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36歳人生初の掛け持ちバイトで奇跡が起こった話


先月から僕はバイトを掛け持ちしている。

売れない芸人がバイトを掛け持ちするのは至って普通の事だが、僕の中では違う。

何といっても人生初の掛け持ちバイトなのだ。

今まで僕はバイトを掛け持ちした事がなかった。

大阪時代は一つのバイト先に10時〜19時で週5、6回入ってたので掛け持ちする必要がなかった。

ただ東京に来てからは一つのバイトにそこまで入れるわけではないのでとうとう重い腰を上げたわけである。

36歳。

人生初の掛け持ちバイト。

うむ。

ずっしりくるものがある。

本来ならバイトをしてる歳じゃないのに。

さらにもう一つ始めないといけないとは。

とはいえ弱音を吐いてる場合ではない。

今はひたすらバイトをする太ったマシーンになる。

そう自分に言い聞かせ二つのバイト先を行き来している。


僕は新しい人間関係というものがあまり得意ではない。

基本人見知りぎみなので出会う人全てが初対面になる新しいバイト先という環境は中々辛いものがある。

加えてこの年齢。

溶け込むのはかなり難しい。

新しいバイト先はほとんどが大学生である。

大学生の集団に単身1人で乗り込む36歳の太ったおじさん。

気分はランボーである。

ちょっとでも油断すると

「バイト先にヤバいおじさんがやってきた!の巻」

になってしまう。

だから僕は出来るだけ元気よくエネルギッシュなおじさんを演じている。

みなさんもどこかのバイト先で一度は見た事があるかもしれない。

若い人に混じってバイトするやたら声のでかいエネルギッシュなおじさん。

僕は頑張ってあれになろうとしている。

出勤しバックヤードに入るなり脂ぎった笑顔で「おはようございます!!!」「西村です!!!よろしくお願いします!!!」

うん。

正直ちょっとウザい。

僕が大学生側なら「うわあ、、、」てなるだろう。

まあでも暗いよりはマシである。

そう思い僕は元気を振り絞っている。


新しいバイトを始めて2週間ぐらい経った頃。

その日も僕は元気よく出勤しバックヤードに入るなり脂ぎった笑顔で「おはようございます!!!」と

エネルギッシュうざ挨拶をぶちかました。

するとそこにいたのは

初対面であるメガネをかけた大人しそうな大学生っぽい男の子だった。

間髪いれずに僕は

「初めまして!!!西村です!!!よろしくお願いします!!!」

とエネルギッシュうざ自己紹介をぶちかました。

すると大人しそうな大学生っぽい男の子は

「おう。よろしく〜」と返してくれた。

僕はそのまま脂ぎった笑顔をキープしていたが

内心「ん?」と思っていた。

今この人「おう。よろしく〜」て言うたよな。

あれ?

ちょっとタメ口じゃない?

ちょっとていうかめっちゃタメ口じゃない?

「おう。よろしく〜」はタメ口やんな?

いやまあ全然いいねんけど。

いくら36歳とはいえ入ったばかりの新人やし。

え、でも初対面のおじさんにいきなりタメ口でくる?

「おう」言うてるし。

いやまあ全然いいねんけどさ。

こっちが後輩やし。

え、でもいきなりタメ口から入る?

「おう。よろしく〜」て。

大御所やん。

楽屋挨拶に来た若手に対する大御所やん。

大人しそうな大学生っぽい見た目してバリバリのストロングスタイルやん。

ストロングスタイルアルバイターやん。


僕は少し面食らいながら気を取り直して制服に着替えた。

そして着替えながらこう考えた。

さっきのは聞き間違えかもしれない。

「おう。よろしく〜」じゃなくて

「大よろしく」かも。

すっごいよろしくみたいな。

きっとそうだ。

大よろしくに違いない。

大よろしくは敬語だろう。

よろしくが大なのだから。

うん。

そうに違いない。


ちなみにその日のその時間帯はその大人しそうな大学生っぽい人と僕の2人しかいない。

勤務開始の時間になって2人で売り場に出る。

大学生っぽい人が僕に尋ねる。

「ここ入るの何回目かな?」

僕は「5回目です!!!」と元気よく答える。

元気よく答えながら僕はこう思った。


やっぱタメ口やん。。。


めっちゃタメ口やったやん。

「ここ入るの何回目かな?」はもうまごう事なきタメ口やん。

大よろしくじゃなかったやん。

てか大よろしくやったとしてもよう考えたら大よろしくもタメ口やん。

どっちにしろタメ口やん。


僕は内心混乱していた。

いや本当にタメ口なのは別にいいのである。

こっちは入ったばかりで後輩なのだから。

全然いいのである。

でもちょっと面食らったというか。。

何やかんやで他の人達は敬語やったし。

後そんな感じの見た目に見えなかったのもある。

大人しそうな大学生っぽかったから。

まあでも凄いベテランなのだろう。

大先輩と思えば何も変じゃない。

むしろこんな事考えてる僕が失礼だ。


こう思い直し僕は業務に勤しんだ。

大人しそうな大先輩は色々教えてくれた。

ありがたい。

しばらくして僕は大先輩に聞いてみた。

「ここバイトしてどれくらいなんですか?」

大先輩は答えた。

「う〜ん。1ヶ月くらいかな。」


チョイ先輩やないかい。


大先輩やなくてチョイ先輩やないか。

いや、1ヶ月て。

ほぼ同期やん。

てかこいつよう見たら名札の下に「研修中マーク」付いてるやないか。

お互い研修中やん。

それでようこんなタメ口でこれたな。

意味わからんやん。

あかん、腹立ってきた。

ていうかこの時間帯、研修中しかおらんやん!

大丈夫かこの店!


僕は怒りに駆られながらも業務に集中した。

そうこうして2時間ぐらい経った頃、チョイ先輩が急に僕にこう言った。

「あ、すいません!」

急に敬語である。

どうしたというのだ。

僕は「ん、何ですか?」と言った。

彼は恐る恐るこう言った。

「あの〜。。。もしかして。。。年上ですか??」


はい??

え、年下やと思ってたって事!?

いや俺36やで!?

え、どういう事?

何で年下やと思ったん?

え、まじでわからん!


とりあえず僕は「いや僕36っすよ笑!!」と答えた。

すると彼は「すいません!年下だと思ってタメ口使っちゃってました!ほんとすいません!」と平謝りしてきた。

和やかな雰囲気に包まれたが

僕はまた内心混乱していた。


何で年下やと思ったんや!?

俺どう見ても年上やろ!?

どうなってんねんこの人。

もしかしてあれか。

この人大学生っぽい見た目やけど実は結構歳いってんかも!

わりと歳近いんかもしらん!

だから間違えたんや!

そうや!

そうに違いない!


僕は彼に尋ねた。

「いくつなんですか?」

彼は答えた。

「21です!」


ワシ20歳ちゃうわ!!!


こいつどうなってんねん!

何で俺の事20歳に見えてんねん!

絶対違うやん!

俺これやぞ!

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どこがハタチやねん!

これのどこが成人式やねん!

嫌やわ、こんなハタチ!

規格外すぎるやろ!

大学で絶対浮くやん!

暗黒の大学生活送るやん!

ていうか俺、36歳の中でも老けた36歳やねん!

自分で言うのもあれやけど!

何をどう見ても20歳には見えへんわ!


まさかである。

僕がチョイ先輩にタメ口を使われていた事の真相は

僕が20歳に見えていた

からだったのである。

エネルギッシュにいった結果、36歳のおじさんが20歳に見えたのだ。

これを奇跡と言わずして何というだろう。

僕はこの奇跡を噛みしめながら

見た目は20歳、頭脳は36歳として

これからもバイト掛け持ちを頑張っていこうと思う。



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