も引き続き大きく増加していくと言えます。次に、需要サイドを見ていきます。

データサイエンティストは現状で3.4万人~5.5万人不足

AI人材需給ギャップ

データサイエンティストの需要人数についても、前述の「IT人材受給に関する調査」が推計しています。需給ギャップについても推計しており、2018年時点で総需要が44,212人、不足数(=需給ギャップ)が33,516人、2020年時点では総需要が83,265人、不足数が44,857人となっています。

供給数と同じく、需要総数も大きく増加していきますが、需要は供給の増加率を上回っており、需給ギャップはどんどん拡大していきます。結果的に足元の2020年時点でAI人材(≒データサイエンティスト)の不足数が約4.5万人であるのに対して、2025年には9.7万人、2030年時点で14.5万人まで不足数が拡大します。DXの進展や、AI・IoTの社会実装が進むにつれて、今後AI人材・データサイエンティストの不足が一層深刻になっていくことが分かります。

DS協会調査

前述のデータサイエンティスト協会による「データサイエンティストの採用に関するアンケート調査結果」では、目標としていたデータサイエンティストを確保できたかという調査も行っており、直近1年間にデータサイエンティストを採用予定だった企業の約58%が「目標としていた人数を確保できなかった」と回答しています。

供給数の推計と同じ様に、30名以上の国内企業数約32.5万社をベースとして、各社の不足人数を1人と仮定して計算すると不足人数(需給ギャップ)はおよそ5.5万人となり、総需要は14.9万人となります。

以上より、2020年現在における国内のデータサイエンティストの不足数は3.4万人~5.5万人程度と分かりました。データサイエンティスト人材の不足は、日本企業のDX推進やAI・IoTなどの技術を活用したサービス付加価値の向上・業務効率化による生産性の向上といった課題に対する大きな問題となっていると言えます。

今後この不足数が更に拡大していくことから、大学・大学院などにおける専門的な教育システムや企業の研修システムによる育成だけではなく、外国人データサイエンティストの確保も必要になってきます。同時に、労働環境の整備により副業や業務委託などを通じた労働力の確保やその流動性を高める仕組みも重要になってくるでしょう。

最後に宣伝になってしまいますが、我々Nishikaはデータサイエンスの力により企業のビジネス課題を解決するというミッションの実現に向けて、データサイエンティストの求人情報に特化した求人メディア“Nishika Connect”を運営しています。データサイエンティストの採用に課題を感じている方がいたらこちらからお気軽にお問い合わせください。


参考文献
・経済産業省委託事業、「IT 人材需給に関する調査」、2019年3月
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf
・一般社団法人 データサイエンティスト協会、「データサイエンティストの採用に関するアンケート調査結果」、2019年11月
https://www.datascientist.or.jp/common/docs/c-research_2019.pdf
・一般社団法人 データサイエンティスト協会、「データサイエンティスト協会、データサイエンティストのミッション、スキルセット、定義、スキルレベルを発表」、2014年12月
http://www.datascientist.or.jp/files/news/2014-12-10.pdf
・株式会社矢野経済研究所、「データ分析関連人材規模に関する調査を実施(2019年)」、2019年7月
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2180

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