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2017年J2第33節 ツエーゲン金沢対名古屋グランパス レビュー「個人戦術を活かすチームの戦術はどこにいった?」

2017年J2第33節、ツエーゲン金沢対名古屋グランパスは1-3でツエーゲン金沢が勝ちました。ツエーゲン金沢としては狙い通りの試合だったと思います。素晴らしいサッカーを披露しました。

この試合を分析するに当たって、サッカーの「戦略」「プレーモデル」「戦術」を整理したいと思います。「戦略」「プレーモデル」「戦術」の定義は、アヤックスのワールドコーチングコンサルタントとして、外国のサッカー協会やクラブとのパートナーシップ下での活動や選手のスカウティングを担当し、オランダ代表U–13・14・15Futureチームの専属アナリストを務めている白井裕之さんの著書「怒鳴るだけのざんねんコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」に紹介されている内容に基づいています。

サッカーにおける「戦略」「プレーモデル」「戦術」

サッカーにおける「戦略」とは、「勝つために採用するプレースタイル」の事です。ボールを支配し、パスを回しながらゴールに迫るポジショナブルプレーを選択するのか、相手に攻撃させて、より直接的にゴールに向かうダイレクトプレーを選択するのか、主に2つに別れます。名古屋グランパスが採用しているプレースタイルは前者です。

サッカーにおけるプレーモデルとは、チームとして勝つために実践する方法の事を指します。ちなみにアヤックスでは、ゴールを挙げるという目的を達成するために、以下の8つの原則が設けられています。

1.パスの優先順位(横パスより、縦パス)
2.3秒以内の攻守の切り替え
3.スペースを作り出す
4.3人目の動きを作り出す
5.数的優位な状況を作り出す
6.1対1の状況を作り出す
7.先を予測した守備をする
8.守備の際に、コンパクトにポジションを取る

名古屋グランパスの原則は公開されていませんが、風間監督の発言と照らし合わせると、上記とあまり変わらないと思います。

そして、戦術とは「対戦相手を想定してゲームにアジャストする方法」です。この定義に照らし合わせると、よく「戦術」として議論されるフォーメーション(オランダでは、「チームオーガニゼーション」というそうです。)は、チームの攻撃、守備におけるやるべき事を達成するための配置であり、戦術の一部であることがわかります。ただ、フォーメーションと配置された選手の特徴によって、チームがどんな戦略とプレーモデルを実現させようとしているのかは、ある程度読み取る事が出来ます。

たまに攻撃や守備の時にフォーメーションを崩すチームがあります。右サイドの選手が左サイドに移ったり、右サイドの選手が左サイドに移ったりすることがありますが、チームとして意図した行動ではなく、選手がただ「ボールの近くでプレーしたい」というだけであれば、止めさせるのが賢明です。なぜなら、フォーメーションを崩すことによって、数的優位を作る事もありますが、ボールを奪われた時のリスクも高いからです。

長々とわざわざサッカーの「戦略」「プレーモデル」「戦術」の定義を説明したのはなぜか。

それは、この試合の名古屋グランパスの敗因が「戦術がきちんと実行されていない」からです。

「戦術がきちんと実行されていない」ように見えた理由

戦略とプレーモデルは決まっており、選手の理解度は高まっています。しかし、実際の試合でフォーメーションに基いて配置された選手は、「対戦相手を想定してゲームにアジャストしている」ようには見えませんでした。そして、それは選手にチームとして戦術を授けられていない監督の問題もあると思いました。

「戦術がきちんと実行されていない」ように見えた理由は、3点あります。

1つ目は、相手陣内にボールを運べなかった事です。ツエーゲン金沢は4-4-2のフォーメーションで守りました。名古屋グランパスの攻撃時のフォーメーションは、3-4-3。ツエーゲン金沢のFW2人に対して、名古屋グランパスのDFは3人。本来なら数的優位なので、素早くパス交換してフリーになった選手がボールを運べば、ハーフラインを超えるまではスムーズにボールを相手陣内に運べたはずです。ところが、名古屋グランパスはこの数的優位を活かせません。その理由は、DF3人の距離が近いため、相手FWを外したと思ってもすぐに距離を詰められてしまったからでもありますし、そもそもパススピードが遅かったからです。特に櫛引とイム・スンギョムの2人はボールを正確に止められないため、ツエーゲン金沢のFWに距離を詰められて、せっかく相手を外したアドバンテージを何度も失い、ボールを失う原因になっていました。

2つ目は、相手の攻撃を受けた時の備えが全く出来ていなかった事です。この試合ではDFの宮原、イム、櫛引が相手ペナルティーエリア付近まで走り込んでパスを受けようする場面が、何度も見られました。ところが、DFの選手が相手ペナルティーエリア付近まで侵入しているということは、ボールを奪われた時、守備をする選手の人数が少ないということでもあります。DFが相手ペナルティーエリア付近まで侵入するなら、MFの1人が下るといった対応をすることがあり、名古屋グランパスではこれまで小林が担っていたのですが、この試合で中央のMFを担当した田口と和泉は2人ともペナルティーエリア付近まで移動してしまい、守備の時に相手の攻撃を遅らせるような位置に立っている事はほとんどありませんでした。

そして、3つ目。これが一番気になったのですが、フォーメーション通りに選手がプレーしていない事です。攻撃時に宮原や櫛引が相手ペナルティーエリア付近まで走り込むだけでなく、右MFの青木は中央に動き、FWのガブリエル・シャビエルは左右に動いてボールを受ける。これらの動きは上手くいけば相手を混乱させる事が出来ますが、もし選手のその場の考えだけで実践しているのであれば、それはチームとして選手にプレーすべき場所と役割をきちんと提示出来ていないという事を意味します。フォーメーションが決められているという事は、攻撃時、守備時に選手それぞれの場所で、やるべき事があるからフォーメーションがあるのです。やるべき事が決まっていないのであれば、フォーメーションなんていりません。フォーメーションを外れてプレーする選手が多く、フォーメーションを外れた選手がいてもカバーするような動きをする選手がいないということは、チームとしてやるべきことが明確になっておらず、選手の直感任せになってしまっています。

チームとして選手を活かす戦術が採用されていない

これは、風間監督が語る「個人戦術」とは違います。風間監督が語る個人戦術とは、「選手が問題を解決するための術」を指します。選手が問題を解決する技術を高めることで、名古屋グランパスはチームのレベルを上げてきました。しかし、この試合を見ていると、個人戦術を勘違いし、チームとしてやるべき事をやらずに、自分がやりたい事だけやっている選手が少なからずいるように思えます。

また、現状を打開しようと選択したプレーが、後々のプレーに対するリスクになり得る事を想定せずにプレーし、大きなピンチを呼んでいる場面がありました。ただ、こうなってしまったのは監督の責任です。この試合は杉森を左MFで起用しましたが、杉森はシーズン通して追いかけていて分かりましたが、そこまで何でも出来る起用な選手ではありません。もうシーズン終盤なのですがから、選手の特徴を見極め、試合に勝つためにゲームにアジャストする方法は他にもあったと思います。

今の名古屋グランパスは、戦略とプレーモデルは理解できますが、戦術がきちんと落とし込まれていません。この試合であれば、相手の戦い方は分かっていたのですから、ワシントンや内田を起用し、守備に割く人数を増やしておいた上で、相手が疲労で動けなくなったら、シモビッチ、押谷といった選手を投入して仕留める。こんな戦術もあったはずです。しかし、風間監督はただ選手を並べて、プレーさせただけに見えます。チームを勝たせるという目的に対して、あまりにも無策に見えてしまいました。

残り9試合で求められる「勝つための戦術を正しく選択して実行すること」

残り9試合で出来るだけ勝つ確率を高めるにはどうしたらよいか。戦略とプレーモデルを変える必要はありません。問題は勝つための戦術を正しく選択して実行することです。これまでの試合は、チームを成長させるために、戦略とプレーモデルと個人の技術で押し切るような試合をしても勝つ事が出来ました。しかし、残り9試合はそうはいきません。相手はセットプレーも研究し、名古屋グランパスの選手をフリーにはさせてくれないでしょう。名古屋グランパスの攻撃を止めるために、今日のツエーゲン金沢や前節の大分トリニータや前々節の水戸ホーリーホックのように、ボールを上手く運ばれないように守備をしてくるでしょう。

では、どうすればよいか。名古屋グランパスには、他のチームにはないアドバンテージがあります。それは、選手の力です。選手交代含めた14人だけでなく、チーム全体の選手の能力は、どのチームにも劣っていません。あとは、監督が「対戦相手を想定してゲームにアジャストする」方法をきちんと試合に向けて準備し、落とし込む必要があります。前節、そしてこの試合と、試合2日前までは4-3-3で練習していたにもかかわらず、試合2日前になって3-4-3に変更していることは、試合の準備が上手くいっていないという事を現しています。

残り9試合は、1点の重みが今まで以上に重くなると思います。勝つために、出来るだけボールを保持し、より多くのゴールを奪うことを目指してきたチームですが、僕はボールを相手に「与えない」という事を重視して、選手やフォーメーションを選んでも良いと思います。内田、ワシントン、酒井といった選手の力が必要な気がしますし、他の選手のために走ってくれる押谷のような選手の存在が重要になる気がします。ガブリエル・シャビエルは中央でプレーさせて、守備時に場所が空かないようにしても良いと思います。

選手はいます。あとは監督がやるかどうか、です。

「どう勝つか」を重視して戦ってきたチームは、「何が何でも勝つ」事を求められる状況に追い込まれました。変わるのか、変わらないのか。変えるべき点と、変えてはいけない点。チームとして正念場にどのように向き合い、対応していくのか。天皇杯の試合もあるため、チームとしては楽な状況ではありませんが、試合があることで思い切って何か試してくるかもしれません。引き続き注目したいと思います。

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