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2017年J2第38節 V・ファーレン長崎対名古屋グランパス レビュー「0.5人分しか試合に参加していなかった2人の選手」

2017年J2第38節、名古屋グランパス対V・ファーレン長崎は1-1の引き分けでした。

この試合の前半、僕は名古屋グランパスのプレーを観ていて、「10対11で試合しているようだ」と感じました。そう感じた理由はV・ファーレン長崎の守備が素晴らしかったからでもあるのですが、名古屋グランパスの選手の中で、ボールを受けるための動きをしていない選手が2人いたからです。

2人とは、イム・スンギョムとシモビッチ。前節のスターティングメンバーのうち、シモビッチはガブリエル・シャビエル、イム・スンギョムは宮原の代わりに出場した選手です。

大きかったガブリエル・シャビエルと宮原の不在

他の選手の代わりであれば、「10対11で試合をやっているようだ」とまでは感じなかったかもしれません。しかし、2017年シーズンの名古屋グランパスにとって、ガブリエル・シャビエルと宮原は重要な選手です。ガブリエル・シャビエルは前節負傷していたため、対策を準備することが出来ましたが、直前にベンチ外となった宮原の不在は、名古屋グランパスにとって大きな痛手でした。

宮原が欠場したことによって受けた影響は、前半に右サイドから全く攻撃出来なかった事からも明らかでした。

前半に櫛引とワシントンがボールを持った時、V・ファーレン長崎のFWとMFが連動してボールを奪おうと試みます。名古屋グランパスは小林が櫛引とワシントンの近くまで下がって数的優位を作って、相手に奪われずにボールを運ぼうと試みますが、V・ファーレン長崎のファンマ、幸野、澤田の3人と3対3の関係を作られてしまい、数的優位を作れません。

ボールがなかなか前方に運べないので、田口が小林の近くでボールを受けようとするのですが、田口をV・ファーレン長崎の前田がマークしているため、田口もボールを受ける事が出来ません。ただ、左サイドの和泉と右サイドのイムは中央の選手に比べるとボールを受ける余裕があるはずでした。

ところが、和泉はボールを受けることが出来たのですが、イムが櫛引や小林がボールを持った時、ボールを受けられる場所にいません。

イムはなぜかV・ファーレン長崎の左MFの翁長の近くにいて、翁長に捕まってしまいます。櫛引としてはイムにパスをしたいのですが、パスが出来ないため、別のプレーを選択しなければならないのですが、V・ファーレン長崎の守備のアクションが早いため、別のプレーを選んでいるうちに、相手に捕まってしまいボールを失います。

V・ファーレン長崎は守備者同士の距離が狭く、中央でボールを受けるような場所はありません。玉田や青木が何度がV・ファーレン長崎のDFとMFの間で受けようと試みますが、相手のボールを奪いに来るアクションが早く、ボールを奪われないのが精一杯で、なかなか相手ゴール方向を向く事が出来ません。ただ、V・ファーレン長崎はボールを積極的に奪いに来ていて、DFとFWの距離が短く保たれていた反面、DFとGKの間には大きくスペースが空いていました。このスペースを活用することで、ボールを運ぶという方法もありました。

しかし、名古屋グランパスがV・ファーレン長崎のDFとGKの間のスペースを狙ったパスを出すことは、ほとんどありませんでした。

相手のMFとFWがボールを奪いにきても、素早く味方のFWにパスを出す事が出来れば、相手のMFとFWの守備を無効にすることが出来ます。櫛引やワシントンや小林は、何度かロングパスを出そうとするアクションをしていました。しかし、この試合でFWを務めたシモビッチが、ロングパスを出す動きに反応しません。

シモビッチは、ただV・ファーレン長崎のDFの前で立っているだけで、守備者から離れる動きや、上下に動いて相手を外すような動きをほとんどしません。たまに相手を背負ってボールを受けようとしますが、シモビッチは相手の身体を背中で抑えるのではなく、腕で人を抑える癖があり、腕で抑えた瞬間にファウルをとられてしまう事があります。この癖はシモビッチが動けていない時によくみられるプレーなのですが、この試合のシモビッチは、全く動けていませんでした。シモビッチがスターティングメンバーで常時起用されないのは、動ける時と動けない時のパフォーマンスに差がありすぎるからです。この試合のシモビッチは、ダメな時のシモビッチでした。

ガブリエル・シャビエルは相手の守備者の間でボールを受けるのも上手いですが、足の速さを活かして、DFの背後でボールを受けるのも上手い選手です。ガブリエル・シャビエルがいないため、DFの背後で受ける人が佐藤しかいなかったのですが、佐藤もDFからのパスを受けようと下がってしまったため、名古屋グランパスは時間が経つにつれて、V・ファーレン長崎の守備に捕まってしまいました。

前半の名古屋グランパスは、シモビッチとイム・スンギョムの2人が攻撃の時は「いない」も同然だったので、0.5人ずついないとして、10対11で試合をやっていたようなものです。よく耐えたと思います。

シモビッチとイム・スンギョムを交代出来ない理由

ただ、この2人を簡単に交代させるわけにはいきませんでした。それは、V・ファーレン長崎の強みが「セットプレー」だからです。プレビューにも書きましたが、V・ファーレン長崎の総得点のうち、約70%がセットプレー関連プレーから生まれています。相手の強みがセットプレーであることを考えると、身長が高いシモビッチとイム・スンギョムを簡単に替えるわけにはいきません。どうにかして2人を活かして戦う方法を考える必要がありました。

名古屋グランパスは後半にどう修正したのか

後半に入って、名古屋グランパスは「5-4-1」のフォーメーションに変更します。DFは右から青木、イム、ワシントン、櫛引、和泉、MFは右から玉田、小林、田口、佐藤、そしてFWはシモビッチに変更します。この変更によって、青木に右サイドでボールを受けてもらい、V・ファーレン長崎陣内にボールを運ぼうと試みたのです。この修正は効果がありました。

また、名古屋グランパスの櫛引、ワシントン、小林に対して、V・ファーレン長崎も3人がマークして数的優位を作らせなかったのですが、イム・スンギョムが加わることで、名古屋グランパスは数的優位を作ることが出来るようになり、ボールを奪われる回数が減りました。この2点の変化によって、次第にV・ファーレン長崎陣内にボールを運べるようになりました。

ただ、イム・スンギョムもシモビッチも、前半の0.5人分のプレーが0.75人分になったくらいで、正直11対11でプレーしているときのような差を作り出す事は出来ませんでした。本来ならイム・スンギョムが左DFで、櫛引が右DFを務めることが多いのですが、イム・スンギョムが右DFを務めていたのは、イム・スンギョムのプレーがそれほどよくないという判断をしていたからだと思います。

どうにか、玉田、青木、和泉、田口といった選手たちが少しずつ持っている実力を発揮出来るようにして、互角の勝負にもっていくのが精一杯でした。PKで先制しましたが、勝利に値する程のプレーは出来ていなかったと思います。

先制した後に必要だった「ボールを自陣ゴール前から遠ざけるプレー」

1点先制した後のプレーにも問題がありました。

キックオフ直後、イム・スンギョムが競り勝って永井がボールを受けます。永井の左側にはスペースがあったので、ドリブルでボールを運び、味方の選手が上がってくるのを待つか、ボールを失いそうなら、左サイドのタッチラインに蹴りだし、V・ファーレン長崎の選手を自陣に戻せばよかったのですが、永井はシモビッチとパス交換をしてボールを失います。

ボールを奪われた後、V・ファーレン長崎の選手がロングパスを出しますが、ボールを受けた櫛引は和泉にパスをしようとして、中途半端なパスを出して、ボールを失います。その後、スローインから小林がクリアしたパスを永井が受け、田口にパスをミス。その後、V・ファーレン長崎の左サイドにボールを運ばれて失点してしまいます。

一連のプレーを観ていて感じたのは、名古屋グランパスの選手たちが、状況に応じて「勝つために必要なプレー」を頭に描けていないという事です。

この試合は、1-0でよいから勝つことが求められていました。V・ファーレン長崎が勝つためには、名古屋グランパス陣内にボールを運ばなければなりません。V・ファーレン長崎は多くの選手を名古屋グランパス陣内に送り込み、ロングパスを活用してボールを運ぼうとしました。

名古屋グランパスは普段通りにパス交換してボールを運ぼうと試みますが、試合終盤は身体も思うように動きませんし、相手が人数をかけて攻め込んできているため、普段より人数が足りてない状態です。したがって、最善策はボールをV・ファーレン長崎陣内に蹴り出し、ボールをゴールから遠ざけ、失点のリスクを一時的に下げる事を繰り返し、相手の攻撃回数を減らすことでした。

ところが、永井、櫛引、田口が選択してプレーは、勝っている時に選択するプレーではありませんでした。彼らが選択したのは、普段プレーする時に選択するプレーです。普段ならいいかもしれませんが、90分で1-0で勝っている時に選択するプレーではありません。FCバルセロナだって、力が拮抗している相手には、ボールキープは選択しないと思います。あまりにも軽率でした。

ヘディングの強い相手に「走り込まれる場所」を与えてはいけない

そして、このタイミングで櫛引の悪い癖が出てしまいます。櫛引の悪い癖とは、「横からのパス(クロス)の落下点から1歩下がって対応しようと待ってしまう」事です。櫛引はスタンディングジャンプしないように、1歩下がって助走をつけて高くジャンプしようとする癖があるのですが、1歩下がってしまうということは、相手のFWにパスを受ける場所を明け渡してしまうという事でもあります。ましてやV・ファーレン長崎のファンマのように、身体が強く、短い歩幅で高いジャンプが出来る選手に、場所を明け渡すのはゴールチャンスを与えているのと同じです。

ファンマのゴールを決める前の動きも素晴らしかったです。受けたい場所を空けておいて、わざと和泉の近くに動いてから、助走をつけて走り込みました。

ただ、ファンマが走り込んだ場所は、櫛引が空けた場所でもありました。櫛引がその場所にいれば、櫛引は高くジャンプは出来ないかもしれませんが、ファンマに違う場所を選択させたり、身体をぶつけてシュートミスを誘う事も出来たはずです。1歩分後ろにいたために、ファンマに身体をぶつける事が出来ず、シュートを防ぐ事が出来ませんでした。

このゴールを決めるまで、ファンマが上手くプレー出来ていなかったのは、ワシントンがファンマを上手くマークしていたからです。時に身体をぶつけ、ファンマが受けたい場所をすばやく塞ぎ、先回りして守備をすることで、ファンマのシュートチャンスを消していました。この試合は、ワシントンと武田の奮闘で得た勝ち点だと思います。4連勝中はどうしても攻撃が注目されがちですが、連勝を支えているのはこの2人です。この試合も2人に救われました。2人の奮闘が素晴らしい分、櫛引の対応は残念でした。期待しているだけに残念でした。

深掘のベンチ入りから感じたこと

最後に試合とは関係ありませんが、驚いたことがあります。それは、この試合のベンチに深掘が入っていたことです。

深掘がベンチ入りしたのは、第23節のモンテディオ山形戦以来の事です。ただ、正直予想された試合展開だと、深掘が出場する可能性は高くはなかったと思います。では、なぜ深掘がベンチ入りしていたのか。

僕は、こんな事を考えました。

もしかしたら、風間監督は深掘にこの試合の雰囲気を体験させたかったのかもしれない、と。

J1昇格に向けた大一番に他の選手がどのような準備をするのか、どのような雰囲気なのか、相手チームはどんな対応するのか。ベンチ入りしないと分からないことを経験してもらいたい。そんな考えがあったのかもしれません。

そして、深掘のベンチ入りという事実から、まだ名古屋グランパスというチームには余裕があるのだなとも感じました。切羽詰まって追い詰められているというよりは、勝負は最後の最後までもつれるのだから、この1戦で全てが決まるわけではない。そんな余裕を感じました。

全ての試合で勝てればよいですが、実力が拮抗した相手では、勝負はちょっとした差で決まります。この試合の名古屋グランパスは、ちょっとした差で勝ち点を逃してしまいましたが、まだ挽回する機会は残されています。残り4試合。僕はこの試合に引き分けたことで、「運は残った」とも感じました。楽しみです。

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