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川越宗一「熱源」

 昨日のリハビリ散歩は、トラック八百屋、そば処満る賀、浜町公園、隅田川、定例のコースだった。その後、夜にかけて川越宗一「熱源」を読み終えた。
 
 「熱源」は2019年の直木賞受賞作品、日露戦争前後からのアイヌなど少数民族が日本やロシア帝国からの民族同化圧力に抗して生き残る様を描いている。多くの物語が錯綜し登場人物が多い。主人公(らしき人)の、ヤヨマネクフとプロニスクワフ・ピウスツキ、を始め、名前を読むだけで苦労する。登場人物がやたら多く、日本人では金田一京助、二葉亭四迷、大隈重信に加えて、南極探検の白瀬中尉まで出てきていくらなんでもやりすぎでは、と思うが、面白いと言えば面白い。流石に直木賞、間違っても芥川賞ではない。
 
 プロニスワフの故国ポーランドはロシア帝国に併合されて国が消滅し、ポーランド語が禁止されている。その彼が東京で伯爵(大隈重信)と会話する場面が今に通じるものがあって面白い。
 
 時は日露戦争に勝利した直後、伯爵は(以下会話部分を転記)
「力が足りぬから、あなたは故郷を失った。そう言っている。これは無くなるかもしれなかった極東の小国で、四十年近く政界をうろついていた老人からの助言だ」・・・・
「弱肉強食の摂理の中で、我々は戦った。あなたたちはどうする」
 プロニスワフは暫く考えて、
「その摂理と闘います。」・・・・
「弱きは食われる。競争のみが生存の手段である。そのような摂理こそが人を滅ぼすのです。だから私は人として、摂理と闘います。人の世界の摂理であれば、人が変えられる。人知を越えた先の摂理なら、文明が我らの手をそこまで伸ばしてくれるでしょう。私は、人には終わりも滅びもないと考えます。だが終わらさねばならぬことがある」
 伯爵は考え込んだが、やがて破顔し、磊落に笑った。
「我らは摂理の中で戦う。あなたはその摂理そのものと闘う。結構けっこう」
 
 今のウクライナ紛争は、ロシア(プーチン)が弱肉強食の摂理で侵攻し、西側諸国がウクライナを援助し、(同じ摂理で)抵抗している。偶にその摂理を越えようと即時停戦を提唱するひとがいるが、机上の空論だ。即時停戦はロシアを利するだけ・・・・だと思う。

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