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2017年J2第35節 FC岐阜対名古屋グランパス レビュー「譜面がいらないバンドにも最低限のルールはある」

2017年J2第35節、FC岐阜対名古屋グランパスは6-2で名古屋グランパスが勝ちました。

この試合の勝敗を分けたポイントは、前半25分過ぎに名古屋グランパスが行ったポジションチェンジでした。

前半25分過ぎに、名古屋グランパスはFWの佐藤を左MFに、左MFのガブリエル・シャビエルをFWに移します。このポジションチェンジを行った理由は、守るべき場所を空けないようにしたかったからです。

ガブリエル・シャビエルは、ボールを持った時のプレーは何も言うことがありません。「止める」「受ける」「外す」「運ぶ」すべてのプレーのレベルが高く、足も速く、ミスをしません。そして、何より凄いのは、自分勝手にプレーするのではなく、状況に応じて、最善のプレーを選択出来る事です。こんな選手はなかなかいません。

しかし、どんな選手にも欠点があるように、ガブリエル・シャビエルにも欠点はあります。

ガブリエル・シャビエルの欠点

それは、ボールを欲しがるあまり、自分が担当している場所を外れてしまう事がある事です。

前回のレビューでも書きましたが、加入当初は右サイドでプレーしていましたが、コンディションが上がってくると、時には中央に移動し、時には左サイドまで移動するようになりました。

ガブリエル・シャビエルが左サイドにいるということは、本来ガブリエル・シャビエルがいるべき場所には、誰もいないという事です。したがって、左サイドから右サイドにボールを運んでも、選手が少ないため攻撃が出来ず、やり直しを迫られるという場面がありました。せっかくのチャンスを自ら潰してしまっていたのです。

ガブリエル・シャビエルの自分が担当するエリアを外れてしまうというデメリットが顕著になるのは守備の時です。ガブリエル・シャビエルが本来担当する場所にいないという事は、そのエリアは、誰もいないため、相手にとっては攻撃すべき場所であるという事を意味します。ガブリエル・シャビエルがいない場所からボールを運ばれて、相手にチャンスを与えるという場面が何度もありました。

そして、ガブリエル・シャビエルという選手は、ボールが自分の近くにある時は、パスを出したい場所を消し、相手から上手くボールを奪うのが上手い選手なので、多くの人は、「守備が上手い」という印象を受けます。しかし、それは「ボールが自分の近くにある時」の話です。ガブリエル・シャビエルの欠点は、守備の時に自分が戻るべき場所に戻るのが遅い事です。ジョギングで戻れば良い方で、歩いて戻っている事もあります。

風間監督が、ガブリエル・シャビエルの欠点を分かっていないはずがありません。最近の練習では「ボールを奪われたら、素早く守るべき場所に戻る」「歩くのではなく、ジョギングで移動」といった指示をしているという記事を目にしましたが、他の選手にも当てはまる課題でもありますが、ガブリエル・シャビエルに対する指摘でもあると、僕は感じていました。

この試合では、FC岐阜には大本というボールを運ぶのが上手い右サイドバックがいました。大本にはガブリエル・シャビエルが対応したいたのですが、時間が経つにつれて、守るべき場所に戻るのが遅くなり、次第に大本が楽にボールを持てるようになります。FC岐阜の1点目は、ガブリエル・シャビエルが戻るのが遅くなった事も要因だと思います。

そこで、風間監督は佐藤とガブリエル・シャビエルのポジションを変更します。このポジションチェンジによって、佐藤が左MFに入ります。佐藤はガブリエル・シャビエルに比べたら、担当する場所を外れる事もないし、守備の時も忠実に相手についていきます。佐藤本人は葛藤があるのかもしれませんが、佐藤が入ってから、FC岐阜の右サイドからの攻撃回数が減りました。このポジションチェンジの直後、田口の同点ゴールが生まれ、ガブリエル・シャビエルの逆転ゴールの後は、優位に試合を進める事が出来ました。

永井を中央からサイドに移す事でプレーしやすくする

この試合で風間監督は、ガブリエル・シャビエルのポジションを再び左MFに移しています。5-2になった後、風間監督は佐藤に代わって左MFに入った永井とガブリエル・シャビエルのポジションを変更します。このポジションチェンジの意図は、永井が上手く動けていない事が要因でした。

永井はサイドでプレーする時、タッチラインに背を向けるのではなく、タッチライン側を向いてプレーする事や、相手を背中で背負ってボールを受けようとしてしまいます。背後にタッチラインがあるので、タッチラインを味方につけて、前だけを見て、相手の守備を外せば良いと思うのですが、どうしても上手くいきません。

風間監督が永井をサイドで起用する理由は、サイドなら目の前の守備者だけ相手にすれば良いので、目の前の守備者を外す感覚を身に着け、将来は中央でプレー出来る選手になって欲しいという考えがあるのだと思います。しかし、この試合ではあまりにも永井が上手くプレー出来ないので、ポジションを中央に代え、結果的には6点目を奪う事が出来ました。

個人の力を合わせて組織を作る

風間監督は、攻撃時に右サイドの選手が左サイドに移動するような、横のポジション移動を嫌う監督です。プレーの一つ一つに口出しはしないけど、自分が担当する場所は守って欲しいし、守った上で結果出すのがプロだろう。そんな考えがあるのだと思います。

この試合のプレビューで、僕は「風間監督がやりたいサッカーはジャズのようだ」と書きましたが、ベース担当している人が曲の途中でドラムを叩くような真似は許さないし、ベースがギターのようなフレーズ弾いて、ギターの役割を奪うような事も嫌う監督です(当たり前か)。

チームとしてやりたい事に対して、明確に選手が「やりたい」という動機を持ち、動機を基に実行する。名古屋グランパスというチームは、動機が全員にある事を前提に、実行の質が問われています。もちろん、実行の質は経験や技術によって差が出ますが、まずは選手自身に「動機」があることを求めているチームなのです。

ここまで書いていて、名古屋グランパスというチームが目指している組織に、似ている組織があることを思い出しましたが、その話を書き始めるとレビューではなくなるので、別の機会に書きたいと思います。

個人の裁量を最大化した上で、チームでよい仕事をする組織を作る。J2昇格が義務づけられているシーズンに、風間八宏という監督は、批判という向かい風を存分に受けながら、わざわざこんな難問に取り組んでいます。風間監督にとって「守備の練習をしない」という批判は、「譜面がないサッカーを志向しているのだから、譜面がないのは当たり前だろ」というわけで、別に痛くも痒くもありません。

もしかしたら、風間監督にとって答えるのが難しい質問は、「個人の裁量で仕事をする組織に時間がかかるのはなぜか?」とか、「なんでこんな面倒な方法でチーム作りするのか?」といった質問なのかもしれません。

個人の裁量を最大化した上で、チームでよい仕事をする組織はどうやって作られるのか。名古屋グランパスのサポーターは、そんな組織作りを公に見れるよいチャンスです。残り試合は7試合。シーズンが終わった時、どんなチームが出来上がっているか。楽しみにしたいと思います。

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