女性専用車両【前編】
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その子を見かけたのは、先月の頭。
今年はじめて雪が降った日だった。
わたしが通勤に使っている地下鉄の路線は先頭から5両目の車両が女性専用車両になっている。
この路線はほかの都市部の通勤電車の例にもれず、朝の通勤時には猛ラッシュとなる。
ほんとうに痴漢が多くて、わたしも女性専用車両に乗るようになるまえは、しょっ ちゅう痴漢の被害にあった。
この路線の痴漢には凶暴で悪質なのが多い。
わたしは結構、背が低いほうで、顔つきもなんかぼーっとしてるか らか、痴漢にひどいことをされたことも多い。
スカートの中に手を入れられることは毎度のことで、ストッキングを降ろされたり、ひどいときは パンツの中に手を入れられたりもする。
相手がひとりのときはまだいいほうだ。
一度なんかは、4人がかりの痴漢に取り囲まれたことがあった。
怖くて声も出せずに、そのときはストッキングどころかパンツもおろされた。
そのときはさすがにダメージを受けて、会社を休んでしまった。
そんなこともあって、わたしは女性専用車両を利用することにしている。
ところで、その子は車両のドアのわき、わたしのちょうど正面あたりに立っていた。
女性専用車両でも朝のラッシュ時はけっこう混んでいる。
歳のころは14歳くらい。
沿線沿いにある私立中学校指定らしいPコートを着ている。
華奢な体型でボーイッシュなショートカット。
色白の肌で切れ長の目をしている、結構な美少女だった。
背は、わたしよりもちょっと低い。
わたしにはそっち系の趣味はないけど、なんだかその子が気になってしかたがなかった。
どことなく、様子がへんだったから。
しきりに周囲を伺っているし、わたしとも何度も目があった。
目が合うたびに、その子はあわたてわたしから目をそらせて、俯いた。
そのたびに、その子の頬が赤くなるのがわかった。
勤務先の最寄り駅まで20分。
ひまなので、わたしはその子を観察することにした。
どうもへんだ。
女性専用車両の乗客は、ほとんどがわたしくらいの年齢のOLさんたちか、女子大生、もしくは目の前のこの子のような女子中高生だ。
誰もかれもが、朝にシャンプーしたての髪。
車内はふつうの車両にはないような、独特のいい匂いに満ちている。
うそだと思うかも知れないけど、これはほんとうだ。
でも、その子から漂ってくる臭いはなんだか違った。
べつに、臭いわけではない。ちゃんと、シャンプーのいい匂いがする。
しかし、それに交じって、なにか違う臭いがした。
なんだろうか?
しばらく考えていると、わたしは弟のことを思いだした。
わたしより5つ年下の弟はどっちかと言えばおしゃれに気を使うほうで、服装にも気をつかって毎朝、洗面台の前で20分ほど過ごすような子だった。
わたし体育会だったせいか、そのへんには無頓着だったので、そんな弟をばかにして、よく「よ! きんたまついてる?」って罵ったものだ。
しかしいかに弟が気を使って毎朝シャンプーをしようと、どうしても若さゆえに躰から分泌される汗やその他の臭いだけは隠せない。
その子から も、弟と同じような臭いがしたのだ。
そう思ってその子を見ていると、また変なことに気が付いた。
その子の眉毛だ。
最近の年頃の女の子で、眉毛の手入れをしていない子はほとんど居ない。
男の子でもそうだ。わたしの弟だってそうだった。
でもその子はけっこう眉毛が濃くて、手入れが行き届いていない。
そのせいで、その子の顔はとてもボーイッシュというか、凛々しいというか、印象的な顔に なっている。
わたしがそんなふうに凝視していると、わたしの視線に気づいてその子が目線を下に落とした。
わたしも視線を下に落とした。
短いスカートからすらりと伸びた太股が見えた。
羨ましくなるほど、細くて、白い太股だった。
思わず釘付けになった。
繰り返すけど、わた しにはそんな趣味はない。
しかしその子はさらにわたしの視線を感じだのか、恥ずかしそうに太股をすり合わせた。
と、妙なことに気が付いた。
その子のスカートの前が……盛り上がってた。
■
頭が軽く混乱した。
一体、この子は何を考えてるんだろう?
……まあ、別に関係ないけど、不思議だ。
女の子の格好をして、女性専用車両に乗って、それで興奮している。
可愛い顔をしているけど、かわいそうにこの子は変態なんだろう。
この年頃から、そんな変わった趣味を持ってるなんて大変だな。
そういう人生もあるのか。
いや、あるんだろう。
これまでわたしに縁がなかっただけで。
でも……なんだか、この子のことが気になって仕方が無くなった。
と、電車が駅に停まって、反対側のドアから大量に人が入ってきた。
人の波に押されて、あたしは正面からその子に押しつけられる形になった。
「あっ……」
思わず声を出したのは、わたしのほうだった。
その子のスカートを突き上げているものが、もろにあたしの下半身に当たった。
その日、わたしはパンツだったけど、その感じはしっかりと伝わってきた。
わたしはなんかちょっと気が引けたので、少し腰を動かした。
「んっ……」
今度は、その子が声を出した。
見ると、女装少年は顔を真っ赤にして顔を背けている。
気持ちよかったんだろうか?
まったく、どうしようもない変態くんだ。
わたしはその子の事を気味悪く思いながら、すこし意地悪な気持ちにもなった。
自分でも信じられないけど、その意地悪な気持ちがだんだん大きくなっていた。
意識して腰をぴったりとくっつける。
その子が驚いたように顔を上げた。
今度はわたしのほうが目をそらせてやった。
電車の揺れに併せて、ゆっくりと縦に腰を動かしてやる。
「ん……んんっ」
その子が顔を伏せて、下を向いた。
耳まで真っ赤になっている。
白い首筋を見せて、左肩にほっぺたをぴったりとつけている。
なかなか悩ましい。
わたしはますます、へんな気分になってきた。
「ねえ……」その子の耳元で、囁いた。「君、男の子なんでしょ?」
はっとした顔で、その子がわたしを見る。
わたしはニンマリ笑ってその子を見た。
その子は信じられない、という顔で目を見開いてわたしを見ている。
わたしは自分にそんなところがあるなんて夢にも思っていなかった。
でもどんどん自分が意地悪になっていくのを感じた。
「ねえ、そうなんでしょ? ……なんでこんなカッコしてんの?」
その子はさらに赤くなって、俯いてしまった。
「君、もしかして、変態?」
「……」
その子はだんまりを決め込んだつもりらしい。
わたしは狭い中、手をその子とわたしの間に差し入れた。
もちろん、手のひらをその子に向けて。
「……ひっ……」
「……ほら、こんなになってる……やっぱ変態じゃん」
変態少年は俯いたまま、ぶんぶんと首を横に振った。
そんな様子を見てると、ますます意地悪な気分になってしまう。
あたしは、その子の固くなった部分を掴んだ。
あからさまに。
「や……いやっ……」
「……やっぱ、あれ? こういうことしてると興奮すんだ」
「や……やめて……くだ、さい……」
変態君が言った。思ったとおり、か細い声だった。
「……え?何?」わたしは耳を少年のピンクの唇に近づけた。「小さい声で言っても判んないよ」
「……だから……や、やめてください」
わたしはますます意地悪く指を動かした。
手の中で、彼のそれはますます大きくなっていった。
「……なんでこんなになってんの? 女の子のカッコして。やっぱ変態じゃん」
「ち、ちょっと……やめてください……お、大きな声……出しますよ……」
「……出せばあ? 何よ……ナマイキ。女の子のカッコして、変態のクセに。みんなにバレちゃっていいの?」
わたしはスカートの上から、彼のものを上下にしごいた。
「いっ、いやっ……やっ……や、やめて……」
その子は顔をさらに肩に押しつけて喘いだ。
目をきつく閉じて、眉間に皺をよせて、太い眉を歪めて、唇を噛んで……その表情はかなーーーり悩ましい。
なんか、ちょっと自分で気分を出してるみたいだった。
反応もぜんぜん、女の子そのものだ。
多分、この子は、いつかこんなことをされるのを待ってたのかなあ、と思った。
自分がものすごく興奮していて、鼻息が荒くなっているのがわかる。
しつこいようだけど、わたしにはそんな趣味はないのだが、いつのまにかわたしも我慢できなくなっていた。
「……えっ?」
変態くんがまた驚いて顔を上げた。
わたしが彼のスカートの中に手を入れたから
【後編】につづく
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