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書評「プロ野球 FA宣言の闇」

著者から献本頂きました。ありがとうございます。

サッカーファンの素朴な疑問

サッカーファンの一人として野球を観ていると、野球とサッカーで考え方が制度が違うという思うことに「選手の移籍」がある。

サッカーファンからすると、選手がよりよい条件を求めて移籍するのが当たり前で、契約中であっても契約解除金(移籍金)を払えば選手を獲得できるし、保有権を保持した上で他のチームに移籍できる「レンタル移籍」という制度もある。外国人枠もあるけど、アジア人枠もあるし、マーケットも海外に広がっている。理屈で考えると移籍に関して様々な選択肢があるサッカー選手と比較すると、日本のプロ野球選手の選択肢は少ない。

入団するときは指名された球団に入団しなければならず、人材の流動性は低く、契約解除金を払っての移籍金やトレードも少ない。レンタル移籍のような制度もない。会社員でも入社3年目以降は転職を考える人が多いのに、日本のプロ野球選手は転職ならぬ移籍したくても移籍できないのだ。

1年間に4人しか使われない制度

そんな野球選手が、自分でプレーするチームを選ぶ権利を定めたのがフリーエージェント制度です。フリーエージェントの権利を得る条件は、大まかには以下のように定義されている。

国内移籍のFA権
2006年までのドラフトで入団した全選手 - 累計8年(通算1160日)経過で取得
2007年以降のドラフトで入団した高校生選手 - 累計8年経過で取得
2007年以降のドラフトで入団した大学生・社会人選手 - 累計7年(通算1015日)経過で取得
海外移籍のFA権
全選手が累計9年経過で取得

累計7年という年数を短いと感じる人もいるかもしれませんが、会社員ですら入社3年目で転職を検討するというのに、野球選手は会社員より過酷な環境での労働を強いられているとも言える。対価は多額の年俸と契約金なのかもしれないけど、多額の報酬というメリットを受け取れる人は一部だし、環境によって開花しなかった才能も少なくないはずだ。フリーエージェント制度は流動性を担保し、選手に選択の自由を与えた制度とは言えないのが実態だ。1993年に設立したフリーエージェント制度を利用した人は、2018年までの25年間で120人。年間平均4人(!)しか利用されていない制度なのだ。

年間4人しか利用しない制度は制度として機能していない、と言われても仕方がないと思うのだが、そんなフリーエージェント制度について、設立時の経緯、現在の課題、改善案などについてまとめたのが、本書「プロ野球 FA宣言の闇」だ。

フリーエージェント制度という「日本式システム」

本書を読んでいると、本書に書かれていることは、プロ野球に限らず、日本の社会の問題だと思わされる。意思決定が遅く、責任を取らず、変化を望まない。高城剛さんがよくメールマガジンで書いている「日本式システム」の問題点は、フリーエージェント制度の問題と同じだ。

僕は責任の所在が曖昧で意思決定が遅い日本式システムにすべての原因があると考えています。個々の政治家や役人がどうだとかいう話ではなく、問題はシステムそのものにある。典型的なのが官僚組織をはじめとする公務員システムですよね。何もしなくても年功序列で出世して給料が上がっていく。失敗しても誰も責任をとらない。国際的にはまったく通用しない古くなったシステムを、日本はいつまでも堅持している。古くて大型なので、お金=税金も必要。これが今日直面している問題だと僕は思っています。エネルギーの話だけではありません。

高城剛氏の提言「経団連という”財閥”を解体すべき」より

繰り返しになるが、本書に書かれているのはプロ野球の問題であるが、プロ野球だけの問題ではない。日本の社会の問題そのものだ。そして、プロ野球選手の問題は、プロ野球選手を応援するファンの問題でもあり、プロ野球が存在する社会の問題でもあり、これを読んでいるあなたの、そして、僕の問題でもあるのだ。本書を読み終えてそんな事を考えた。

プロ野球の問題をストレートに取り扱うのは、日頃プロ野球の取材をしている著者にとっては簡単なことではないはず。著者の挑戦に拍手を。素晴らしい本でした。おすすめです。


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