2017年J1第13節 川崎フロンターレ対浦和レッズ レビュー「守備を重視したことで消えてしまった浦和レッズの陰のキーマン」
2017年Jリーグ第13節、川崎フロンターレ対浦和レッズは4-1で川崎フロンターレが勝ちました。
前半の浦和レッズは、普段と違うフォーメーションを採用しました。浦和レッズが採用したフォーメーションは、4-3-1-2。DFは右から森脇、遠藤、槙野、宇賀神。MFは右から駒井、阿部、関根が並び、阿部の前に柏木が位置取ります。FWはラファエル・シルバと興梠。普段は守備の時は5-4-1、攻撃の時は4-1-5というフォーメーションで戦うチームが、なぜフォーメーションを変えてきたのか。要因は失点が多いので、相手の長所にあわせることで、失点を減らしたかったからです。
浦和レッズの守り方
浦和レッズは、守備の時にFWの2人が、谷口、エドゥアルド、エドゥアルド・ネットに対応し、柏木が大島をマークし、阿部が主に中村をマークします。駒井と関根は車屋とエウシーニョをマークし、森脇と宇賀神が登里と小林をマークします。浦和レッズが4-3-1-2を採用したのは、川崎フロンターレが中央のエリアを攻略し、攻撃を仕掛けてくるチームだからです。
「3」のポジションの選手に中央のエリアを守らせ、ボールを敵陣に運ぶ役割を担っている大島に柏木をぶつけ、中央からボールを運ばせないようにしたかったのだと思います。
この守備はガンバ大阪が第16節で採用し、ある程度成功しました。しかし、この守備には欠点もあります。「3」の選手でフィールドの横幅をカバーしなければならないので、左右に素早く移動して中央へのパスコースを埋める必要があり、運動量と素早く移動するスピード、そして素早く最適な場所に移動し続ける判断の速さが求められます。普段の浦和レッズの守備は、そこまでパスコースを常に限定し続ける守備を求められているわけではないので、選手には普段と違う守り方が求められました。しかし、浦和レッズの選手は上手く対応出来ませんでした。
川崎フロンターレの対応
川崎フロンターレは浦和レッズのフォーメーションが普段と違っていたので、試合開始当初は戸惑っていましたが、前半10分以降は中央を無理して攻撃せずに、サイドにボールを集める事で、相手陣内にボールを運びます。大島が柏木を引きつけ、中村は阿部とDFの間に移動し、阿部と柏木の間にスペースを作ります。空いているスペースで阿部や登里がボールを受け、ボールを相手陣内に運んでいきます。
また、サイドバックの車屋とエウシーニョは、関根と駒井を牽制するため、わざとFWと同じ位置まで上がりません。サイドバックの位置が気になる駒井と関根は、2人をマークするためサイドに移動してしまい、中央のスペースがより大きく広がってしまいました。
中央のエリアを空けてしまった浦和レッズ
浦和レッズは直近の5試合で13失点を喫しています。プレビューでも紹介しましたが、浦和レッズは、相手の攻撃を受ける回数は118.0回でリーグ2位、シュートを打たれる数は10.9本でリーグ1位と、攻撃を受ける回数もシュートを打たれる回数も少ないのですが、シュートを決められる確率を示す「シュート成功率」は14.3%でリーグ16位と、シュートを打たれたら高い確率で決められてしまうため、失点が増えています。
シュートを打たれたら高い確率で決められてしまうチームは、DFが守るエリアの前にスペースが出来ていて、相手にフリーでシュートを打たれる傾向があります。DFの前でゴール方向を向いてボールを持たれたら、高い確率でシュートを打たれたり、よりフリーな選手に対してパスを出されてしまいます。
本来中央のエリアをカバーするのは阿部の役割なのですが、阿部が他の選手の位置取りによって、カバーする範囲が増えてしまい、肝心の中央のエリアを守り切れないことがあります。そのため、中央を守る遠藤と槙野は相手選手をフリーな状態で迎えうつ事になってしまい、結果的に成功率の高いシュートを打たれてしまうという事象が起きてしまいました。浦和レッズの2失点は、守るべき中央のスペースへのカバーが遅れたことが要因で起きた失点でした。
守備を重視したことで攻撃が機能しなくなった浦和レッズ
浦和レッズは4-3-1-2を採用したことで、本来強みである攻撃も機能しなくなってしまいました。この試合では、遠藤、阿部、槙野の3人でパス交換しながら、相手ゴール方向にボールを運びたいのですが、なかなか相手ゴール方向にボールを運べません。ボールを運べなかったのは、普段中央エリアでボールを受ける役割を担う選手がいなかったからです。
普段なら攻撃時の4-1-5の「5」のポジションのうち、2人がFWの位置から下がってきて、ボールを受ける動きをします。ところが、この試合はその役割をする選手がいません。4-3-1-2の「3」を務める、駒井と関根は普段はサイドでプレーしているので、下がってボールを受ける動きは得意ではありません。そして、2人ともサイドでパスを受けようとするので、サイドバックの森脇と宇賀神と受けたい場所が重なってしまい、パスコースを自ら消してしまう事になってしまいました。もちろん、川崎フロンターレの阿部と中村のパスコースを消す守備も素晴らしかったのですが、前半の浦和レッズは、11対9で戦っていたようなものです。相手ゴール方向にボールが運べるわけがありません。
浦和レッズの陰のキーマンは森脇
後半の浦和レッズは、宇賀神に代わって武藤を入れて、攻撃時は4-1-5、守備時は5-4-1というフォーメーションに変更します。この変更によって見違えるようなプレーを披露したのが森脇です。
僕は浦和レッズが目指すサッカーを実現させる上でのキーマンは、阿部、興梠、そして森脇だと思っています。なぜ、森脇なのか。それは、浦和レッズの攻撃の起点は森脇だからです。森脇はサイドバックとしては、スピードがあるタイプではありませんし、上下動出来る体力もある方でもありません。スピードがないので、守備時に相手がドリブルで仕掛けてきた時の対応が上手い選手でもありません。しかし、森脇は他の選手にはない強みがあります。それは、攻撃時のドリブル、パスで、相手の守備を崩すプレーが出来る事です。
森脇の強みは、相手の間を正確に通すパスと、相手を引きつけることが出来るボールを運ぶプレーです。キックが上手く、特に低くて強い右足のパスは正確です。森脇の右足のパスが相手の守備者の間を通り、相手の守備を崩すというプレーを何度も見てきました。
また、スピードはないのですが、空いている場所をみつけてボールを運ぶのが上手く、ボールを奪えると思った守備者がポジションを崩して奪いにきた瞬間、素早く味方の選手にパスを通し、パスを受けた味方がフリーでボールを受け、相手の守備を崩す。そんなプレーを何度も見てきました。このようなプレーは、浦和レッズでは森脇しか出来ません。Jリーグでも他に同じようなプレーが出来るのは、鹿島アントラーズの西くらいです。
「なぜ、森脇が起用されるのか」と思うかもしれませんが、数的優位を上手く活かして相手陣内にボールを運びたい浦和レッズにとって、森脇は欠かせない選手なのです。
阿部に森脇をマークさせて相手の攻め手を奪う
森脇がボールを受ける回数が増えたことで、駒井と武藤が相手ゴール方向に向ってプレーする機会が増えていきます。また、森脇は守備時に思い切って前に出て対面の長谷川に対応することで、川崎フロンターレが前半ボールを受ける場所として活用していた中央のスペースを活用させません。また、DFが5人になったことで、遠藤、阿部といった選手も思い切って川崎フロンターレの選手に対してボールを奪いにいけるようになりました。したがって、徐々に浦和レッズペースになっていきます。
しかし、川崎フロンターレも浦和レッズの右サイドからの攻撃に対応するため、選手の配置を変えます。阿部を左サイドに移動させ、長谷川を中央に移します。その後、長谷川と小林の位置も入れ替えるのですが、阿部を左サイドに移動させる事で抑えたかったのは、森脇から駒井に対するパスコースを消し、阿部と車屋で駒井に対応させる事で、浦和レッズの攻撃を抑えようという事だったと思います。
阿部が上手く対応してくれたので、次第に浦和レッズの右サイドの攻撃は機能しなくなりました。この対応は、僕が鹿島アントラーズと戦う時に、鹿島アントラーズのキーマンである西を消す対策として提案した方法なのですが、西と同じくらい厄介な森脇相手に、阿部が十分対応出来る事を証明してくれました。これで、鹿島アントラーズと次に戦う時に、同じ対応が出来ます。そういう意味でもよいテストになったと思います。
疲れているときこそ試合をコントロール出来るか
川崎フロンターレは、先制点を奪うことが出来たので、攻撃のテンポを上げず、人数をかけずに攻撃せず、失点のリスクを最小限にして90分プレーしているように感じました。攻撃のテンポについては、谷口、大島、阿部といった選手が、ボールを運ぶスピードをコントロールすることで、上手く強弱をつけていました。
特に大島は、攻撃のテンポのコントロールが本当に上手くなりました。いつ、どこで、なにをすればよいか。プレーの判断にミスがないし、自分の判断1つでチーム全体を上手く動かす術も身につけつつあります。中村を途中交代させてもチームが機能するのは、大島が上手く試合をコントロールしてくれるようになったのも要因です。
ただ、次の試合の事を考えると楽観視出来ません。次は中2日でアウェーのサガン鳥栖戦。サガン鳥栖とのアウェーは苦手としているだけでなく、毎年暑い夏に試合が組まれ、簡単な試合にはなりません。
サガン鳥栖の守備は洗練されており、中央のスペースを簡単に空けてくれるとは思いません。相手は中5日で休養十分。2017年シーズンで川崎フロンターレが負けている試合は、いずれもアウェーでACL空けの試合だと考えると、次の試合は苦戦が予想されます。ボールを保持する時間も普段より短くなるかもしれませんし、相手にシュートを打たれる場面も増えると思います。
だからこそ、次の試合こそどのように試合をコントロール出来るかが注目です。失点につながるミスを減らし、相手の選択肢を消し、相手に得点を与えず、自分たちがボールを保持した時に効率よく得点を奪う。リーグで優勝するチームは、こうした戦い方が出来るチームです。この試合をきちんと勝ったことで、次の試合が楽しみになりました。
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