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書評「極夜行」(角幡唯介)

Yamap春山さんにご紹介頂いたので、なんとなく読み始めたのですが、これが面白かった。本を読み終えて興奮したのは、久しぶりかもしれない。そのくらい凄い作品でした。

地球最北端の地、北極。北極圏では何日も太陽が沈まない「白夜」があることが知られているけれど、白夜とは逆に、太陽光が何カ月も届かない「極夜」という期間があることは、白夜に比べたら知られていない。そんな「極夜」の中を、約4カ月間ひとり+犬1匹で探検した冒険家がいます。

本書「極夜行」は、そんな「極夜」を探検した冒険家の軌跡と、暗闇の中で体験した心の内を丹念に記録した、極上のノンフィクションです。

2000年代の冒険家は何をすべきなのか

現代における冒険家は、難しい立場にあります。かつては新大陸を見つけたり、誰も登ったことがない頂きに登れば、冒険家として評価された。ところがテクノロジーが発達し、地球上で未知や未踏の場所は、限りなく少なくなってしまった。2000年代の冒険家は何をすべきなのか、何を伝えるべきなのか。そのことを著者は本書を通じて問いかけているように感じます。

現代のシステムが届かない場所「極夜」

本書における著者の答えは、「現代のシステムが届かない場所に身を置く」という冒険を選択することでした。

人は光が見えれば、光の射す方へと歩いていけます。でも、暗闇の中では、何を頼りに歩いていけばよいのか分かりません。GPSもなく、コンパスを使って、北極星やかすかな月明かりを頼りに、迷いながら、もがきながら進む様子は、先が見えない現代の社会にも通じるような気がして、中盤から後半にかけて、どんどん物語の世界に、暗闇の世界に引き込まれていきます。そう、本書で描かれている「暗闇の世界」とは、現代社会のことでもあるのです。

圧倒的なリアリティをもって描かれる「生と死」

本書の後半に描かれている暗闇の世界から戻ろうとする著者が、自らの「生と死」について考えた文章が生々しく、ゾクゾクさせられます。特に、旅をともにした犬を自分の命のために犠牲にするかどうか悩む著者の言葉は、極限状態だからこそ描かれる人間の本能と残酷さを浮き彫りにしています。

そして、生と死の間をかろうじて生き抜いた著者が、四ヶ月ぶりに太陽を見た時に感じたことは、普段の生活で忘れている「生きる」ということはどういうことなのか、生命の誕生とはどういうことなのか、考えさせられます。

暗闇の世界、つまりは現代の社会で生きるということはどういうことなのか。本書は圧倒的なリアリティをもって、読者に問いかけてきます。中盤から後半にかけての描写は圧倒的で、近年読んだ本の中でも格別に読み応えがある本でした。ぜひ多くの人に読んでもらいたい書籍です。


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