自分自身の成長のためにも、育成に真剣に取り組んでいる。

私はSansan株式会社のSansan事業部のVPoP(Vice President of Product)であり、Sansan事業部のプロダクトマネジメント組織のマネージャーを務めている。この立場でどのように育成に取り組んでいるかについて書く。

育成のスタンスとして大切なことは「成長したら本人の努力によるものである。成長しなかったら環境や上司に原因がある」と考えることである。もちろんこれは育成に責任を持っている側が思うべきことであり、くれぐれも自分の成長を上司や環境のせいにすべきではないと私は思っている。

私にとっての育成とは「メンバーが成果を上げることを支援する」ことではない。私にとっての育成は「体系だったスキルを習得する支援を業務を通して行う」ことである。私が考えた方法を教えることではなく、すでに価値があると広く評価されているスキルを習得することを支援することだ。

例えば、私のチームではロジカルシンキング、プロジェクトマネジメント、問題分析、問題解決などのスキルアップを私も含め全員に求めている。これらのスキルは様々な書籍で解説されているため私が一から知識を教える必要はない。つまり自分自身で勉強することができる。さらにすでに言語化されているスキルであるため、私の脳の中を覗きに行く行為をする必要がない。上司が考えている最高の方法を模索しながら業務をするのは馬鹿げている。

私が実際に行っているスキル向上の支援は「中長期目線で育成し、失敗に対して寛容であり、何度も同じフィードバックをすることを厭わない」ことだ。基本的にスキル向上は長期的になるし、何度も同じ失敗をするものである。逆にいうと「同じミスを繰り返すことなく短期的に身につくスキル」はわざわざ支援する必要がない。当然ながらそういったスキルは誰でも簡単に身に付く。だからこそ、マネージャーによるスキルアップ支援は「中長期目線で育成し、失敗に対して寛容であり、何度も同じフィードバックをすることを厭わない」ことでしか達成できないと考えている。

そのために日々の業務の中で常にフィードバックし続けることが大事である。そもそもフィードバックはメンバーのアウトプットの質を上げるために必須である。マネージャーの成果は担当する組織と影響力がある組織の成果の総和である。そのため私自身がマネージャーとして成果をあげるためにはメンバーにフィードバックし続けることが必要となる。
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さらに「スキルは本人の努力や経験により伸ばすことができる。他人との比較ではなく今の自分よりも明日の自分はスキルが高くなるはずだ」ということを信じることが大切だ。
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私が行う主なフィードバックは次の3つに分類できる。1つ目は知識に対するフィードバックである。そもそもスキルの前にその領域の知識がないことが多い。例えばロジカル・ライティングのスキル向上の前にロジカル・ライティングとは何かという知識がない場合がある。そのときはまずは書籍を読んで練習することを勧めている。また忘れてしまうことも多々あるため読み返すことも勧める。
2つ目はスキル、つまり実践に対するフィードバックである。知識があることと実践することは全然違う。繰り返し何度も訓練が必要である。これは日々の業務のアウトプットを徹底的にレビューすることで実現している。例えば、ロジカル・ライティングのスキル向上に対して次のような支援を行っている。プロダクトマネージャーはPRD(Product Requirements Document)と呼ばれるものを書く。私は徹底的にロジカル・ライティングの観点でこれをレビューしている。このレビューにはもちろんロジカル・シンキングやロジカル・ライティングの知識とスキルが必要である。さらにクリティカル・シンキングも必要である。企画として開発バックログに載るPRDは年間400件くらいのペースになっている。検討段階も含めるとその数倍になる。それを全部レビューしてフィードバックしている。
最後の3つ目は「仕事を3倍早くする」ためのフィードバックである。これは各メンバーの課題が異なるため各メンバーと議論しながら現状の認識や次に行う試行錯誤を言語化していく。その議論のなかで現状の正しい認識を持つために、試行錯誤のクオリティを上げるためにフィードバックしている。

育成の観点で「今よりも、大きなタスクをアサインする、裁量を広げる、責任を広げる」ことが語られることが多い。これらは成長の機会を作るために有効であると私も考えている。一方で私が特に大切にしていることは日々の業務の中で成長の機会を作ることである。各メンバーにとって丁度いいタスクが常にあるわけではないが、成長の機会は常にあったほうがいい。だからこそ日々の業務のなかで成長の機会を作ることが大切だ。
日々の業務のなかで成長の機会を作る方法は、基準を上げることである。基準は2つある。リードタイムの短縮と品質の向上である。この2つの基準を引き上げることで成長の機会を作っている。例えば、今まで10日かかっていたものに対して5日という基準を定める。その達成のためにはスキルアップが必須である。そこに焦点を当てて試行錯誤することで成長できる。
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最後に少し厳しいことも書いておく。上記のことを実践する中でメンバーから「根気強くフィードバックし続けていて西場さんは優しいですよね」と言われたことがある。実際に私は優しい訳ではない。その根拠の1つ目は、私が求めているスキルの向上は前述した通り短期的に簡単に身に付くものではない。何年もかけて磨き続けていく必要があるものだ。要求水準も高い。2つ目は、私は徹底的に成果で評価をしている。フィードバックし続けても成長しなかったとしたらどうするか? それでもフィードバックを止めるのではない。このときは評価を上げない、または下げる。このような理由で他のマネージャーよりも私は厳しいと思う。

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