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書評「上を向いて歩こう」(佐藤剛)

本書は、ジブリの雑誌「熱風」での連載を元に、坂本九の「上を向いて歩こう」がどのようにして生まれたのか、「上を向いて歩こう」はなぜ全米No1を勝ち取ることができたのか、ということをまとめた1冊です。

「上を向いて歩こう」が生まれた理由

著者は「上を向いて歩こう」の次に世界的に親しまれている日本の歌、The Boomの「島唄」をプロデュースした佐藤剛さん。

この書籍では、「上を向いて歩こう」という国民的ヒット曲がなぜ生まれたのか、様々な視点から文献をたどりながら、丹念に調べています。そこで浮かび上がってきたのは以下の3点です。

安保闘争など当時の時代背景
アメリカ文化に影響を受けたミュージックマンの台頭
日本初のロックンロールシンガー「坂本九」

安保闘争など当時の時代背景

上を向いて歩こうが初めて披露されたのは、作曲者の中村八大のリサイタルが開催された1961年7月21日の事。当時の日本は、太平洋戦争の敗戦から急速な発展を遂げていた時期でした。

安保闘争が繰り広げられたのは、1960年のこと。戦後急速に復興を遂げつつ会った日本は、アメリカに支配されるだけの国ではなくなり始めていた時期でした。なお、永六輔は安保闘争のさなか、デモに積極的に参加していたと、この書籍に書かれています。

アメリカ文化に影響を受けたミュージックマンの台頭

ちょうど時代の境目にあった当時、サラリーマンの初任給より、アメリカ軍基地で演奏するジャズ・ミュージシャンの方が、多く稼げた時代でした。その当時、駐屯地で演奏するミュージシャンとして注目を集めたのが、渡辺晋とシックスジョーンズです。シックスジョーンズのピアニストには、後に上を向いて歩こうの作曲を行う中村八大が所属していました。

クラシックを専門的に学んでいた中村八大をピアニストとして加入させたバンマスは、後に渡辺プロダクションの会長となり、現在の芸能界の礎を築いた渡辺晋。こうした、アメリカ文化に影響を受けたミュージックマンが台頭してきたことで、日本独自の歌が生まれる土台が構築されました。

日本初のロックンロールシンガー「坂本九」

当時の時代背景とアメリカ文化に影響を受けたミュージックマンの台頭を象徴するのが、エルビス・プレスリーに影響を受けたシンガー、坂本九です。

エルビス・プレスリーに衝撃を受け、英語の意味もわからないままエルビス・プレスリーの曲を歌っていたシンガーは、従来の歌謡曲になかった「ロックンロール」の歌唱法を体現した、初めての日本人シンガーでした。(「上を向いて歩こう」が発表された当時の坂本九は、19歳(!)。)

ビートルズと上を向いて歩こう

当時NHKの人気番組「夢であいましょう」で披露された「上を向いて歩こう」は、たちまち大ヒットを記録。その後「Billboard」でNo1という快挙を記録します。そこで、「上を向いて歩こう」の成功がいかにすごいかということを比較するために著書で取り上げられていた比較対象は、「ビートルズ」です。

ビートルズは当時、イギリス本国で人気が出てきた時期で、プロデューサーのジョージ・マーティンはアメリカへの進出を模索します。ところが、当時のキャピトル・レコードのプロデューサーは、ビートルズのアメリカ進出は「No」と判断します。

しかし、同時期に発表された日本語の歌「上を向いて歩こう」は、同じキャピトル・レコードのプロデューサーにより、アメリカでの発売が決定し、大ヒットを記録します。ビートルズではなく、上を向いて歩こうを選んだ理由は、本書に詳しく書かれていますので、ぜひ読んでみてください。僕はビートルズファンだったので、とても興味深く読ませてもらいましたし、日本人として「上を向いて歩こう」の音楽的な評価が誇らしくありました。

この本を書いた佐藤剛さんは、The BOOMのプロデューサーとして長年関わってきていて、近年ではBillboardチャートにランク・インした「由紀さおり&ピンク・マルティーニ」のプロデューサーでもあります。

著書「上を向いて歩こう」は、そんな佐藤剛さんのミュージックマンとしての視点で、上を向いて歩こうを分析した本となっています。

坂本九さんが非業の死を遂げたことで、「上を向いて歩こう」が音楽面で正当な評価をされていなかったと著書には書かれていますが、この著書は「島唄」や「由紀さおり&ピンク・マルティーニ」のヒットを支えた著者がで立てた仮説を基に、「上を向いて歩こう」の音楽面で正当な評価をくだした書籍だと思います。

また、この本は先の見えない現代に対して、当時の日本人の姿から、何をスべきか問いかけている書籍でもあると、思います。

※この記事は2012年11月にnishi19 breaking newsに公開した記事を再編集して掲載しています。

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