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小説ノック1《百人一首》

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百人一首を題に短い小説を書きます。毎週日曜更新(19時目安)、2500以上3000未満。ワンシーン描写の練習に。続きものじゃないよ。 ※キャラクターと設定は《るり湊観光案内》から…
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記事一覧

みをつくしても逢はむとぞ思ふ【小説ノック20】

 嘉代先輩のこと、好きかもしれない。大学のコピー室でレポートを印刷しながら、ふと考えた。…

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逢はでこの世を過ぐしてよとや【小説ノック19】

 時々、賭けをする。誰かとじゃなくて自分と。例えば、降水確率が五十パーセントの時に雨に降…

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夢の通ひ路人めよくらむ【小説ノック 18】

 ソフトウェアの保存マークを押す。これで、東洋思想史のレポートがやっと完成だ。呻きながら…

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からくれなゐに水くくるとは【小説ノック17】

 本屋に寄った帰り、ふと通り道にあるデパートのディスプレイを眺めた。マネキンの横に貼られ…

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まつとし聞かば今帰り来む【小説ノック16】

 手土産を持って祖母の家を訪ねると、玄関の前で叔母さんが立ち尽くしていた。いつものように…

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わが衣手に雪は降りつつ【小説ノック 15】

 菜花だ。スーパーに入ってすぐの青菜コーナー、小松菜やチンゲン菜の側にちんまりと菜花が置…

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乱れそめにしわれならなくに【小説ノック14】

恋なのか何なのか。 ***  今日、雪の友達が家に来ることになっている。昨日の仕事中からそわそわして、お客さんにも指摘されるくらいだった。訳を話したら「友達くらいで大袈裟だよ」なんて言われたけど、雪が友達を連れてくるなんて初めてのことだ。だから、嬉しいを通り越して不安になってくる。  日曜日の今日、昼ご飯を食べた雪は、駅までその友達を迎えに行った。そろそろ戻ってくるはずだけど、連れてくるのはどんな子だろうか。雪は大人しいタイプだから、同じくらい大人しい子だろうか。それとも

恋ぞつもりて淵となりぬる【小説ノック13】

 “カフェきなり”には、数回行ったことがある。二年くらい前に駅の近くにできた、お洒落で今…

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をとめの姿しばしとどめむ【小説ノック12】

 同じクラスの鴫沢くんは変わってる。誰とでも仲良くできるのに、それでいて友達は少ない。休…

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人には告げよ海人の釣舟【小説ノック11】

また駅。 *** 「いいって、大丈夫だって」 「でも」 「いいって」  宇留中央駅のロータ…

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知るも知らぬも逢坂の関【小説ノック10】

現代の関って、駅? *** 「はい、着いたよ」 「どーも」  母親の車から降りて、後部座席…

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わが身世にふるながめせしまに【小説ノック9】

歳をとったあなたと。 ***  風呂から上がって寝室に入ると、真知子さんが鏡台の前に正座…

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世をうぢ山と人はいふなり【小説ノック8】

おうちとは。 ***  最初に、清志朗と暮らす予定の住所を母親に告げた時、「やだ、田舎じ…

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三笠の山に出でし月かも【小説ノック7】

ふるさとは。 ***  東京には本当の空がないと言ったのは……誰だったっけ。まだ夏にもなっていないのにひどく暑い夕方、大学から帰る途中で考えた。俺が育った町もそれほど田舎ではなかったけど、やはり東京には劣る。あくまで、都市という意味では。  サークルの交流会だったか、懇親会だったか。とにかく、そういった類いの会合の帰り、俺はふと空を見上げている。誰だか知らないが、東京の空は少なくとも狭いよ、と内心で語りかけた。  東京は町として意外と古い。今俺が歩いている大学から最寄り駅