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女性専用車両【リプレイ】 【前編】

↓ 直接お話はつながっていませんが、良ければ姉妹編はこちら。




 ホームで見かけたときは、なんということのないふつうの女子中学生の4人組だと思った。

 うち3人は体格がよく、背が高い。
 まあいまどきの10代の女の子たちだ。

 先生か生徒か……ここには居ない誰かの悪口で、とても盛り上がっている
 
 しかしその3人から少し離れたところに、頭ひとつ背の低いショートカットの少女が立っていた。

 その子はとても大人しく、俯いては、時々チラチラと周囲を見回して、俯く。それを繰り返していた。

 前髪の少し長い短髪。
 体つきはとっても痩せっぽちで、紺のスカートから伸びる脚は、友達(?)3人とはまったく違っている。

 第二次性徴が見られない、というか、脹ら脛や太股に少し女らしい脂肪を纏っているほかの子たちとは違い、その子の脚は棒っきれのように細かった。

 また、ほかの3人は紺色のハイソックスで脹脛を覆っていたけど、その子だけはスニーカーソックスを穿いているらしく、踝あたりまでが剥き出しになっている。

 その青白い脚が外気にさらされているのを見ると、何となく痛々しい感じがした。
 
 その子は完全に他の3人に無視されているみたいだった。
 ひとりだけ会話にも加わらず、しきりに周囲ばかり気にしている。
 
 わたしは自分が彼女らと同じくらいの歳だった頃の自分を思いだした。
 
 わたしも中学校のときは、ショートカットにしていて、性格は暗かった。
 今でも性格は暗いけど。

 べつにあからさまに仲間はずれにされるわけではないけども、集団の中ではいつもなんとなく、存在を忘れさられてしまう。

 そんなわたしだから、そのショートカットのチビさんについ自分を投影してしまった。
 
 やがて電車が入ってくる。
 先頭から2番目の車両は、女性専用車両だ。

 朝の通勤・通学ラッシュ時は酷く込み合う。
 この沿線は痴漢被害が多いことで有名だ。

 わたしもよく痴漢に狙われた。
 どこかで読んだけれども、痴漢は性格の暗そうな女性を狙う傾向があるらしい。
 美人・ブスに関わりなくだ。

 わたしがそのどちらに属しているのかはわからないけど(たぶん前者のやや美人寄りのほうだ)、性格の暗さは十代の頃からの筋金入りなので、こればかりは直せそうもない。

 だからいつも女性専用車用を利用することにしていた。
 お陰で、出勤前にくだらない気苦労を負わずに済むようにはなった。
 
 わたしは4人の少女たちとともに、車輌に押し合いへし合いで詰め込まれていった。

 彼女らの髪から、4人それぞれのいい香りが漂ってくる。
 女性専用車両は、いつも花の香りがする。


 さて、ぎゅうぎゅう詰めの電車が発車した。

 わたしは少女たちの一団に押しつけられるような格好で、電車に揺られている。
 見ると、少女たちは、例の背の低いショートカットの子を取り囲むようにして立っていた。
 
 あれ、妙だな……とわたしは思った。
 さっきまで無視されていたに等しいチビさんが、今は真ん中になっている。

 チビさんを取り囲む3人の少女たちは、真ん中の彼女を見下ろすような形で、何か意味ありげな含み笑いを浮かべ、お互い目で何かを合図し合っていた。
 非常にいやな感じがする。
 
 これは……明らかにイジメの構図というやつだ。
 
 わたしは幸運にも、少女時代にイジメられることはなかったが、わたしの周囲にもやはりイジメは存在した。

 わたしの通っていた学校の女子グループのイジメは実にほの暗いというか、じわじわと真綿で首を絞める感じというか……
 とにかく明確な暴力などを伴わないぶん、陰湿だったようだ。
 
 チビさんは背の高い3人のいじめっ子に囲まれて、真っ赤になって俯いていた。

 わたしは彼女に同情した……
 はじめて見た瞬間から、わたしは彼女に妙な親近感を覚えている。

 なんだか、ついつい昔の自分をだぶらせてしまう。

 取り囲む3人の少女たちが、また目を見合わせて笑った。

 3人の中でも特に可愛らしい、というか美人系の女の子は、チビさんの正面に立っている。
 美人さんが、実に底意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 もともとの造りが美しいだけに、その意地悪さが強調されているような感じがした。
 
「ねえ……」美人さんがチビさんに言った「……どう? どんな気分?」

「………」

 チビさんはますます赤くなって、さらに縮こまっていくようだった。

「……楽しいでしょ? あんた結構、楽しんでるんじゃないの?」

「…………」

 チビさんは答えない。

「なんか言いなよ……ねえ、聞いてんの?」

「……はい」

 チビさんが初めて口を効いた。
 蚊の鳴くような声だった。案外、ハスキーな声だ。

「…………どう? 乗り心地は? 悪くないでしょ?」

 ……乗り心地? この電車のことだろうか?
 妙な質問だな、とわたしは思った。

「……めったに乗れないんだからね。あんた。あたしらに感謝しなさいよ」

「はっ……はい」

「見てよ、こいつ。震えてるよ」チビさんの左に立ってるつり目の子が言った「……恐いの?」

「………」

「ほら、聞いてんじゃん」

 チビさんの左側に立った、受け口の子が追い打ちをかける。

「………いいえ」

「……じゃあ、なんで震えてんのよ。うれしいから? あんまりうれしいから、震えてんの?」

「そ……そんなっ……」

 チビさんはほぼ泣き声だった。

「ほら」

 つり目が、チビさんにぎゅっと身体を押しつける。
 中学生にしては、立派な胸だった。

「あっ」

 チビさんが身を固くする。

「ほれ」

 反対側の受け口が、大して大きくない胸で押し返す。

「……どう? 楽しい?」
 
 美人さんが俯いているチビさんの顎を、細い指で掴んでくっと持ち上げた。

「……楽しいでしょ? ほら、聞いてんの、楽しいでしょ?」
「……は、はいっ」

 顎を持ち上げながら、チビさんが怯えた目で美人さんの顔を見ている。
 
 わたしはチビさんを可愛そうに思いながら……何か、別の胸騒ぎを感じていた。
 
 なんだろう、この気分は。
 さっきまで、イジメられっ子のチビさんに素直に同情していたのに……。
 多分、あの怯えた目がいけなかったのだろう。
 
「……こんな経験、なかなかできないんだからね……感謝しなよ」

 と美人さん。

「…………」

 チビさんは無言で頷いて見せた。

 その間も、両側からつり目と受け口がグリグリとそれぞれの胸を、チビさんの身体に押しつけている。

 なんだか、彼女らの顔が少し上気しているように見えた。
 二人の鼻息も、心なしか荒くなっているようだ。

 一体、なんなんだ。

 二人に挟まれているチビさんは、ますます赤くなって震えていた。
 
 ああ、なんだろう。
 この変な気分は。
 わたしは彼女たちから目を離せなくなっていた。
 
「あっ……」美人さんが、視線を下に落として言った「やだこいつ、勃ってるよ」

「ええっ?」

「マジっ?」

 つり目と受け口が慌ててチビさんの腰のあたりを見た。
 
 勃ってる?
 どういうことだろう?
 
 チビさんはパニックに陥り、じたばたと暴れ始めた。

「こら、じっとしなさいよ」

 美人さんがぴしゃりと言う

「あんた、みんなに見られてもいいの? あんたの正体、バレちゃったらマズいよ? わかってる?」

「………くっ」

「ほら隠さない」とつり目「見せなさいよ……」

 チビさんは大人しくなった。
 つり目と受け口が、チビさんのスカートを引っ張ってじっくりとその前を見る。

 わたしも何気ない素振りで……チビさんのスカート前を覗き込んだ。
 
 なんということでしょう。

 チビさんのスカートの前を、何か固くて細いものが持ち上げていた。
 

「うわっ……すっげー……」

 つり目が言う

「……あんた、何考えてんの?」

 と受け口。

「……ちょっと、勘弁してよね~……これじゃあ、バレちゃうじゃん。なんとかしろって」

 美人さんが俯こうとするチビさんの顎をまたくいっと持ち上げる

「……どうしたの……?……そんなにうれしいわけ? だよねえ……こういう趣味があるんだもんねえ……あんた」

 チビさんは黙って被りを振った。

 まったく事情は飲み込めなかったが……とにかくチビさんは、男の子らしい。

 わたしも彼女……じゃなくて“彼”のスカートの前が出っ張っているのを見たときは、我が目を疑った。

 チビさんは4人組の中では、美人さんの次くらいに可愛い。
 というか、4人のなかで美人さんの次に女の子っぽい。

 肌も白く、きめ細やかで、切れ長の目に小さな鼻、小振りだけども瑞々しくふっくらした唇。

 全体的な身体つきは驚くほど華奢で、体格のいい3人に囲まれているのを見ると、どう考えてもチビさんが男の子には見えない。

 わたしの頭は混乱した……いったい、どういう状況なんだ、これは。
 
「……ほら、変態、なんとか言えって」

「………ん」

 チビさんの肩がビクッと震えた。
 美人さんが正面から胸を、ぐっと押しつけたみたいだ。

 それに倣うように、つり目と受け口もますますチビさんに身体を密着させる。

 チビさんは塩をかけられたなめくじのように、どんどん萎んでいくようだった。

「……へーえ……そっか。あんた、可愛い顔してるけど、変態くんだもんね」

「だ……だって……」

 チビさん=変態くんがまた消え入りそうな声で言う。

「何が、“だって”だよ。ほんっといやらしい。スケベ。ほら、どんどん勃ってくよ? 小さくしないと、周りの人にバレちゃうよ? バレちゃってもいいの?」

「…………」

 変態くんは固く目を閉じて、唇を引き締めていた。
 
 ああ、そんな彼女……じゃなくて彼の表情を見ていると……わたしはますますへんな気分になってきた。

 最初に彼女……じゃない、彼を目にしたときの、イジメられっ子への同情は跡形もなく消え失せている。

 まったくもって尋常ではないことだとはわかっているけれど……

 なんだか、彼の悩ましげな表情は……わたしの中に眠っていたいかがわしい感情を否応なしに亢ぶらせた。

 その感情は、美人さんが、つり目が、受け口が、変態くんに対して抱いているものと同じ種類のものなのだろう。

 つまり、わたしは彼女らに加わって変態くんをいじめたくなってしまったのだ。

 しかし、そんなことは出来ないことは判っている。
 だから、彼女らにもっと、彼をいじめてほしかった。

 とことん彼を当惑させ、困らせてほしかった。
 もっと真っ赤になって、屈辱に耐える彼の姿が見たくて仕様がなかった……。

 改めて考えてみると、実に異常な心理状態だったと思う。
 こんな気分になったのは、はじめてだった。
 
 突然、つり目が彼の耳元で、何やら囁いた。
 あるいは、息を吹き込まれたのかも知れない。
 変態くんはビクッと身を震わせる。
 
 つり目は逃げた変態くんの身体を引き寄せると、また耳元に口をつける。

 変態くんは微かに震え、目を閉じながら、耳に与えられる刺激になんとか耐えている。

 正面からは美人さんが彼のそんな反応を楽しむように注視していた。

 で、受け口が何をしているのかと言うと……あれまあ、変態くんのブラウスの上から、乳首の辺りを指で触れるか触れないかのような微妙なタッチで、いじくっている。
 
 彼女らの亢奮はまるでむせ返るようで……それぞれの荒い息づかいがこちらまで漂ってくるようだ。

 彼女らの変態くんへのイジメが、別の段階にシフトチェンジしたことは明かだった。
 
 わたしは人目もはばからず彼女らの一挙一同を見守っていた。
 わたしのほかに彼女らに注目している人は居ないわしい。
 
 なんだかお臍の下あたりが、むずむずと疼いた。

【後編】はこちら
 


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