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2017年J2第37節 名古屋グランパス対湘南ベルマーレ レビュー「杉森の守備から伝わってきた勝利への意欲」

2017年J2第37節、名古屋グランパス対湘南ベルマーレは3-2で名古屋グランパスが勝ちました。

プレビューにも書きましたが、湘南ベルマーレの強みは、セットプレーと守備です。セットプレー関連の得点が、総得点の39%を占め、守備のデータを分析すると、シュートを打たれる回数が1試合平均12.4本でリーグ7位。シュートを打たれる数を、攻撃を受ける回数で割った「被チャンス構築率」は9.5%でリーグ6位。そして、シュートを決められる確率を示す「被シュート成功率」は6.0%でリーグ1位。相手に得点を与えず、セットプレーや相手が攻撃に出て来た後に、ボールを奪い、相手の守備が整う前に攻撃して得点を奪い、勝利してきたチームなのです。

一方、名古屋グランパスは、シュート成功率が13.9%でリーグ1位。データ通りなら、名古屋グランパスの1試合平均のシュート数が13.9本なので、普段通りなら2得点する計算になりますが、湘南ベルマーレの守備のデータが優れば、名古屋グランパスは1点取れるか、取れないかという試合になります。J2で最も守備の良いチームと、J2で最も攻撃の良いチームの対戦なので、どちらの武器が勝るのか、今節最も注目された対戦でした。

「出して、受ける」ではなく、「運ぶ」で打開する

前半は湘南ベルマーレのペースで試合が進んでいるように見えました。名古屋グランパスは前半4分に先制し、しばらくは敵陣にボールをスムーズに運んでいましたが、次第に湘南ベルマーレの守備に捕まるようになってしまいます。

湘南ベルマーレは、守備時は5-4-1というフォーメーションで臨みました。特にFWのムルジャは、名古屋グランパスのDFがボールを持ったら、素早く距離を詰め、ボールを奪おうと試みるなど、90分もたせることなど考えてないのではないかというくらい、素早く、強く、ボールを奪いにきました。田口や小林がボールを持てば、背後から山田と菊池が、前からは石川と秋野が素早く距離を詰め、ボールを奪おうと試みます。

名古屋グランパスとしては、中央から攻撃を仕掛けたいのですが、相手の守備の速さと強さに、何度かボールを奪われてしまいます。特に前半は田口が相手に捕まってしまい、普段の試合で披露するような正確なプレーが出来ません。ボールも上手く止まらず、普段以上にボール扱いに気を遣い、プレーが少しだけ遅くなっている事を、湘南ベルマーレの守備は見逃してくれませんでした。前半はガブリエル・シャビエルがボールを受ける回数が少なかったのは、田口のプレーが上手くいかなかった事も要因だと思います。

また、この試合は雨が降る中で行われましたが、パロマ瑞穂スタジアムのグラウンドは、水溜りが出来るほどではないものの、雨で芝生が寝てしまい、ボールが止まりやすくなっているように見えました。晴れている日のグラウンドなら、ボールが動くように水をまいて、「出して、受ける」を繰り返すのですが、前半は普段通りのテンポで「出して、受ける」という動きが出来ませんでした。

しかし、名古屋グランパスは「出して、受ける」は普段通りのテンポでプレー出来ていませんでしたが、違うプレーで、湘南ベルマーレ陣内にボールを運んでいきます。それは、「ドリブル」です。

玉田のボールを奪われない技術、青木の独特のステップ、宮原のスピード、和泉の分かっていても止められない右から左の切り返しなど、ドリブルで相手の守備をかいくぐり、ボールを運んでいきます。

湘南ベルマーレの守備も、試合開始当初は素早く距離を詰めてボールを奪おうと試みていましたが、ボールが簡単には奪えない事が分かると、少し距離を保って対応するようになります。

また、湘南ベルマーレの選手は、奪いに行って抜かれた後に、再びボールを奪おうと追いかけますが、抜かれた後に再び追いかけるのは、身体にも、頭にも、負担がかかります。「出して、受ける」で相手を疲れさせる事は出来ませんでしたが、「運ぶ」事で相手を動かしていた事が、後半の両チームの戦いに大きく影響しました。湘南ベルマーレは、リードしていたものの体力を消耗させられ、名古屋グランパスはリードされていたものの、相手に体力を消耗させる事に成功していたのです。

こうした「運ぶ」プレーで、相手の守備を崩すのが上手いチームがリーガ・エスパニョーラには多いのですが、最も上手いのはレアル・マドリーです。左DFのマルセロ、中央のDFのセルヒオ・ラモス、右DFのカルバハル、そしてMFのモドリッチとイスコなどの選手は、相手がパスコースを塞いでいると感じたら、ドリブルを使って相手の守備をかいくぐり、相手陣内にボールを運んでいきます。「出して、受ける」だけでは相手の守備は崩せません。「運ぶ」プレーも大切なのです。この試合は、特に「運ぶ」プレーが効果的でした。

後半に名古屋グランパスが変更したこと

後半に名古屋グランパスは、佐藤に代わってシモビッチを入れます。この交代によって、試合は名古屋グランパスのペースで進むようになります。

湘南ベルマーレの守備の強さを支えているのは、チーム全員のボールを奪う技術も要因ですが、DFにアンドレ・バイアという選手がいることも要因です。動くスピードは早くありませんが、次に何が起こるのかという予測に長け、ヘディングも強く、シュートブロックも巧みな選手です。そして、何より他の守備者がミスをしても、カバーしてしまう程、守備の技術に長けた選手です。前半の名古屋グランパスは、アンドレ・バイアが守る場所を上手く攻略出来ませんでした。

しかし、シモビッチを入れ、アンドレ・バイアが守る場所を攻撃させます。そして、シモビッチにアンドレ・バイアをマークさせ、引きつけて他の選手のカバーをさせず、他の守備者が守る場所を攻撃する事で、湘南ベルマーレの守備の強さを出させないようにしようと考えたのだと思います。前半に比べて、青木、玉田、宮原、和泉のドリブルが活きるようになり、左MFに移って相手の守備から少しだけ解放されたガブリエル・シャビエルがボールを受けられるようになり、少しずつ名古屋グランパスが湘南ベルマーレ陣内でボールを保持する時間が増えていきました。

また、シモビッチの交代以外にも、前半と比較して変えた点がありました。

それは、田口と小林の役割です。普段は攻撃時に田口がFWの近くで、小林はDFの近くでプレーするのですが、後半は田口がDFの近くで、小林がFWの近くでプレーするように、役割を変えました。他の試合でも、試合中にたまに役割を変えている事がありましたが、この試合の後半では、ずっと田口が後ろで、小林が前でプレーしていました。たぶん、田口はボールが上手く止められないので、楽にボールが受けられるDF近くでプレーさせようという意図があったのだと思います。そして、DF近くの方が、ボールに何度も触れます。ボールに何度も触れると、次第にボールが上手く止まるようになる事があります。つまり、田口のポジションを変えることで、試合中にプレーを修正するチャンスを与えたというわけです。そんな、監督の意図を汲み取り、きちんとプレーを修正したみせた田口はさすがです。

中央を攻撃しなかった名古屋グランパス

名古屋グランパスがシモビッチと玉田の得点で逆転した後に、湘南ベルマーレは後半16分に藤田に代わって松田を入れて、フォーメーションを4-5-1に変更します。5人のMFは、前に山田と松田、後ろに菊池、秋野、石川が並びました。意図としては、名古屋グランパスの中央の攻撃を3人のMFで抑え、素早く相手陣内にボールを運ぼうという狙いだったのだと思います。しかし、この狙いは上手くいきませんでした。名古屋グランパスは、中央からの攻撃にこだわらず、サイドの青木、宮原、和泉といった選手たちが、ドリブルでボールを運び続けます。湘南ベルマーレが中央を守る人数を増やしたため、サイドの選手たちはより楽にボールが運べるようになりました。

湘南ベルマーレの曺監督は「名古屋グランパスは時間が経つにつれて、中央から攻撃してくるのではないか」と考えていたのだと思いますが、名古屋グランパスの選手たちは、相手の守備を見極めて、空いているサイドからボールを運び続けました。曺監督が「名古屋グランパスが普段と違った」と記者会見で語っていたのは、ここまでサイドからボールを運んでくるとは思っていなかったのではないかと、僕は感じました。

杉森の守備から感じられた、チームの勝ちたい気持ち

名古屋グランパスも簡単に勝てたわけではありません。後半26分にガブリエル・シャビエルが負傷交代し、杉森が入ります。ガブリエル・シャビエルが交代し、湘南ベルマーレのペースになってしまうのではないかと思いましたが、杉森のプレーが素晴らしかった!特に素晴らしかったのは、守備です。素早く距離を詰め、相手にかわされてもしつこく追いかける。この守備によって、湘南ベルマーレにとって、相手陣内にボールを運ぶ事を難しくさせました。特に、杉森がボールを追いかけているとき、他の選手が連動して動いていないと見るや、右手で味方にもっと前に来るように促したシーンは、思わず鳥肌が立ちました。

杉森は普段は淡々とプレーするタイプの選手で、声やアクションで味方を鼓舞する仕草や、指示する選手ではありません。だからこそ、右手で味方を促したシーンからは、杉森のこの試合に勝ちたいという強い気持ちが、いつも以上に伝わってきたのだと思います。

シーズン当初の名古屋グランパスは、負けている試合にもかかわらず、選手同士で会話して意志を伝える、身振り手振りで意志を伝えるといった、コミュニケーションが少ないと感じる場面がありました。したがって、淡々と試合して、淡々と負けている。そう感じる試合もありました。

しかし、この試合は違いました。田口や小林は身振り手振りを交えてチームを鼓舞し、和泉や宮原も周りの選手の声をかけ、櫛引とワシントンは首を振り続けお互いのポジションを頻繁に確認し合いながら、湘南ベルマーレの攻撃を跳ね返し続けました。明らかにシーズン序盤に比べると、お互いのプレーに対する理解が高まり、そして、「勝ちたい」という意欲が、味方に対するコミュニケーションのアクションを増やしていました。

歯を食いしばって頑張るだけが、頑張る事ではありません。スライディングタックルをするから、サポーターに気持ちが伝わるわけではありません。杉森は「連続してアクションを起こす」事で、観ている人に「勝ちたい」という気持ちを伝えていました。素晴らしいプレーだったと思います。

風間監督は、試合終盤にタッチライン際からベンチに戻ってくる時、「このままで」と口が動かしたように感じました。1人選手交代枠を残していましたが、選手同士のコミュニケーションも円滑で、このまま勝てる。そう感じたのだと思います。今シーズン我慢して試合を観続けてきた人にとっては、チームの成長が感じられた試合だと思います。

ただ、まだJ1昇格が決まったわけではありません。自動昇格が出来る2位アビスパ福岡との勝ち点差は3。直接対決はありませんので、名古屋グランパスは勝ち続けるしかありません。次節は4位のV・ファーレン長崎とのアウェーゲーム。簡単な試合にはならないはずです。ましてや、怪我をしたガブリエル・シャビエルの出場も怪しい状況とあれば、楽観視は出来ません。

残り試合は5試合。J1昇格を目指したトーナメント戦を戦っているとしたら、これからが本番です。3歩進んで2歩下がるように、少しずつ成長し続けているチームが、どのような試合をするのか楽しみです。

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