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外国人に間違えられる

 2011年4月の日記です。
 
 昨日、映画を見ての帰り、いつもの上野の寿司屋に行き、
カウンターに座って、先ずは酒と鯵のにぎりを注文した。
この店の鯵と鯖は、注文を受けると水槽で泳いでいるのを網ですくい、
暴れているのを抑えつけて捌く、残酷ではあるが、
新鮮そのもので、ぷりんぷりんの絶品。
 
 左隣では、欧米系の外国人が、生ビールを飲みながら
不器用に箸を使って寿司を食べている。
職人がまぐろの卸したての中落ちを彼に勧めているのだが、
話が通じないようで、あいまいに頷き、やや危うい。
助け船を出そうかとも思ったが、
まあ、さしたることもあるまいと、見ぬふりをしていた。
ビールを終えると、熱燗を注文し、一口飲んで、
親指を立ててGoodと言うのは、いかにも社交辞令だ。
 
 と、後ろから中年の女性が英語で声をかけてくる。
隣の外国人に話しかけたのだろうと思ったが、
綺麗な英語に誘われて振り向くと、
なんと、俺に向かって話しているではないか。
細身の上品なしぐさで、冷酒の瓶を差し出してどうぞと言う。
「私は日本人ですよ」と言うと、
「えっ・・・」と驚いてまじまじと俺の顔を見る。
「隣の人は知らない人です。」と彼女に言い、彼には、
「彼女が私とあなたが友人と思ったようだ。」と、英語で説明する。
 
 彼女は、我を取り戻し、こんどは隣人に冷酒を進める。
彼は少し当惑顔だが、職人が持って来たグラスに注がれた酒を飲み、
一応は、うん、うんと頷く。
女性は相手に有無を言わせないように、ぺらぺらと
英語を喋り、半分ほど残った冷酒を置いて、自席に戻った。
 
 以降、彼と話をすると、4日前に初めて日本に来て
今日まで東京、明日は京都で、2日後にオーストラリアに行く、
観光で世界を回っているとか。
暫し雑談するうちに、冷酒を飲んでくれと言うので、
ありがたく頂戴したが、酒はもう一つだった。
 
 
 追:外国人に間違えられたのは、あの時が最初で最後だった。

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