見出し画像

書評「50mm」(高城剛)

高城剛さんが、ちょっと変わった雑誌を発行した。その名も「50mm」。

「50mm」とは、高城さんが使っているレンズのこと。この雑誌は、高城さんが写真を撮り、原稿を書いて作られた雑誌です。

そして、本書の特集のテーマは「大麻ビジネス最前線」。こんなテーマを選んだところが、高城さんらしいなと思います。(本書で語られている医療大麻の効果については、Wiredでも語られていましたのでぜひ)

高城さんは本書の冒頭に、こう書いています。

世の中、出版不況だそうだ。
雑誌は、毎月のように廃刊し、書店や出版社は日々会社を畳んでいる。
話を聞けば、ウェブサイトに読者は流れ、紙の雑誌が売れなくなったのが要因だというが、本当にそうだろうか。
実は、雑誌は気がつくと読者よりも広告主に目が向き、内容がどんどん企業寄りになって、面白くないから読者は離れ、結果、広告主も離れていった。
つまり、雑誌が広告収入に依存していた「体質」に問題があると僕は考えている。
インターネットは、即時性や非物質的であることに目がいくが、ブログやSNSも、なにより魅力は「個人メディア」に尽きる。自分で見たものを、自分で撮影し、自分で文を書く。

だったら、インターネット的に、いままで見たこともない紙の雑誌を作ったらいいんじゃないか。
そう考え、まるでブログやSNSのように、自分で見たものを自分で撮影し、自分で文を書く紙の一冊を作りたいと思った。

この雑誌を読み終えて感じたことは、2つあります。

メディア運営者を悩ます「広告」と「収入」

1点目は「広告」について。

広告を受けるメリットは収入が得られますが、収入を得られる一方で、掲載内容は必ずしも自分の書きたいことが書けるわけではありません。雑誌が売れず、Webにコンテンツ掲載がシフトしていくのに、なかなか有料の記事は売れず、広告で収入を得ようとすると、掲載内容に制約を受けてしまう。このジレンマに、どのメディアも悩んでいるような気がします。

それは、ブロガーからメディアを立ち上げて、広告収入を受け付けている人は、どんな人でも同じです。

「売れない」から出来ること

2点目は「雑誌だから出来ること」。高城さんは、本書の冒頭にこう書いています。

デジタルじゃ、絶対にもたらすことができない「体験」を読者に提供したいと考えた。
それが、この紙の判型である。
現在、モバイルと呼ばれる範疇の大型タブレットは、最大12インチほどあり、ノート型と言われるパーソナル・コンピュータは、15インチほどある。
そこで、これらの画面より圧倒的に大きくすることで、モバイルディバイスでは得られない「体験」を感じて欲しいと思った。
米国の雑誌「LIFE」に代表される、かつて世界を沸かせた大型のグラフ誌は、ページをめくるごとに、人々を興奮させる何かがあったのだから。

僕が本書を読み終えて思い出したのは、スタジオジブリが発行する雑誌「熱風」です。

「熱風」は毎月10日に発行されるスタジオジブリの広報誌です。広報誌ということで料金は無料ですが、特定の書店にしかおいてないので、書店が近くにない読者や、確実に手に入れたい読者は、郵送費を払って手に入れます。

ちなみに、2018年3月の特集は「「潮田登久子 ロング・インタビュー 本を撮る」」。本の写真を撮る写真集を作り続けている写真家の特集です。こんな特集、商品の広告が掲載されてるメディアでは作れません。

無料である雑誌を発刊することは、一見手間に思えますし、収益を考えると無駄なことをしているように感じるかもしれません。

しかし、広告でお金をもらわないことによって、対価を得ることを目的にすると作れないコンテンツを作ったり、自分の発信したいコンテンツを、広告主などの制約なく発信出来るというメリットがあります。

そして、発信したコンテンツが良質であれば、必ずコンテンツを支持するフォロワーが現れます。フォロワーの反応から、自分たちが本当に作りたい、対価を得たいコンテンツに反映させていくことが出来ます。

今後、「雑誌が売れない」からこそ、「売れない」という事を逆手にとって、読みたい人だけに読めばよいとばかりに、読み手を選ぶような雑誌が増えてくるのではないかという気がします。

無料の仕事をやったほうがいい

僕は糸井重里さんから「無料の仕事をやったほうがいい」と言われたことがあります。

「無料の仕事」とは、お金をもらってなくてもやりたい仕事なので、言い換えると、自分が本当にやりたいことだと思います。そてひ、お金をもらってないからこそ、自分が言いたいこと、やりたいことが出来るし、「お金をもらってやる仕事」ばかりやっていると、自分の出来ることも限られていってしまいます。

自分がやりたい事でいきなりお金をもらうのは、簡単ではありません。だからこそ、お金をもらわずに続け、続けたことによって価値が上がったら、自然と対価を払ってくれる人がいる。僕は糸井さんのメッセージを、そう受け止めました。

そして、それを20年続けているのが、「ほぼ日刊イトイ新聞」というわけです。糸井重里さんの先見の明には、改めて脱帽です。

もしかしたら、高城さんは「無料の仕事」ではないですが、普段の仕事では出来ないことをやりたくて、この雑誌を作ったのかもしれない。そんな事を考えました。

本書は、メディアを作っている人、広告に携わっている人は、読んで損はないと思います。ぜひ読んでみてください。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

サポートと激励や感想メッセージありがとうございます! サポートで得た収入は、書籍の購入や他の人へのサポート、次回の旅の費用に使わせて頂きます!